明日は昨日

二度目の金曜日 2

作:あゆみ

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「遅ればせながら『予備知識』が得られたわけか」

未夢の説明を聞いて西遠寺彷徨は笑った。
どうやら、西遠寺彷徨の理論は正しいらしい。それが良くわかった。
いま、西遠寺彷徨が言い出した計画が過去において既に実行されていたことがわかった。

「となると、今度はどうあっても『見張り作戦』を実行させなければならない。
 失敗すれば時間が再構築されてしまう。・・・頼むぜ光月。」

「わかったわ、やってみる。月曜日に戻ったときに、
 ななみちゃんたちに今のことを頼めばいいのね。
 えっと・・・二日後ね・・・二日後の昼休みに、音楽室と美術室と屋上への階段を
 見張ってって」

「誰にも気付かないようにだ」

「うん」

「それにあと二つ注文がある。」

「なあに?」

「ひとつは、少なくとも『今』まで、つまり『金曜日の夜』以降まで、そのことを誰にも
 君にもだぜ、話さないように言うこと、理由はわかるな?」

「なんとか・・・つまり『今』より前の私は、その計画のことをしらないからね?」

「そうだ『今』より前の君がそれをするのはまずい。」

「うん、二つ目は?」

「見張りの結果を、どうやって、俺に持ってきてもらうかだ。」

「私に、じゃなくって?」

西遠寺彷徨はうなずいた。

「君には知らせたくない。『予備知識』は光月の行動を束縛する。
 昨日も言ったが、俺はこの件の一切の片がつくまで、君に対して情報規制をする。」

「『予備知識』で行動を束縛されるのはあなたも同じでしょ?」

「それはそうだが、二人とも知らないままでは、何もできやしない。
 君か、俺か、どちらかが知らなければならないし、二人とも知らないままでは
 何もできやしない。君と俺のどちらかということになれば、俺が引き受けるしかない。
 こういっちゃナンだが、危なっかしくて、とても君には任せられない。」

悔しいが、これまでの経緯を考えると、未夢には言い返せなかった。

「・・・だけど、西遠寺君に報告するようにするって言っても、やっぱり『今』より
 後じゃないとならないんじゃない?それとも・・・本当はもう知っているの?」

これから『見張り作戦』の手配をする未夢のために、知っていて知らぬ振りを
することぐらい、西遠寺彷徨なら用意にやってのけるだろう。

疑いのまなざしを向ける未夢に、西遠寺彷徨は苦笑した。

「残念ながら、しらない。だから、君は月曜日に行ったとき、水曜日の昼休みに
 見張りをし、その結果を、金曜日の夜以降に俺の元へ届けてもらうよう、
 天地たちに頼まなければならない。もちろん、理由は話せないし、
 金曜日までの間に見張りの結果を忘れられても困る」

「・・・そんなに色々条件をつけられちゃ無理よ」

「だろうね」

西遠寺彷徨はうなずいた。

「だから、見張りの結果は郵便で送ってもらうことにする。」

つまり、手紙を出してもらうということだろう。
時間を越えて情報を伝えてもらうには確かに良い方法かもしれない。

「だけど、市内だし、二日もしないで着いちゃうんじゃないの?」

水曜日に出すとすると、金曜日か、ひょっとすると木曜日についてしまうだろう。
宛先を未夢の家にするにしろ、西遠寺彷徨の家にするにしろ、これも
時間を再構成させる原因になりかねない。

未夢の懸念などはとうに考慮のうちだったらしい。
西遠寺彷徨はうなずいた。

「その通りだ。だから、別の人間に宛てて出してもらう」

「別の?」

「名簿を出してくれないか?生徒全員の住所を記した名簿があるだろう?」

「ええ」

未夢は立ち上がって、本棚を探した。
だが見つからない。

「おかしいわね。確か、このへんにあったはずなんだけど・・・」

西遠寺彷徨は部屋中をひっくり返し始めた未夢をしばらく眺めていたが、
これは長くかかると思ったのだろう。

「ゆっくり探しててくれ。俺は用を足しにいってくるから」

「お手洗いだったら、階段を下りて右よ」

「わかった」

西遠寺彷徨は、部屋を出て行った。




****


戻ってきた、西遠寺彷徨は本やノートが積み上げられた床をあきれたように見回した。

「まだみつからないのか?」

「うん・・・おかしいなぁ、確かにあるはずなんだけど・・・」

「うん・・・」

西遠寺彷徨は少し考え込み、そしていった。

「かばんを調べてみたか?」

「かばん?そんなところにはないわよ。だって入れたことないもの。」

「『今までは』だろ?いいから、調べてみろよ。」

「・・・」

未夢は納得いかないまま、かばんをあけ、中を覗き込んだ。

「ほら、ない。大体、あれば学校でかばんを開けたときに気づいたはずよ。」

「めったに使わないポケットなんかがあるんじゃないか?
 ・・・そこのファスナー付きのポケットをあけてみな。」

「・・・」

確かに、そういうポケットはある。
しかし、めったに使わないのは不便だからで、そんなところに名簿なんかが入れてあるわけがない。


・・・のだが、



「・・・あった。」

西遠寺彷徨のいったとおりに、そのポケットの中に、名簿が入っていたのだ。
名簿のほかにも、まだ触れるものがある。
引き出してみる、それはレターセットだった。
中には便箋のほかに、封筒が二つ入っている。

「なんで、ここにあるってわかったの?」

目を丸くする未夢に西遠寺彷徨は答えた。

「光月が、俺の指示通りに動いてくれるなら、当然そこにあるはずだからさ。
 ・・・日曜日に戻ったとき、そこに名簿とレターセットを入れとくのを忘れるなよ。」

「『日曜日に戻ったとき?」

「そうしないと、『月曜日』の学校で使えない。」

「・・・」




ああなって、こうなって、そうなる。




西遠寺彷徨の思考の組み立て方は明快極まりなく、言われてみれば、ああなるほど
と納得いくのだが、入り組んだなぞを的確に解きほぐしていく手腕にはただただ、
感心するしかない。

「さて、その名簿を貸してくれ。」

西遠寺彷徨は未夢の手から名簿を受け取ると、ぱらぱらとめくり始めた。

「・・・あぁ、ここだ。こいつの名前を覚えておいてくれ。」

未夢は西遠寺彷徨のそばによって、名簿を覗き込んだ。

2−3HRの生徒名簿だった。未夢は西遠寺間たが指し示す名前を読んだ。



「南・・晶・・・?」 (みなみ あきら)




「そうだ。こいつを受取人にしてくれ。そして、差出人のところに
 『連絡するまで、何も言わずに預かっていてくれ。西遠寺』
 と書いておけば、たぶん、誰にも何もいわずに、保管してくれると思う。」

「西遠寺君の親友なの?」

「そんな上等なもんじゃないが、頼りになる奴だ。
 ただ・・・女文字はやめてくれよ。いくらあいつでも、妙におもうだろうからな」

「だけど・・・この人も、手紙を受け取ったら、どういうことか、西遠寺君に
 聞くんじゃない?それが『今』より前だったら・・・」

「だから、『連絡するまで』の一文が必要なんだ。
 そう書いておけばあいつのことだ、妙だとは思ってもいうとおりにしてくれる。」

「信頼しているのね?」

「まあね。」

西遠寺彷徨は断言した。
未夢としてはそれを信じて行動するしかない。

「だけど・・・」

未夢はため息をついた。

「こんな、分けのわからない頼みを、ななみちゃんたち聞いてくれるかしら?」

「信頼していないのか?」

同じ質問を西遠寺彷徨は未夢に聞き返した。

「だって・・・」

未夢がふくれると、西遠寺彷徨は笑いながらうなずいた。

「確かに。妙だとは思うだろうな。だけど・・・そうだな『おまじない』ってことならどうだ?」

「え?」

「幸運を呼ぶ『おまじない』ということなら、女子は相当妙なことでも引き受けてくれるんじゃないか?」

「そうねぇ・・・」

西遠寺彷徨は女子に関して、妙な固定観念を持っているようだが、違うともいいけれなかった。
確かに『おまじない』なら、手続きが複雑でも、それなりに納得してくれるだろう。
いや、、むしろ複雑なほうが、効果ありげに思われるかもしれない。



「うまくいくかもしれない。」

未夢はうなずいた。




****



「さて。と。じゃあ、光月がやることを忘れないうちに、いってきてもらおうかな。」

勿論、月曜日へ、という意味である。

「また、椅子に座るのね?」

先回りして言うと、西遠寺彷徨は苦笑いした。

「じゃあ、とりあえずそうして貰おうか。」

未夢は、昨日と同じように机に足を乗せ、椅子を後ろに傾けて座った。

その背後に西遠寺彷徨が回る。

不意に部屋が回転し、未夢を見下ろす西遠寺彷徨の顔が目に入った。

「いつからきた?」

「・・・『いって』ないわよ。」

気まずい感じで、未夢は答えた。

「やっぱり二度目は無理か」

西遠寺彷徨は苦笑いしながら椅子を元の位置に戻した。

「なんで・・・移動できないのかしら?一度目はうまくいったのに。」

「光月、が俺を信じきっているからだろう。『怖いこと』じゃなくなっちまったのさ。」

そのいわれように、未夢は赤面してしまった。
確かにそうなのだ、『昨日の未夢』からは考えられないが
この数日で、格段と西遠寺彷徨への信頼度は変わっていっている。

「じゃあ、どうするの?」

「心配するな。こんなこともあろうかと、別の仕掛けも用意してある。」

未夢は目を丸くした。

「いったい、いつの間に・・・ 」

そういいかけて、さっき西遠寺彷徨が席を外したことを思い出した。
おそらくあのときに準備したのだろう。
用意周到とは、まさにこのことである。

「下の階?」

「まあね」

「どんな仕掛けをしたの?」

「それを教えちゃ、移動できなくなる。」

いわれてみれば当然である。
『危険』の内容をあらかじめ知ってしまえば、『危険』ではなくなってしまう。
少なくとも、その度合いが著しく減少してしまうだろう。

「じゃあ、行こうか。玄関のほうだ。」

西遠寺彷徨に促されて、未夢は部屋を出た。
西遠寺彷徨はその後に続く。
階段を下りようとしたとき、西遠寺彷徨がぽつんといった。



「ごめんな、光月。」


「え?」


振り返ろうとしたとき、西遠寺彷徨がどんと、未夢の背中を突き飛ばした。

心構えも何もなかった。


「きゃあ!!」

未夢は悲鳴を上げて、階段を転げ落ちた。








(二度目の金曜日 終)





〜あとがき〜

久しぶりのあとがき。(ブログにもUP)
二度目の金曜日終わりです。といっても2まで。
次は『再び月曜日へ』です。まあ、だんだん、始めの話とリンクしていくといった
感じでしょうか。のんびりお待ち下さい。

さて、今回の話で登場した新キャラですね。わかった方はわかると思います。
そうですあの方です。
『南しゃん』の名前をお借りして登場しました。『南晶(みなみ あきら』
南しゃん登場には経緯があります。
ご存知の片いらっしゃるでしょうか?がんばれ彷徨君シリーズ『リーマン彷徨』で
同盟がありますね。
『White-collar project』この同盟が結束する前、同盟名をリーマン好きの方々たち
につけていただこうと、応募を募りました。
あまり予想していなかった応募の数に驚いたことを覚えております。

そこで誠に勝手ながら私の独断で南しゃんの『White-collar project』に決定!
White-collar 白い襟⇒労働者 白はワイシャツ
ということで。リーマンにぴったり。
ということで決定させていただいたのです。
私にはそのようなセンスは毛頭ないので万歳三唱(笑)

そのお礼ということで、私の書く文章に南しゃんが登場していただく。
ことをお約束したのです。
もう、2年前のことですが・・・
遅くなってごめんなさい。
リーマンじゃないけれど許してください。
これから『南晶』の活躍?!にご期待くださいね

ではでは
次の章でお会いしましょう。
〜注意〜
この作品は以下の作品をリスペクトし
だぁ!だぁ!だぁ!設定ではどうなるか考えて書いたものとなります。
メディアワークス 
「タイム・リープ・・・あしたはきのう」
著者 高畑京一郎

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