明日は昨日

そして日曜日 1

作:あゆみ

 →(n)



頭が、痛い。
まるで後頭部が割れたようだ。

未夢はうつぶせに倒れていた。

暗い。

気絶でもしていたのか、いつの間にかあたりは真っ暗になっていた。
未夢は体を起こそうとしたが、出来なかった。
頭が割れそうに痛い。

なにか、いる。
激しい痛みの中、誰かが自分の背後にいることを感じた。

頭を抑えながら、ゆっくり。ほんとうにゆっくりではあるが
片ひざをつき、ゆっくりと自分の体を立て直すことにした。

激しい痛みを感じながら、押さえていた手を確認してみると
出血はしていないようだ。
しかし、かなりの熱を帯びている。

「これで・・・終わりだね。」

背後からポツリと聴こえる声。

未夢はゆっくりとその人影を見つめる。
見つめた先には、地球上の人間が到底着そうもない。
どの民族衣装とも結びつかないような異形な服を着た人が立っていた。

蒼井だ。

そこに転入生蒼井の顔があった。
笑っているような、泣いているような、複雑な表情を浮かべている蒼井がいた。

「蒼井くん・・・」

「・・・」

「あなた、何して・・」

「お・・・・。光月さん。」

「その格好はなに・・・あなたいったいどこから・・・」

「目的は2度も言わない。あえているなら僕はこの時間とはまったく違う系列に属する物」

「二度?この時間とは異なるって・・・」

「この時代でいうなら・・・そう未来人とでもいっておこうか
 でも・・・すでに済んだこと。もう、目的はすんだ。
 ただ、不完全の可能性があるから観察させてもらうよ。」

「蒼井くんが未来人・・言っている意味がわからない。」

「・・・・現在のところおおむね良好のようだな。」

そういった、蒼井の手には銀色の短刀のようなものが握られていた。
おそらく、自分を殴ったものはあれだろうと、認識するや否や、
未夢は恐怖よりも、疑問よりも、怒りが心を満たした。

何食わぬ顔をして日常に溶け込んでいた蒼井。
目的は不明だが、既にそれは果たしたという蒼井。
そして、それを遂行するためには、自分、そして西遠寺彷徨に平然と
武力行使する蒼井。

西遠寺彷徨を刺した・・・。


「蒼井君!あなたって人は!!」

叩きつけるような未夢の叫びにギクリと蒼井はそれまでの挙動から初めて動きを見せた。

「もう少し、完全に操作しないといけないかも・・・」

そういって蒼井は再び、持っていた短刀を握りしめ、未夢に向かってきた。


『危険なところは立ち向かうのではなく、その場にいないことが一番』

突然南の言葉が思い出し、それに導かれるように、未夢は動いた。

『逃げなきゃ!!』

未夢は、痛む頭を抑えて逃げることを決意した。
周囲を見渡す。
西遠寺彷徨を探したのだ。
だが、公園内に倒れていたはずの西遠寺彷徨の姿はない。

そのとき、未夢は自分が着ていた服に気付いた。
制服じゃない。

と、いうことは今は・・・。


「完全にしなきゃ・・・」


ぼそりと呻きが聴こえた。
蒼井だ。
蒼井が再び短刀を振りかざす、より早く、未夢は身を翻していた。
受身がうまくいった。そして、一目散に公園を後にする。


今は日曜日。

未夢はまた、時間をさかのぼったのだ。
西遠寺彷徨は無事だ。『今』はまだ。



*****



「あら、お帰りなさい。ようはすんだの?」

家に帰ると未来が今から声を掛けてきた。

「・・・うん。」

上の空で、未夢は階段を上がった。
部屋に入ると、未夢はベットに突っ伏した。
両手でシーツを掴み、顔を押し付ける。
未夢は震えていた。

南の進言のおかげで、未夢は落ち着くことが出来た。
そしてあの場から逃げることは出来た。

だから、それはいい。
そんなことより、問題は、西遠寺彷徨のことだ。
土曜日に、西遠寺彷徨は、蒼井に刺される。
死ぬかもしれないのだ。

どうしたらいい?
西遠寺彷徨を助けるためにはどうしたらいいのだろうか。

今のうちに西遠寺彷徨に伝えるか?
いや、それはダメだ。
時間を再構成させるからではない。
『今』の西遠寺彷徨が信じてくれるはずがないからだ。
水曜日の西遠寺彷徨でさえ、未夢の話を信じてはくれなかった。
その三日前ではなおさらである。

少なくとも木曜日以降の西遠寺彷徨でなければ、未夢の見方にはなってくれないのだ。
未夢の見方には。


そう西遠寺彷徨は未夢の見方だった。
冷たかろうが、
思いやりがなかろうが、
西遠寺彷徨は未夢の見方だった。

この上なく頼りになる味方だった。

それが・・その西遠寺彷徨があんなことになろうとは。
西遠寺彷徨が刺されたのは未夢の責任である。
未夢が西遠寺彷徨を頼りさえしなければ、西遠寺彷徨があんな目にあうことはなかったのだから。

なんとしても西遠寺彷徨を助けなければならない。
これまで、何度となく、西遠寺彷徨は未夢を守ってくれた。

今度は未夢が西遠寺彷徨を守る番なのである。

そう、だからだ。
だからこそ、未夢は日曜日に戻れたのだ。
日曜日に戻れば西遠寺彷徨を助けられる。
だからこそ、蒼井の待ち受ける日曜日に未夢は戻れたに違いない。

だが、その方法は?


「!!手紙・・・」

未夢は顔を上げた、
時間を置いて情報を伝えるために、西遠寺彷徨は手紙を使った。
それと同じことをすればいいのである。

四通目の手紙を、南に出せばいいのである。

それがあれだったのだろうか、金曜日の夜、南が見せた四通目の手紙は今から
未夢が書くものなのだろうか?

いや、違う。そんなはずはない。
もしそうだとすれば、あの西遠寺彷徨が、何の対応策もとらないはずがない。
蒼井に刺されるままになっていたはずがないのだ。

とすると、やはり、あの手紙は西遠寺彷徨が言ったように
犯人が蒼井だと、西遠寺彷徨に伝えるためのものだったのだろう。

だが、今から未夢が書こうとしている『四通目』は違う。
土曜日に西遠寺彷徨が刺されることを教えなければならないのだ。

それを書けば、時間が再構成されることは確実だった。
西遠寺彷徨と未夢が必死に避けていた『再構成』。
それを今、未夢は自らやろうとしていた。
時間を再構成させなければならない。
西遠寺彷徨が刺された『過去』など、存在させてはならない。

未夢が『四通目』を書けば、時間は再構成される。
土曜日以降ではない。
『西遠寺彷徨が刺された土曜日』があるからこそ、未夢は今こうして『日曜日』にいる。

土曜日が変わればここにいる『日曜日の未夢』も変わるだろう。
日曜日以降が、西遠寺彷徨とすごした一週間がすべて再構成されてしまうのだ。



だが、それでもいい。



未夢はかたく決意していた。
再構成された後の時間では、西遠寺彷徨は未夢の味方にはなってくれないかもしれない。


それでもいい。


西遠寺彷徨が助かってくれさえすれば。





*****





未夢は起き上がり、かばんを手に取った。
レターセットと生徒名簿を取り出そうとしたのだ。
しかし、それはそこにはなかった。

『日曜日に戻ったとき、そこにいれとくのをわすれるなよ』

西遠寺彷徨の言葉が思い出された。
名簿は本棚の中にあった。
レターセットは机の引き出しの中だ。
レターセットの中には封筒が六つ残っていた。

未夢はそのうちのひとつを取り出して、宛名に南の名前と住所を書き込み、
差出人のところには、前に書いた三通と同じように、
『連絡するまで、何も言わずに預かっていてくれ。西遠寺』
と書き記した。

封筒に切手を貼ると未夢は便箋を何枚か残し、残りのレターセットと名簿を
鞄のポケットのなかに収めた。

それから未夢は机に座りなおした。

さて、どう書いたものか。

少し考えてから未夢は、まず日曜日のことについて書き記した。
蒼井が自分を襲うこと。
自分のことを未来人だと言っていたこと。
それがこの『移動』の発端だったこと。
月曜日に頭が痛かったのは蒼井の持っていた武器で殴られたから。
そして、南との稽古のおかげで、落ち着いて逃げられたこと。

そして、未夢は深呼吸して、土曜日のことを記した。

西遠寺彷徨が蒼井を風立公園に呼び出すこと。
そして西遠寺彷徨がポケットに手を入れたとき、蒼井が短刀のようなもので
西遠寺彷徨の腹を刺したこと。

「蒼井君は、あなたが考えているより、分からない人。
 前にも書いたけど、自分のことを未来人だといっていた。
 お願いだから直接対決なんてしようと考えないで。
 私のことなら大丈夫だから。
 時間が時間が再構成されてしまっても自分で何とかして見せるから
 だから、逃げて。
 
 あなたを死なせたくないの。」

未夢は筆をおいた。
便箋を折りたたみ、封筒に入れて封をする。
それから近くのポストに投函するために家を出た。
そしてポストに投函した。

これで金曜日の西遠寺彷徨にわたるはずである。

未夢は『四通目』を書いた。
それは時間を再構成させるはずである。
だが、いつ、どんなふうに起こるのか。

『四通目』を書き終えても別に変化はなかった。
ポストに投函しても同じだった。

しかし『金曜日』も『土曜日』も今のこの『日曜日』に集約するはずである。
とすればやはり再構成は『日曜日』から始まるはずだ。
ひょっとするとすでに始まったのか?終わったのか?ただ、未夢がきづかないだけか?

未夢は分からなかった。
あるいはまた、どこかに見落としがあるのかもしれない。
西遠寺彷徨がいればたずねることもできた。
しかしその西遠寺彷徨も今はいない。

これまでのように明解な答えを与えてくれたはずだろう。

だが、もういない。

『未夢の相談に乗ってくれる西遠寺彷徨』は。




帰宅した未夢はすぐに風呂に入り、布団に入った。
普段より、数時間就寝する娘に驚く両親はとても驚いていた。

しかし、いつもより2時間早くする未夢も今日に限ってはひどく疲れていた。

これで眠れる。
目が覚めれば明日だ。

明日・・・。
未夢の明日は果たして『いつ』だろうか。
時間が再構成されるとは具体的にはどういうことなのだろうか。
月曜日、火曜日、水曜日とこれまですごした日々をもう一度順を追って
新たにすごすのだろうか。
それとも『再構成後の土曜日』に移動するのか。

未夢いはわからない。
また、そんなことはどうでもいい。

西遠寺彷徨が刺されずにすめばそれでいい。

どうか、西遠寺君が無事でありますように。


そう願いながら未夢は目を閉じた・・・。






続く・・・


〜注意〜
この作品は以下の作品をリスペクトし
だぁ!だぁ!だぁ!設定ではどうなるか考えて書いたものとなります。
メディアワークス 
「タイム・リープ・・・あしたはきのう」
著者 高畑京一郎

 →(n)


[戻る(r)]