明日は昨日

そして日曜日 4

作:あゆみ

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目を覚ましたときに未夢と西遠寺彷徨の記憶はきれいに摩り替わっていた。
そもそもこの奇妙な『移動』は未夢を付回していたストーかに対する恐怖が
発端ということになっていた。
西遠寺彷徨は、未夢の相談に乗っていた。

南は、彷徨と犯人との対決のそばを、偶然通りかかり、
犯人が凶器を持っているところに沸いてはいって退治したということになっていた。

西遠寺彷徨が刺されていないという安堵で気を失った未夢。
対決の疲れでしばらく目を閉じていたということに彷徨はなっていた。

今回の事件はすべて、未来、蒼井、時空警察というキーワードを摩り替えて
巧妙に記憶操作が施されていた。

蒼井は南の同業者、時空警察に引き渡された。

二人の記憶の犯人は蒼井でない違う人物になっていた。
それを知っているのは南だけである。



****



「それで、このあとどうするの?」

未夢は、未だ伸びている犯人を見ないようにしながら、南と西遠寺彷徨の双方に尋ねた。
答えたのは南だった。

「とりあえず、親父に電話するよ。すぐ来てくれるだろう。」

そういえば、南の父親は刑事だと西遠寺彷徨がいいていた。

「そうしてくれるか?」

「最初からそのつもりだったくせに、よく言うぜ。まぁ、野放しにしておけないからな。
 とにかく、俺は今から、親父に電話してくる。その間犯人を見ててくれ。
 すぐそこの公衆電話だから目を覚ますようだったら、大声で呼べよ。」

「わかった。」

西遠寺彷徨がうなずくと、南は小走りにかけていった。

「本当に体、大丈夫?」

「ああ。」

西遠寺彷徨は答えたが、苦痛を耐えているのは一目瞭然だった。

「私の肩使って。」

「いいよ。」

「意地張らないで」

「本当に大丈夫だ。そんなことより、君に預けたレコーダーどうなった?」

「あ、いけない。おいてきちゃった」

慌てて飛び出したときに取り落としたままだったのである。

「おいおい・・・」

「ごめん。すぐ持ってくる。」

未夢は急いで茂みのほうに戻り、レコーダーを拾い上げた。
まだ、録音を続けていたので、スイッチを切ってから西遠寺彷徨にわたす。

「ところで、光月。南がいないうちに確認しておきたいんだが、ちゃんと、
 日曜日は全部済ませてきたんだろうな?」

「ええ」

「なら、これでゲームセットだな。君の冒険も、これで終わりだ。」

「本当に?」

「ああ。そもそもの原因をこうしてつぶしたんだ。
 空白も全部うまったし、もう飛ぶべき時間はない。
 あとは、普通どおりに、時間をすごせるはずだ。」

「・・・そう」

「お陰で、俺も、やっと厄介ごとから解放されるわけだ。」

未夢は西遠寺彷徨を見つめた。

これで、終わりなのだろうか。
この奇妙な現象が解決してしまえば、こうして西遠寺彷徨とすごす時間も終わってしまうのだろうか。



*********




しばらくして、南が戻ってきた。

「どうだった?」

「怒られたよ。無茶なことをするなってな。だけど、とにかくきてくれるそうだ。」

「そうか。じゃあ早いところ退散しないとな。」

「おいおい、当事者がいなくなってどうする。」

「頼むよ。警察は苦手だ。」

「俺だって得意なわけじゃない」

「だから頼んでいるんじゃないか」

西遠寺彷徨は左手で拝むような仕草をした。

「おまえから、うまく言っておいてくれよ。できれば俺や光月の名前も出してほしくないんだが・・・」

「・・・」

「まあ、とにかく今日は勘弁してくれ。俺も光月も今は気が高ぶってな。
 事情聴取なんて受けられる状態じゃない。」

その台詞を、いつもどおりの平然さで、西遠寺彷徨は口にした。

「説得力がねえよ。彷徨。」

南は笑った。

「しかし、まあ、確かに、光月さんの方はそだな・・・
 分かった。面倒なことは全部俺がひきうけりゃいいんだろ?」

「すまん。・・ああ、それから」

西遠寺彷徨は例のレコーダーのテープを南に差し出した。

「これを渡しておく。犯人を呼び出したときのやり取りとココでの一部始終を炉根してある。
 親父さんの信用を得るくらいの役には立つだろう。

「分かった。預かるよ。」

まったく、記憶操作をしても油断も隙もない奴だと南は思いながら
テープを受け取りポケットに収めた。

「それじゃ、光月さん。その色男の面倒を見てやってくれ。
 まあ、大丈夫だとは思うけど、一応、腹の手当てもね。
 こいつの家はすぐ近くだからさ。」


「うん。」

未夢がうなずくと、西遠寺彷徨は首を振った。

「イラン。子供じゃないんだ。自分のことくらい自分でできる。」

「ふぅん。そうかい。」

しげしげと西遠寺彷徨を眺めた南は、いきなりぽんと西遠寺彷徨の腹を殴りつけた。
ごく軽い打撃だったが、今の西遠寺彷徨にはたまったものではない。

「ぐっ!」

西遠寺彷徨は息を詰まらせ身を折った。

「南くん!!」

未夢はあわてて、崩れそうになる西遠寺彷徨を支えた。

「やっぱりこいつには、君の助けがいるらしいよ。

南は、未夢に向けて片目をつぶって見せた。

「・・・な・・・んて。。。こと・・・しやがる。」

右手で脇腹を押さえ、西遠寺彷徨はうめいた。

「じゃあ、光月さん。後はよろしく。このバカの言うことは聞かなくていいからね。
 聞き分けないことを言いやがったら、なでてやんな。そうすりゃおとなしくなるから。」

「南・・・お前・・・覚えてろよ・・・」

西遠寺彷徨は南をにらみつけたが、南はどこ吹く風だった。

「ほらほら、ぐずぐずしていると、逃げられなくなるぜ。
 何しろ日本の警察のレスポンスタイムは世界一だからな」


「くそ。」

西遠寺彷徨はそういいながら南に背を向け
二人でゆっくりと歩み始めた。




すると、南の脳は受信を感知した。

「コチラ、司令室。2XXX年、жШЮコード045の状況を説明せよ。」

「こちら、時空警察コードネームminami 無事記憶操作完了。
 現在のところおおむね良好。
 引き続き被験者の観察を続行します。」

「了解。」











(そして日曜日 完)


〜注意〜
この作品は以下の作品をリスペクトし
だぁ!だぁ!だぁ!設定ではどうなるか考えて書いたものとなります。
メディアワークス 
「タイム・リープ・・・あしたはきのう」
著者 高畑京一郎

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