明日は昨日

月曜日への往復 5

作:あゆみ

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問題の数学の授業は二時間目にやってきた。
教室に入ってきた数学教師は両手にプリントの束を抱えていた。

「さ、今日は、ちょっとしたテストをやるわよ」
「抜き打ちですかぁ?」
「それはないよなぁ」

などという抗議の声を聞き流して、先生は問題用紙と解答用紙を配り始めた。

「もう少し早くにいってくれれば準備のしようもあったのによ」

そんな声が聞こえるのは一時間目の英語が自習となっていたからである。

未夢は深呼吸した。いよいよである。
このテストだけは完璧に解かねばならない。
満点を取らなければ
『未夢に協力してくれる西遠寺彷徨』がいなくなってしまうのだから。
準備は充分異常にしてある。後はケアレスミスにさえ気をつければいいのだ。






「どうだった?」

テストが終わると七海が体をねじるようにして未夢を振り返った。

「まぁまぁかな。」

未夢は答えた。未夢はつかれきっていた。精も根も尽き果てた感じである。
それだけ集中していたのだ。何度も何度も見直し、それでも不安が残って
最後にはここの数字がよみにくいだろうか、とかここの式が途中でゆがんでいる
とかそんなところまで気になって、書き直しをしていたのである。

だがそれだけのことはあったと思う
間違えなく満点を取れるはずだ。
未夢は西遠寺彷徨に感謝した。西遠寺彷徨が半日をつぶしての徹底的な個人授業
をしてくれなかったら逆立ちしたって満点など取れなかったに違いない。

あれ?

未夢は首をひねった。

西遠寺彷徨の個人授業は『予備知識』があったからできた事ではないだろうか。
だとするとそれは時間を再構成させることに・・・。

未夢は不安になったがよく考えると、そうではないことに気づいた。

『満点を取った過去』が最初にあったから、西遠寺彷徨は個人授業をしなければならなかったのだ。
でなければ未夢には満点を取ることなどできなかっただろうから。
つまり『知らされたことを知られたとおりに実行する』
ために個人授業は必要だったのである。

西遠寺彷徨のやることには抜かりないのだ。

「あ!」

未夢は思わず声を上げてしまった。

「どうしたの?」

七海は驚いたがそんなことに構ってはいられなかった。
西遠寺彷徨のミスに気づいたのである。

木曜日の階段落ちのことだ。

西遠寺彷徨はあの時、階段から落ちてくる未夢を受け止めてくれた。
おかげで未夢は怪我をせずにすんでいるのだがそれがミスなのだ。

個人授業はいい。というより しなければならなかったことだ。
だが『知らされたことを知らされたとおりに実行する』のであれば西遠寺彷徨は
未夢を階段から落ちたままにしなければならなったはずである。
西遠寺彷徨は『未夢が落ちてくる』事をしって『受け止めてやろう』と考えた。
それはつまり予備知識の精で判断を変えてしまったことになる。

どこがどう変わったのか、まだよくわからないが、時間の流れは再構成されてしまったはずである。

逆にもし再構成されていないとしたら、それは、西遠寺彷徨の理論に誤りがあることを示している。
どちらにしても頬って置けることではなかった。

「急いでもどらなきゃ!」

「どこに?」
七海は驚いて未夢を見上げた。


だがどうやって戻る?
戻るためには『怖い思い』に遭わなければならない。
たがどうやって自分でその状況を作り出せばいいのだろうか。

屋上から飛び降りる。
などという方法は使えない。
確かにリープできるだろうがリープした後に残された体がただではすまないからだ。

『危険』が必要だが、その危険が実際に未夢の身に危害を加えては困る。
相反しあう二つの命題をどう両立させればいいのだろうか。

未夢は知恵を振り絞り、やがてこれならと思える方法を編み出した。

「危険」は必要である。だが一方でその危険から守ってくれるものも用意しておけばいいのだ。
より正確に言えば「守ってくれるだろう」と未夢が思えるものを。
必ず守ってくれるのではだめだ。いや、守ってくれなければ困るが、未夢が安心できてしまっては
困るのである。

『たぶん守ってくれるだろう』のその『たぶん』が必要なのだ。

「やっぱりここは西遠寺君に頼るしかないわね。」

3時間目は体育だった。校庭でサッカーを終えた男子達が昇降口にやってきて
靴を履き替え始めた。

未夢は階段脇に立って西遠寺彷徨がくるのを待った。
やがて、西遠寺彷徨が昇降口から上がってきた。
体操服姿である。
西遠寺彷徨は未夢の前を通り過ぎて階段を上がった。
教室は二階にあるから当然である。

いまだ。

未夢は飛び出し、階段を駆け上がった。
そして西遠寺彷徨を追い越したところで、足を踏み外した風を装って真後ろに倒れこんだ。

西遠寺彷徨なら、『たぶん』受け止めてくれる。

受け止めてよ!!

落下感覚を体に感じつつ未夢は願った。





〜注意〜
この作品は以下の作品をリスペクトし
だぁ!だぁ!だぁ!設定ではどうなるか考えて書いたものとなります。
メディアワークス 
「タイム・リープ・・・あしたはきのう」
著者 高畑京一郎

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