明日は昨日

月曜日への往復 3

作:あゆみ

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西遠寺彷徨は未夢の『タイムリープ』現象の解決のため、必要条件を提示して見せた。
まず、

○過去を変えないこと
過去を変えれば時間が再構成されてしまうからである

○未来を変えないこと
そのためにはどうしたらいいのか、『同じ人間が、同じ状況にあれば同じ判断をして同じ行動をする』という定理から次のようなことがいえる

○『予備知識』は持たないほうがいい
それを持たなければ『同じ判断をして同じ行動をするから』である
では『予備知識』を持ってしまった場合、どうなるか

○『予備知識』と『同じ行動』を意識してとらなければならない
のである

あまり面倒くさくて、うんざりしてしまうが未夢にとってさらにうんざりさせるのが、これが必要条件に過ぎない点だ。
いってみれば『現状維持』の対策であり『事態改善』の対策ではない

だが仕方ない、未夢に『西遠寺彷徨の協力』が必要ない上、どれだけ面倒であろうとこの条件はなんとしても満たさなければならない。

「ところで、光月、実は君もいくつか『月曜日の予備知識』を持ってしまっている従ってその件に関しては厳密に再現してもらわなければならない。
 日記もそうだし何よりも・・・」


「数学のテストの事ね、月曜日に行ったとき、私は数学のテストを受けて全問正解しなければならない」

「そのとおり、よくわかったな」

「だってその準備のために、明日、嫌ってほどしごかれるんだもの」

「そうだったな・・・おかげできょうは教えなくてもいいわけだ。」

西遠寺彷徨がさきほどのメモを見ながら言った。

「今日できることでも、明日に延ばせるってわけね」

西遠寺彷徨は笑った

「なかなかうまいことを言う。」

「あなたが言ったことよ。今の私にぴったりの格言だって。」

未夢はあわてて口をふさいだが、手遅れだった。

「そう、明日の俺は言うんだな?」

西遠寺彷徨は渋い顔をした

「ごめんなさい。」

「…やら無きゃならないことを増やしてくれてありがとう。」

「ごめんなさい」

「まぁいい、いまさら一つ二つ増えたって変わらないさ。」

西遠寺彷徨は諦めたようにいった。






「テストの話に戻すぞ。」

「…えぇ。」

「明日、テスト勉強したそうだが、とにかく一度その成果を見せてくれよ。」

「また?」

「君にとってはまたかもしれないが、俺はまだなんでね。時間を計るからやってくれ。」

そういって西遠寺彷徨は鞄を手繰り寄せ、テスト問題を広げた。

「わかったわよ。」

未夢は問題をうけとり、机の前に座った。
すでにこのテストに関しては熟練している未夢である。すらすらと解き終えてしまい、もう一度全部を見直し、念のためさらに一度確認したが30分とかからなかった。

「できたわ」

「はやいな」

西遠寺彷徨は目を丸くしながら答案用紙代わりのルーズリーフを受け取り、採点を始めた
費やした時間と労力を考えれば当然というべきだろうが、満点だった

「たいしたもんだ。見直したよ、光月」

「…ありがとう。」

西遠寺彷徨は手放してほめてくれたが、その西遠寺彷徨が、明日には未夢のあまりの出来野悪さにあきれることを知っているので、未夢は複雑な思いである。

「なるべく早いうちにテストを済ませておいたほうがいいな。」

未夢としても肩の荷を早く降ろしたいから依存は無い。

「だけど、そうしたくても、できないわよ。行きたい『時』に自由にいけるわけじゃないんだもの。」

「まあね。だけど…君が問題を解いている間に考えてみたんだが、君の『ランダムタイムリープ』にも若干の規則性はあるような気がする。」








「どういうこと?」

未夢は驚いた。スケジュールを見ても未夢のリープはそれこそ『ランダム』で規則性など見出せなかったからだ。

「今から説明するが・・・ところでその前に、少し妙な注文をつけていいか?」

「なあに?」

「いすをちょっと引いて、両足を乗せてくれ」

「なにそれ?」

未夢はまじまじと西遠寺彷徨を見上げた。

「いいから、いうとおりにしてくれ」

「だって、お行儀がわるいわよ、それにスカートだし…」

「膝ですそを挟んでおけばいいだろ。頼む」

「…でも、なんで?」

「あとで説明する。」

「・・・」

どういうつもりなのかさっぱりわからないが、西遠寺彷徨が真剣なので、未夢は言われたとおりにした。

「それで椅子を後ろに傾ける」

「こう?」

未夢は、背もたれに体重を預けるようにして椅子を傾けさせた。四本ある脚のうち、前二本が宙に浮いた。
安定は悪いが、机の上に足を乗せているから、それでバランスを取ることはできる。

「これに何の意味があるの?」

「あとで教えるからしばらくそのままの体勢で聞いてくれよ」

「いいわ」

西遠寺彷徨は例のスケジュール表を目の前に差し出した。

「これを良く見て答えてくれ。君がリープするのはどんなときだ?」

「…怖いことがあったときかしら?・・・でも寝ているときにもリープしているのよね。」

「いや、それでいいんだ。寝ているときのは『戻る』と見るべきだろうからな」

「『戻る』?」

「これは、まだ確信があるわけじゃないんだが…先の時間をすごすというのは、やっぱり無理があるんじゃないかな。だから、飛ばした時間を、言い換えると、スケジュール表にできた空白を機会があればうめるようにするんだろう。」

「誰が?」

「きみがさ。君の無意識かもしれないが」

「ふぅん……。」

「それでだ。今度は『リープした直後の時間』に『戻る』時を見てみる。どんな条件がそろったときに『戻る』のか…どう思う?」

「一度、その翌日を経験してから…かしら?」

西遠寺彷徨はうなずいた。

「もっと正確に言うと『怖いこと』が君に危害を与えなかったことがはっきりしてから、だと思う。」

「?」

「つまりこういうことだ。『怖いこと』があると君は逃げる。時を先に飛んで逃げるんだ。
 そして、逃げなくても大丈夫だったんだとわかると、『戻る』次のリープや、寝ていて気が緩んだりしているときにね。」

「でも…ちょっとまって。水曜の夜に寝たら、次は金曜日の朝だったわ。別に怖いことがあったわけでもないのに、先の時間に飛んだわよ。」

「それは、金曜日の朝が、最も『安全な』時間だったからだろう。『水曜の夜』の君には『木曜日の階段落ち』の『時点』が怖かったから。だから、『そこ』そこにはいけなかったんだ。
 だけど、明日の朝、『無事に受け止めてやった』と俺が言う…というか、『言った』からそれによって、不安が除かれ次のリープの時には『階段落ち』の『時点』に来れたわけだ。」

西遠寺彷徨の解説に、未夢は納得させられてしまった。

「それで、少し原則を破って月曜日の光月の事について教えるがね。月曜日にはたいした危険は無いはずなんだ」

「ほんとに?」

「ああ。君は遅刻もしないで学校に着たし、いつもどおりに授業を受けていた。月曜日を避ける必要は無いんだよ。」

「…じゃあ、なんで今まで月曜日にいけなかったのかしら。」

「それはわからない。ただ月曜日に危険が無いことは確かなんだ。だから、君が俺の言葉を信じてくれるなら、今度リープする時には君は月曜日に行ける筈だ。…俺を信用してるか?」

西遠寺彷徨は今まで見せた、皮肉っぽい笑顔とは違い未夢の顔を覗き込みながら真剣な表情をした。

「さぁ、どうかしら。『信じたつもり』になら、なってあげてもいいけど?」

未夢は横目に西遠寺彷徨を見た。

「仕返しのつもりか?」

西遠寺彷徨が苦笑いを浮かべたとき、







一瞬ふわっと体が浮いた








いや違う。落下したのだ。バランスを崩して未夢は椅子ごと真後ろに倒れてしまったのである。





だから、こんな体勢は嫌だったのに。頭の隅でそう思いつつ、未夢は床への衝撃に備えた。























あとがきという名の愚痴


前回に続いて更新が遅くなってしまってすみません!!
またまたしばらく「明日は昨日」に関してはお待ちくださることになりそうです
楽しみにしてくださっている方すみません
更新はしますので気長にお待ちくださいな☆
愚痴、感想BBS&メールいつもながらにお待ちしております

2004/10/24

〜注意〜
この作品は以下の作品をリスペクトし
だぁ!だぁ!だぁ!設定ではどうなるか考えて書いたものとなります。
メディアワークス 
「タイム・リープ・・・あしたはきのう」
著者 高畑京一郎

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