作:あゆみ
頭が割れたみたいだった。後頭部がずきずきと痛む。
未夢は両手で後頭部を押さえた。
触れたところが少し膨らんでいる。
「いったぁい…」
顔をしかめつつ未夢は起き上がった。
ベットの上である。
西遠寺彷徨はいない。
窓からは朝の光が差し込んでいる。
「リープ…したのかな?」
未夢は起き上がり、パジャマ姿のまま階段に降りた。
新聞を見に行くためである。
朝刊はダイニングの机の上に置いてあった。
父がどうやら置いてどこかに行っているらしい。
持ち出して広げる。
西遠寺彷徨が予想したとおり未夢は月曜日にリープしていた。
「さすが・・・」
感嘆した未夢はそこで遅ればせながら気づいた。
あれはわざとだったのだ。
未夢を月曜日にリープさせるために「怖い目」にあわせるために
西遠寺彷徨は未夢にあんな無理な体勢をさせたのだ。
おそらく、未夢がひっくり返ったのも西遠寺彷徨の所為だろう。
「あいつめ・・・」
未夢は憮然とした。
リープさせるのにいくら「怖い目」が必要だったとしても
あれはないだろう。
もっとやり方があってもいいではないか。
まともに床に打ち付けた頭が痛くてたまらない。
「あれ?」
未夢は首をかしげた。
頭を打ったのは木曜日である。
その痛みを月曜日の今感じるというのはおかしい。
『痛みを持つ』のは肉体であって精神ではない。
戻ったら西遠寺君に聞かなきゃ。
そう思いながら未夢は朝刊を手に取り台所を出た。
そこにはいつもと同じように未来がいた。
いつもの朝と変わらずコーヒーカップを片手に
パソコンの前でメールチェックをしている。
「おはよう。どうしたの?」
振り返った未来が不思議そうに未夢を見た。
未夢は思った。
毎朝変わらない朝。
未来はどんなに遅く仕事から帰ってきても
朝には必ず決まった時間に起きて未夢を迎えてくれる。
家事は苦手でも疲れている体をふるいたたせ
自分と過ごす時間を作ってくれる未来がすごいと思った。
私ったらしょっちゅう寝坊してる。
せっかくの団欒が短いことに気づいた。
これが終わったら少しは早起きしよう。
そう心に決めながら未夢は首を振った。
「ううん…」
とたんに頭がずきりと痛み、未夢は顔をしかめた。
反射的に手が頭を抑える。
「どうしたの?頭痛?」
「うん。ちょっとね。」
「二日酔いじゃないの?」
未来がからかうように行った。
またわからないことを…未夢は思ったが
ここしばらくの経験則にしたがって聞き流すことにした。
未夢は登校した。長らく空白だった月曜日の学校に。
頭痛がひどく、できれば休みたいところだったがそうも行かなかった。
わざわざ月曜日にやってきた目的を果たさなければならなかった。
空は快晴だった。
秋の空はひんやりと涼しく、後頭部の痛みさえなければさわやかな一日を過ごせたことだろう。
ずきずきする頭を抑えながら学校にたどり着いた未夢は昇降口で西遠寺彷徨を見つけた。
いつもながら細身の体に学生服がよく似合っている。
詰襟のホックがきっちりと留まっているのが西遠寺彷徨らしい。
「おはよ。西遠寺君」
そう声をかけると西遠寺彷徨は振り返って未夢を見た。
「あぁ・・・おはよう。」
怪訝そうに挨拶を交わした西遠寺彷徨はその場を立ち去ってしまった。
未夢は自分の態度が親しすぎたことに気づいた。
今は月曜日なのだ。
木曜日、少なくとも水曜日の後の西遠寺彷徨ならもっと違った反応をしてくれただろう。
だが月曜日の西遠寺彷徨ではそれを望めないことだったのである。
『月曜の時点では特に俺は君には注意を払っていない』
西遠寺彷徨の言葉が思い出される。
未夢は少し寂しかった。
HR
それはいつもと違うHRだった。
転入生がきて今日からクラスメイトになるということだった。
「蒼井誠也です。こんな半端な時の転入だけどみんなよろしく!」
蒼井は特に緊張した様子もなく、皆の前ではきはきと自己紹介をした。
ここで未夢の記憶が一致した。
リープの始まりだった火曜日、
当然のようにクラスに溶け込んでいた蒼井は
月曜日に転入してきたのだった。
周りの女子は季節はずれの転入生ということと
その整った容姿にキャァキャァと歓声を上げていた。
これまでクラスの中にアイドル的存在がいなかったクラスであっただけに
その盛り上がりは一日中続いた。
休み時間には誰かしら蒼井の周りを取り囲み
蒼井はまんざらでもなさそうに受け答えをしている。
ただ気づくと蒼井はクラスの中で、七海やクリス達と楽しそうに会話を楽しんでいる
未夢の姿を目で追い、そして凝視ともいえるようなまなざしで見つめていた。
そんなことを当人は露知らず
楽しそうにころころと表情を変えて笑っている。
「今日、転入していらした蒼井君、モテモテですわね」
クリスはこれまでの2時間目までを振り返って言った。
「まぁ、このクラスには女子を騒がせるほどの男子はいないからね。」
七海は冷静に分析してクリスの意見に同意する。
「えぇ〜そうかなぁぁ。私は○○君なんて『紅の豚』の舞台版にぴったりだと思うけど!」
綾は常に所属する演劇部の舞台の成功を考え
頭の中で、脚本を考えているようだ。
「うーん」
未夢は朝から痛む頭を抱えていた。
「どうした?未夢。」
「どうしました?未夢ちゃん」
「どうしたのー未夢ちゃん!」
三人同時、いつもと違う未夢の様子に問いかけた。
「えっ!なんでもないよ!」
未夢は考えていた。
西遠寺彷徨ってそんなに顔悪くないよね?
っていうか、結構いい部類だと思うけど。
何で今日転入してきた蒼井君みたいに騒がれたりしないんだろう。
未夢は教室の片隅で本を何か難しそうな本を読んでいる西遠寺彷徨を見ていた。
とりわけ親しい親友もいないみたいだし、
いつも一人で寂しくないのかな?
もっと、女の子の問いかけにやさしくしてあげればもてると思うのにな。
未夢は、これまでの西遠寺彷徨を振り返って思っていた。
なんだかんだいっても今の西遠寺彷徨は始めまったく信じていなかった未夢の「出来事」を
今では「信じたつもり」になってくれている。
朝は私に痛い目合わせて月曜日に飛ばしたこと怒っちゃったけど
実はいい人なのかもね…
〜注意〜
この作品は以下の作品をリスペクトし
だぁ!だぁ!だぁ!設定ではどうなるか考えて書いたものとなります。
メディアワークス
「タイム・リープ・・・あしたはきのう」
著者 高畑京一郎