明日は昨日

月曜日への往復 6

作:あゆみ

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見上げると、天井を背景に、西遠寺彷徨の顔があった。

「いつからきた?」

「・・・月曜からだよ」

未夢が答えると西遠寺彷徨はにやりと笑った。

「うまくいったようだな」

未夢は自分がいすに座ったままであることに気づいた。
その椅子の背を西遠寺彷徨の腕が支えている。
床に倒れこむ寸前のところで受け止めてくれていたのだ。
ちょうど未夢の思いつきと同じように、未夢に『危険』だけを与えて
『危害』が加わらないよう西遠寺彷徨も考えてくれていたのである。

後頭部の痛みはきれいに消えていた。
やはりあれは月曜日の痛みだったのだ。

西遠寺彷徨は腕に力をこめて未夢を乗せたままの椅子を元の位置に戻した。

「で、テストの結果は・・・うまくいったんだろうな?
・・・・いや聞くまでもないか。うまくいっていなければ折れは今ここにいない筈だものな。」

「それどころじゃないわよ西遠寺君!あなた見落としていることがあるわ!」

未夢の剣幕に西遠寺彷徨はいささか面食らったようだった。

「なにをだ?」

「木曜日のことよ」

「というと今日のことだな。」

『木曜日の階段落ち』は未夢にとってはかなり前の出来事なのだが、『今の西遠寺彷徨』にしてみれば
ほんの二、三時間前の事なのだ。
相変わらず・・・ややこしい。

未夢が自分の気づいたことを説明すると、次第に西遠寺彷徨の表情は険しくなった。

「なるほど・・・いわれてみればそのとおりだ。
俺は光月を階段から落ちるままにしておかなければならなかったのか・・・」

「でしょ?」

未夢は胸を張った。西遠寺彷徨を始めてやり込めたようでちょっと気分がよい。

「しかし。。。それにしては・・・」

西遠寺彷徨は未夢を見た。
「さっきもいたように、俺にはわかりようがないが、光月からみて何か変化はあるか?
未来というか、過去というか・・・要するに『この時間』に。」

「それなんだけど・・・・・・わからないの」

あらゆる事象を把握しているわけではない、断言できるはずがない。

「そうか・・・。わからないような変化なら、構わないようなもんだが、やっぱり気になるな。」

「やっぱり『自然の復元力』みたいなものがあるんじゃないかしら?」

「そんなはずはない。もっと筋の通った説明があるはずだ。」

西遠寺彷徨が未夢をじっと見つめた。
そしてその目に強い力がこもる。
例によって『思考時間』に入ったのだ。
毎度の事ながら、別に自分のことを見ているわけではないとわかっていても、
未夢は妙に落ち着きがなくなってしまう。

ややあって西遠寺彷徨は首をふった。

「だめだ。はっきりしない。だが俺の考えがまったく間違いだとも思えない。」

「だけど・・」

「そう、確かに矛盾はある。あるいは不完全なところが・・・。だが、それにも説明がつけられそうなんだ。」

西遠寺彷徨は眉間にしわを寄せて、そろえた二本の指でこんこん、とこめかみの辺りをたたいた。
曇りガラス越しにものを見るようなもどかしさを感じているのだろう。

「。。。少し時間がかかりそうだ。後回しにしよう。とりあえず今は、月曜日の報告を聞かせてくれ。」

「いいわ」

未夢は肩を竦めた。どちらにしろこんな理論合戦は西遠寺彷徨に任せるしかない。

西遠寺彷徨はまたメモを取りながら、未夢の報告を聞いた。

後頭部の痛みに関しては、西遠寺彷徨は首を傾げたが、わざと階段から落ちてリープしたくだりになると
小さく笑った。

「だろうな」

「えっ?」

未夢は驚きそして気づいた。月曜日の西遠寺彷徨のことを今の西遠寺彷徨が知っているのは当然なのだ。
そして次に不思議に思った。
急いで西遠寺彷徨に知らせようと思うあまり、自分も『月曜日』を変えてしまったのではないだろうか?

だがそうではなかった。

「昨日   つまり水曜日の昼休みのことだが、保健室でも、ちょっといっただろ?
君が階段から落ちたのは月曜日じゃないのか?ってさ」

「あ!」

未夢は口をあけてしまった。

あの時は西遠寺彷徨がからかっているのかと思っていたがそうではなかったのだ。

まさに西遠寺彷徨のいったとおりだった。
未夢が自由意志でした行動が結果として西遠寺彷徨の記憶と合致したのだ。
やはり西遠寺彷徨の理論は正しかったことになる。

「そういうわけだから、今回はそれでよかったんだが、光月。」

「・・・なに?」

「あんな危険なことをしなくても、ゆっくりと月曜日を過ごしててよかったんだぜ?夜に眠って帰ってこれたはずなんだから。」

「だって、早く教えなきゃならなかったんだもの。」

「だからさ。」

西遠寺彷徨は苦笑いした。

「三時間目の終わりから戻ってこようが、夜から戻ってこようが、戻ってくる『時点』は同じなんだから同じじゃないか。
少なくても俺にとっては同じことだ。」

「あ・・・・」

「わかったな?だから今度からは全部やってきてからもどってきな!スケジュール表に空白が残っている間は
いつまでたっても君の時間は元通りにはならないんだから。」

「なぜ?」

「なぜって・・・当たり前だろ?空白が残っているって事は君は『光月の未来』においてその部分をやらなければならないんだ。」

西遠寺彷徨はスケジュール表を指でなぞって説明する。

「じゃ・・・」
未夢はスケジュール表をみて後悔した。

「私があわてないで月曜日を全部やってから戻ってくれば・・・そして今日の木曜日のスケジュールを全部終えれば
元に戻ってたのね?」




「それは違うよ」




「だってそうすれば空白がなくなってたんだし・・・」

「違う、違うんだ。」

西遠寺彷徨は首を振った。

「『空白があるうちは終わらない』からといって『空白がなくなれば終わる』とはいえないだろ?」

「どうして?同じことじゃないの?」

すると西遠寺彷徨はやれやれとため息をついた。

「逆・裏・待遇の説明もしないとならないようだな・・」













***********久しぶりにあとがき*********************

皆様こんにちは、長らくお待たせしちゃった 『明日は昨日』も再開して3話目となりました。
これからはがんばって週に1作品ペースでがんばりたいと がんばりたいなと  がんばりたいと思います!

さてさて最後の天才『西遠寺彷徨』の発言意味がわかりましたか?
高校1年生で習う(今は習っているのかしら?)「逆・裏・待遇」知っている人は知っているし
わからない人はさっぱりわかりませんね・・・

わからない人にちょっとだけ説明したいと思います^^

ある事象(たとえば 今日は晴れたから布団が乾く)とかですけど
こういった事象には常に「真(あっている、筋が通っているよ!)」か「偽(間違い、例外があるだろう!)」
ということが付きまとってきます。

例で言ってみますと、「今日は晴れたから外に干した布団が乾く」これは「偽」です。
「偽」ということは例外(反例)があるはずですね
反例のひとつをあげると
「今日は晴れたからといって外に干した布団が乾くことが『確実』というのはまちがい。
なぜなら、『晴れても布団の干している場所が日陰なら乾かない』ことだってありますよね。
そうやって事象の真偽が決まってきます。

ここで間違ってはいけないのは「今日は晴れ!」というのは間違いないことなんです。
ですから、「曇っているかもしれないじゃないか!」これは真偽の種にはなりません。
反例をみつけるならその後に続く文章で例外が考えられないか、確かそれしかありえない!
のなら「真」ということになります。

さてさて「今日は晴れたから外に干した布団が乾く」を元にして4つの文章を考えて見ましょう。
「外に干した布団が乾く、今日は晴れだから」
「今日は晴れない、外に干した布団が乾かない」
「外に干した布団が乾かない、今日は晴れていないから」

これが元の分「今日は晴れたから、外に干した布団が乾く」の逆・裏・待遇の文章に当たります。
どれがそれにあてはあまるかわかりますか?
正解は
逆:「外に干した布団が乾く、今日は晴れだから」
裏:「今日は晴れない、外に干した布団が乾かない」
待遇「外に干した布団が乾かない、今日は晴れていないから」

それぞれの『真偽』に関しては上を参考にして考えて見ましょう。
ここで、「数学の知恵袋」が必要となってきます。

昔の偉い人が、この事象の逆・裏・待遇をを片っ端から調べたとき
ある共通点に気がつきました。

それは元の文が「真」なら待遇も「真」である。
逆が「偽」なら裏も「偽」である。
という風に元になる事象か待遇か、逆か裏のどちらかひとつずつの「真偽」を確かめれば
それに対する事象も同様である。
ということを発見したのです。

ということで元の事象「今日は晴れたから、外に干した布団が乾く」が「偽」とわかれば
おのずと待遇の「外に干した布団が乾かない、今日は晴れているから」も「偽」ということになります。

逆と裏に関しても同じです。どちらかを調べれば二つの文は互いに「真偽」が同じです。

とまぁ、前説が長くなってしまいましたが、
天才、西遠寺彷徨君が未夢ちゃんの間違いを指摘した意味がお分かりになったでしょうか?



元事象を『空白があるうちは終わらない』とすると
『空白がなくなれば終わる』は「裏」に当たるのです。
だから「空白があるうちは終わらない」というのは
西遠寺君のすばらしい分析力により「真」である。と証明されたわけですが
だからといって「裏」である「空白がなくなれば終わる」というのも「真」である
とはいえないのです。

未夢ちゃん分かった?

ちなみに
「空白があるうちは終わらない」の待遇は「終わるのは空白がないとき」にあたります。
もちろん仮説が正しいなら共に『真』です。
逆は「空白がないうちは終わる」ですね。そうなるとこれは「偽」例外は何なのかは
これからの西遠寺君の分析にかかわりますがそれは後ほどのお話で!

お分かりいただけたでしょうか?

あゆみのプチ数学講座
西遠寺彷徨氏の助手として解説させていただきました〜♪

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