明日は昨日

月曜日への往復 8

作:あゆみ

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「わかった。もう、いい。無理に思い出さなくてもいいよ。」

西遠寺彷徨がいった。びっくりするほど優しい声だった。

「だけど、その日、その場所で、なにかあったことは確かそうだ。そして、それは君にとって、ショックだったはずだ。多分頭を打ったのもそのときだろう。ショックと衝撃で、タイムリープ現象が始まったんだ。」

「・・・」

「そしてその恐ろしさのあまり、君の無意識は、それを思い出すのを拒んでいる。」

「・・・」

「困ったな。何があったのかわからないと、その恐怖に対する心構えを君に与えることが出来ない。となると、その『時点』に『戻る』ことができない。すると、空白が埋められないから、いつまで経ってもこの現象をおわらせられない。」

「・・ごめんなさい。」

「君が誤ることじゃないよ。」

西遠寺彷徨は微笑んだ。
いつも見せるような、からかいや、皮肉めいたわらいではなく、温かくやわらかな微笑みだった。
未夢を気遣ってくれているのかもしれない。

「・・・落雷かなんかなかったかしら?」

思い付きを口にしてみると、西遠寺彷徨がはゆっくり首を振った。

「いかにも、超能力が目覚めるきっかけになりそうだが、十月だぜ?雷は少し時期はずれだ。
 それにもしそんな目にあったら、君の体もただじゃすまないだろう。こうして、ここにはいられないはずだ。」

「そっか・・・そうだよね・・・」

とてつもなくショックなこと。それでいて、怪我をしないようなこと。
それは一体ナンなのだろうか。

未夢は首を振った。
自分のためにも西遠寺彷徨のためにも、何とか思い出したかったが、どうしても思い出せなかった。無理に思い出そうとすると、今は無いはずの後頭部の痛みがよみがえってくるような気さえするのである。

「・・・ん。」

西遠寺彷徨はスケジュール表に目を落とし、ふと気付いたようにいった。

「明日の下校途中に君はバイクにひかれそうにそうになるんだったな?」

「うん・」

未夢はうなずきそして、ぶるっと震えた。忘れかけていたあの時の恐怖が、今の西遠寺彷徨の言葉で思い出されたのである。

「ナンバー・・・覚えているか?」

「ううん」

未夢は首を振り、言い訳がましく付け加えた。

「だって暗かったし・・・」

「バイクのナンバーって言うのは暗くてもみえるように作ってあるんだぜ?」

「・・・それに。いきなりだったし。・・・だけど何でそんなこと聞くの?」

「それは偶然なのかと思ってね。」

「・・・どういう意味?」

「君のタイムリープの回数が気になるんだ。」

西遠寺彷徨はスケジュール表を示した。

「一週間かそこらの出来事にしては、『危ない目』が多すぎないか?
 階段落ちは、まあ除くとしてもさ」

「そういえばそうだけど・・・まさか、誰かが私を狙っている、なんていうんじゃないでしょうね」

未夢は冗談のつもりで言ったが、西遠寺彷徨は笑わなかった。

「可能性はある」

「ちょっと・・・やだ・・・やめてよ・・・」

未夢は笑おうとしたが、表情がこわばって動かなかった。
すると西遠寺彷徨はそれと入れ替わりのように、口元を緩めた。

「ま、想像に怯えるのもバカらしいな。そう気にすることは無いさ。」

といわれても無理である。

「だったら・・・最初からそんなこと言わないでよね。」

「ごめん。」

西遠寺彷徨が苦笑いした。

「・・・それじゃ今日はこの辺までにしておこう。」

「帰るの?」

「ああ、もう遅いしな。明日・・・金曜日の夜に、又話し合おう。それまでにさっきの問題も何とか解決しておく。」

「だけど金曜は・・・」

かばんを取りにいこうとする西遠寺彷徨の学生服を、未夢は掴んだ。

「わかってる。」

西遠寺彷徨は未夢を力づけるように、はっきりと頷いてよこした。

「下校途中にバイクにひかれそうになるんだろ。だが、大丈夫だ。
 そのときには、必ず俺が着いていてやる。君を守ってやるよ。」

「そんなかっこいいこといって、着いててくれなかったじゃない。」

「え?」

「私を一人置いて、どこかへいってるのよ、あなたは!」

「ああ、そうか。君の記憶によればそうなんだな・・・」
西遠寺彷徨は頷いて、

「だけど、俺がどこに行ってたのか君は知らないんだろう?
 君がしらないだけで、すぐ後ろにいたのかも・・・・」


西遠寺彷徨は口を閉じた。

「?」

どうしたのかしら。

首をかしげる未夢を、西遠寺彷徨は鋭く見つめる。『思考時間』だ。

「なるほど・・・」

ややあって、西遠寺彷徨は視線と口元を緩めた。

「そうか・・・それなら、別にかまわないのか・・・」

「何かわかったの?」

「だとすると・・・こういうことも・・・うん・・・できそうだな・・・」

「西遠寺君!自分だけで納得しないでよ!」

イラつく未夢に、西遠寺彷徨はやっと答えてくれた。

「君に指摘されたミスのことさ。あれはあれでよかったんだ。ミスじゃなかった」

「? どういうこと?」

「つまり・・・いや、それも明日にしよう。もう少し煮詰めたいし、説明に時間がかかりそうだからな。」


















〜注意〜
この作品は以下の作品をリスペクトし
だぁ!だぁ!だぁ!設定ではどうなるか考えて書いたものとなります。
メディアワークス 
「タイム・リープ・・・あしたはきのう」
著者 高畑京一郎

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