明日は昨日

はじめは火曜日 2

作:あゆみ

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西遠寺彷徨はこの市立第四中学校でもトップクラスの秀才だった。
定期試験の準位も10番以下に落ちた所を見たことがない。


顔立ちは、ハンサムの部類に入れられる方だ。
かなり鋭角的で、二重の切れ長のめがシャープな印象を与える。
身長も中学2年生にしては高いほうだ。
痩せ型だから尚更そう見える。

運動部には入ってはいないが、体育などたまに見かけるとスポーツもそこそここなし、学期末の
球技大会ではかなり活躍している。

一言で言って、西遠寺彷徨は女性にもてる条件をかなりの水準でクリアしているのだ。
しかし、その割には西遠寺くんには浮いた話はなかった。

ファンクラブなるものがあるというのは聞いたことがあるが、西遠寺君にはかなり近寄りがたい雰囲気がある。
それが特に女性に対しては顕著に表れている。
無愛想、無口、根暗、と言うわけではないのだがいつも他人とは一定の距離をおいて人に対しているのだ。


しかしながら、西遠寺彷徨は集団生活不適合者というわけではなかった。
余計なことには口も手も出さないが、やらなければならないことは、誰にも文句を言わせないほど完璧にやってのけるのだ。


こんなことがあった。
学校の球技大会のときだ。
クラス対抗のこの大会は四日間ほどかけて行なわれる。
種目はソフトボール、バレー、バスケ、サッカーなどで、その種目に所属している生徒は出場してはいけないというルールのもと
誰がどの種目に出場するか決めなければならなかった。

その種目決定のときにひと悶着あった。
体育委員の黒須三太が議長になって種目を決定しようとしたのだが、みな勝手なことを言い出したのだ。

まだサッカーが得意だからサッカーがいいというなら分かるが、
走るのはいやとか、誰と一緒ならいいとかみなわがままを言い出したのだ。

みなそんな混乱を楽しんでいるような部分もあったが、そのおかげで種目決定が大幅に遅れてしまった。
そのときばかりは痺れを切らした西遠寺彷徨は

「おい。三太。もういいだろう。早いところ決めちまえよ。時間の無駄だ。」

「そんな事言ってもよー彷徨。この調子じゃ…。」

「要するにこうすればいいんだろ。」

そういって西遠寺彷徨はチョークを握って種目以外書かれていなかった黒板に次々と名前を書き込んでいった。

「これでだれか、未だ文句あるやついるか?」

全ての名前を記入し終えた西遠寺彷徨がクラスメート達を振り返ったとき、一瞬教室は静まり、そして感嘆の
どよめきが起こった。

西遠寺彷徨がかいたその組み合わせは、皆が勝手に口にした条件を全てクリアしていたと言うことであった。
西遠寺彷徨は40余名の生徒たちがそれぞれに出した条件を誰が何を言ったのかを全て把握し、的確に見出したのだと言うことを
皆が理解したからである。

誰にも文句はなかった。

と言うより西遠寺彷徨の示した離れ業に半ばあきれ、圧倒されてしまったのである。

結局球技大会は西遠寺彷徨が決定した通りに行なわれることになった。






さてその西遠寺彷徨だが片手に本を持ち本に見入っていた。
時折、一人うなずきながら読んでいるその横顔はいかにも知性の塊と言った感じがあった。

しかし何の勉強をしているのかと未夢は本に目をこらしたがあきれてしまった。
その本には鍋や食材の写真が多く載っていた。
いわゆる料理本であったからだ。

まじめに勉強しているかと思えば…

自分が早弁をしたことを棚に上げて未夢は思った。

西遠寺彷徨は真剣だった。時折なにやら思索めいているが見ているのが料理本だと思うと何かほほえましい。


「なぁにみてるの?」

こつんと未夢は頭を小突かれた。

「別に。なにも…」

「そぉ?」

ななみは微笑してちらりと西遠寺彷徨の方を見てから未夢に目を戻した。

「ふぅん…」
「な、なによ。」
「別になにも。」

ななみは未夢の口真似をしたがその表情は明瞭に『何でもお見通しよ」と語っていた。


変な気を回さないでよ…。


そういいたかったが昨日の記憶がないだけにはっきりとは言い切れなかった。

本当にあれは夢だったのだろうか?
本人に確認すればいいのだが、どう切り出したらいいか、ましてやキス云々に関しては聞けない。

やっぱり夢だよね。

未夢はそう結論つけた。
第一にあの西遠寺彷徨でもそんなことがあれば今日の態度は少しでも変わるだろう。
第二にあの西遠寺彷徨が腹を抱えて笑うはずがないからだ。

たとえ笑ったとしても未夢が知っている西遠寺彷徨の笑いは「ふっ…」っと冷笑に近いものだからである。

「ま〜だ見てる。」

ななみが、未夢を冷やかした。









〜注意〜
この作品は以下の作品をリスペクトし
だぁ!だぁ!だぁ!設定ではどうなるか考えて書いたものとなります。
メディアワークス 
「タイム・リープ・・・あしたはきのう」
著者 高畑京一郎

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