明日は昨日

再び月曜日へ 2

作:あゆみ

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すぐに金曜日に戻って『見張り』結果がどうなったのか知りたかったが、そうも行かなかった。
少しでも早くこの『奇怪な現象』を終わらせるためには『スケジュール表』に
空白を残してはならないからである。

未夢は、時計と睨めっこをしながら午後の授業をすごし、放課後になるなり帰宅した。

夕食、入浴、その他もろもろ、することをすべて済ませた未夢がベットの中にもぐりこんだのは
まだ八時にもならない時間だった。

なかなか眠れなかったが、当然である。
普段の就寝時間よりも四時間も早いのだ。

それでも、横になっているうちには眠れるだろうと、何度も寝返りを打っていた未夢だったが
慌てて飛び起きた。


「いけない!忘れるところだった!!」


日記だ。


月曜日の未夢は、日記を書かなければならないのだった。

部屋の電気をつけ、机の前に座り、日記帳を取り出して広げた未夢は
そこでぴたりと手が止まってしまった。

「どんな文章だっけ・・・」

思い出せない。
いや、どんな内容かは思い出せるおだが、
それがどんな言葉で記したのか、どこで改行したのかなど、
細かい部分をすっかり忘れていたのである。

それも仕方ないことかもしれない。
この動揺の中、しかも西遠寺彷徨にもまだ出会っていない序章部に過ぎない
頃のことである。

「まぁいっか・・・」

肩を竦めて未夢はシャープペンシルを手に取った。
西遠寺彷徨には怒られるかもしれないが、細かいところで少しくらい違いがあっても
大筋さえ同じならそれほど大きな影響は出ないはずである。

「えっと・・・確か、最初はこうよね。」

未夢は書き始めた。




『あなたは今、混乱している。
 あなた身に何が起こったのか、これからなないが起こるのか、
 それはまだ教えられない。
 なぜなら、今のあなたにそれを教えると過去が変わる可能性があるから。』




とそこまで書いて未夢は消しゴムを取った。
過去が変わる云々などと掻いても、火曜日の未夢を一層混乱させるだけである。

『なぜなら・・・』以降を全部消し、未夢は続きを書いた。





『だけど、記憶喪失ではないし、気が狂ったわけでもないから、心配しないで。
 だけど、他人にはそのことを話さないでね。
 あなたが相談していいのは西遠寺くんだけよ。』





だけどその西遠寺彷徨の最初は今日の昼のような態度である。
その怪訝な態度であきらめてしまわないよう、付け加えておく必要があった。





『西遠寺君に相談なさい。
 最初は冷たい人だと思うかもしれないけど、彼は頼りになる人だから。』





未夢はシャープペンシルを置き、自分の書いた文章を見直した。

「こんなものよね。」

少なくても大きな違いはないはずである。
未夢は日記をしまった。

それから『明日』のつまり、火曜日の時間割をかばんにそろえる。

「これでやり残しはないわよね・・・」

未夢は指差し確認してから部屋の電気を消した・・・




******




自分がどんな格好をしているのかわからなかった。
手足が妙な風にもつれている。
起き上がろうとしたが、周りが妙にやわらかく、身動きがままならなかった。

「また、おちたの未夢。」

スリッパの音を響かせながら未来が現れ、あきれたように未夢を見下ろした。

「すみません」

階段の上のほうから、西遠寺彷徨の声が聞こえた。

「僕が支えればよかったんですけど間に合わなかったんです」

自分が突き落とした癖に、よく言う。
そんな事実を知らない未来は、やれやれと首を振った。

「まったく、おっちょこちょいで困ったちゃうわね。
 よくそう何度も、何度も落っこちられるっもんだとおもうわ」

階段から降りてくる西遠寺彷徨がそれを聞いて失笑した。

「ほら、掴まれよ。」

西遠寺彷徨が、未夢に手を差し出した。
月曜日の西遠寺彷徨から考えられない態度である。
これも1週間のなかでの変化なのであろうか?
それとも階段から落としたことへの罪滅ぼし?

文句のひとつも言いたいところだったが、未来がいてはそれもままならない。

「・・・ありがと」

仕方なく礼まで言ってから、未夢は西遠寺彷徨の腕にすがって、立ち上がった。

「未夢、そのおっちょこちょいを何とかしないと、お嫁の貰い手がなくなるわよ。
 ねえ、西遠寺さん。」

「え・・」

さすがの西遠寺彷徨も返答に詰まる。
そんな西遠寺彷徨に、年長者の余裕をうかがわせる笑顔を向け、
未来は居間に戻っていった。

未夢は、それを見送ってから、おもむろに西遠寺彷徨のほっぺたをつねった。

「よくもやったわね」

「痛いな。」

西遠寺彷徨は顔をしかめた。

「痛かったのはこっちよ。もっと他にやりようはなかったの?」

「あったかも知らないが思いつかなかった。 これが一番確実に思えたんだよ。」

「それにしたって・・・」

「悪かったよ。だから、先に誤っておいたじゃないか、それに一応、安全処置もしておいた。」

西遠寺彷徨に言われて気づいたが、階段の曲がり角にある部分に、
どこから集めてきたのか、ざぶとんらクッションやら、ぬいぐるみやらが
積み上げられていた。
さっきまで、未夢はその中に埋まっていたのである。

「・・・」

「ところで、遅ればせながら聞くが、いつから来た?」

「・・・月曜日よ。」

「天地たちにたのんできたか?」

「ええ」

おかげで妙な誤解されちゃったわよ。と心の中で付け加える。

「そうか・・・となると、後は、連中の信頼性に関わってくるわけだが、さて。」

西遠寺彷徨は左腕の時計を見た。

「この時間なら、練習も終わって、家に帰ってる頃だな。
 ・・・電話をかりていいか?」

「どうぞ。そこの、下駄箱の横よ。」

「わかった。」

「南くんにかけるのね?」

「そのとおり」

西遠寺彷徨は受話器を取り上げ、ボタンを押した。
向こうが出るまでの間に、未夢を振り返り訪ねる。

「月曜日は全部済ませてきたんだろうな?」

「ええ」

「そうすると、残る空白は、日曜日の夜だけか・・・あ、もしもし、南さんのお宅でしょうか?
 西遠寺と申しますが、晶いますか? はい・・・。
 おう、南か。お前のところに手紙が三通届いていると思うんだが・・・そうか。」

そこでいったん送話口を手で覆って未夢に言った。

「着ているそうだ」

「・・・」

そうなるようにしてきたのだから当然、とはいいたいが、
未夢は西遠寺彷徨のすごさに身震いが出る思いだった。

未夢と違い、西遠寺彷徨は時間の流れから外れることができない。
にもかかわらず、西遠寺彷徨は過去、未来を完璧に制御していた。
支離滅裂にしか思えなかっただろう未夢の言葉から法則を見つけ出し
混乱した事態を終息へと導いているのだ。

「それで南。疲れてるところすまないが、それをこれから持ってきてくれないか?
 場所は今から言う。
 本当は俺のほうから受け取りに行くべきなんだが・・・そうか、すまん。恩に着る。」

未夢は、待ち合わせ場所として、未夢の家の近くの公園を指示し受話器を置いた。




****



「ちょっと出かけてくるわね。」

そう未来にいって、未夢は西遠寺彷徨とともに公園にむかった。

「ねぇ、南くんって、どんな人?」

西遠寺彷徨と並んで歩きながら未夢はたずねてみた。

「小学校のときまで同級だった。中学に入ってからは、別のクラスになったし、あいつは部活で忙しくなったからめったにあわなくなったがな。」

「部活って?」

「合気道部だ。」

以外だった。西遠寺彷徨の親友というから、なんとなく、文科系の部にはいている人なのだろうと思っていたのである。

「口が堅いし、頭も切れる。俺は人に頼るのは嫌いだが、あいつだったら頼っても、まず間違いない。」

「ふうん・・・」

公園に到着すると未夢と西遠寺彷徨は常夜灯に照らされる場所に立った。

南が見つけやすいようにと配慮したのである。

夜の公園に二人きりというシチュエーションは未夢の胸を騒がせたが、
西遠寺彷徨は別に気にもしていないようだった。
まったく。
これでも思春期の男の子なのかしら・・・。

未夢はそっとため息をついた。


頭脳明晰、冷静沈着。頼りになるのはいいのだが、あまりに非人間的な気がする。
14歳の中学生なら、異性と二人っきりでいたら、
もっとこう・・・取るべき態度という物があるのではないだろうか。
といって、いつかの夢で見たように、いきなりキスされたりしたらそれはそれで困るのだが・・・。


しばらくして西遠寺彷徨がつぶやくようにいった。

「どうやら来たようだ」

自転車の車輪の音が近づき、そして、公園の入り口で止まった。
常夜灯の明かりに照らされた西遠寺彷徨の姿が直ぐに分かったのだろう。
自転車のスタンドを立てると、その人物はまっすくに未夢たちの方へやってきた。

西遠寺彷徨が信頼できると言い切った南晶とはどのような人物なのだろうか。
未夢は興味津々、近づく人影を観察した。

やがて、南晶の姿が常夜灯の明かりの中に入ってきた。

西遠寺彷徨は長身のほうだが、南はその西遠寺彷徨と同じくらい大きかった。
しかし『合気道部』という言葉から、未夢が連想したような体育会系の体系ではなかった。
むしろ線は細く、スマートである。
合気道部らしさを感じさせるところといえば、ぴんとした背筋と
短く切った髪の毛ぐらいの物だった。
引き締まった口元をしている。西遠寺彷徨の親友だけあって、意思が強そうな感じだった。
だが、面差しは穏やかでむしろ、人懐っこい印象がある。
南は黒のダウンジャケットを着ていた。
しかし、下は中学の指定ジャージのままだ。
帰宅して直ぐのところを呼び出されたらしい。

「疲れてるところ、悪いな。」

「なに、いいよ。」

南は笑いながら答えた。

「それより・・・」

不思議そうな目を向けられ、未夢はあわてて、ぺこりとお辞儀をした。

「西遠寺君と同じクラスの光月未夢です。」

「南です。宜しく。」

南は挨拶を返してから、物言いたげな視線を西遠寺彷徨に戻した。

「・・・なんだよ。」

西遠寺彷徨は少しむくれたようにいった。
珍しい・・・というより、未夢がはじめてみる子供じみた仕草だった。

「・・・別に」

南は口元を緩めた。
説明しにくいなら、不問にしておいてやるよ。
そんな感じのからかうような笑い方だった。
西遠寺彷徨とは別だが美系二人のやり取りは何かドラマを見ているようだと未夢は思った。
西遠寺彷徨のいうとおり、彷徨と南の信頼関係は確かなようだ。

西遠寺彷徨は早速本題に入った。

「手紙は持ってきてくれたか?」

「うん。」

南は、ジャケットのポケットから、三通の封筒を取り出した。

「この三通でいいのか?」

「世話をかけてすまん。」

西遠寺彷徨は封筒を受け取り、未夢を振り返った。

「光月」

「え?」

「なにぼけっとしてる。この三通で間違いないか?」

未夢は、西遠寺彷徨の手の中にある三通の封筒を確かめた。
間違いない、つい『さっき』自分が書いてななみたちに配った物である。

未夢がうなずくと西遠寺彷徨はポケットにしまった。

「で、なに?それ。」

南はもっともな質問をした。

「すまん。世話になっておいて、勝手なことをいうと思うだろうが、今は教えられない。」

「ふぅん・・・」

南はまゆを上げた。

「どうやらよっぽどの厄介ごとらしいな。」

「まあね。」

「じゃあ、教えてもいいときになったら教えてくれ。」

南は軽くうなずいた。
さらっとした物である。
余計なことはいいもしなければ訊きもしない。
くどくど言い訳や説明をする必要がこの二人にはないのだろう。

「とにかくありがとう。助かったよ。」

西遠寺彷徨は例を言ったが、そのとき、南が不思議そうな表情を見せた。

「本当にその三通を渡すだけで、用は足りるのか?」

意味ありげなその言葉に、今度は西遠寺彷徨が怪訝な表情になった。

「なぜだ?」

「なぜって」

南は、もう一度、ジャケットのポケットに手を入れた。

「ここにもう一通同じような手紙が来ているからさ。」

「なんだと・・・?」

南の取り出した、四通目の封筒を西遠寺彷徨は食い入るように見つめた。






つづく・・・




〜注意〜
この作品は以下の作品をリスペクトし
だぁ!だぁ!だぁ!設定ではどうなるか考えて書いたものとなります。
メディアワークス 
「タイム・リープ・・・あしたはきのう」
著者 高畑京一郎

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