明日は昨日

月曜日への往復 1

作:あゆみ

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「ただいま」

「あぁ。未夢か」

玄関口に現れた優に、未夢は目を丸くした。

「…なんで、パパが………?」

「早引けしてきたんですって」

優の後ろから未来が現れた。

「あなたのことが気になって仕事にならなかったらしいの。」

えぇっと…。

未夢は記憶を手探った。
『今』は木曜日の夕方だから…。

そうだ。木曜日の朝の未夢はひどく取り乱していたのだ。
それで、優や未来は心配して忙しい仕事をはや引きして家にいたのだ。

「ただの貧血だってば。ほら、もうなんとも無いでしょ?」

未夢はにっこりと笑って見せた。

「うん…。」

優は疑わしげだった。まぁ自分で思い返してみてもあのときの精神状態は不安定極まりなかったから
優の疑いもわからなくはない。

「そうみたいね」

未来のほうは比較的あっさり納得してくれた。
このあたりが男親と女親の違いなのだろうか。

「じゃあ。ドアをしめて、早くあがりなさい。ご飯にするから」

「うん…。だけど」

この時間帯に両親がいることは予定外だった。
いや、昨日の『金曜』の朝の両親の様子を思い出せば
気づくべきだった。

「どうしたの?」

未来は不思議そうにたずねる。

「友達を連れてきたんだけどいい?」

「外に待たせてるの?そういうことは早く言いなさい未夢。ななみちゃんたち?」

「そうじゃなくて…」

言いよどむ未夢に未来は怪訝な表情を浮かべたが女の感とも言うべき
勘の良さでいった。

「男の子ね?」

「うん・・・」

未夢はしまりかけたドアを開け、西遠寺彷徨を招き入れた。




「突然お邪魔してすみません。未夢さんのクラスメートで西遠寺彷徨といいます。今日はちょっと
 未夢さんと相談したいことがありまして、伺いました。」

西遠寺彷徨は礼儀正しく挨拶をした。











優と未来が話している

「いったい誰だ。」

「言ったでしょ?未夢のクラスメートよ」

「ただの男子クラスメートが家まで来るもんか?」

「さぁ?でもいいじゃない。礼儀正しいし、かっこいい私あの子好きよ」

「そういう問題じゃないだろ」

「そうね…もしかして最近未夢の様子がおかしかったのは彼のせいなのかもね」

「なんだとぉ!」

「変な意味じゃないわよ優さん。恋する乙女は気持ちが不安定って事♪」

「みゆぅ〜…」

優の泣きそうな声。
上の未夢の部屋にいる二人にも聞こえてきた。


「ごめんね、騒がしくて。普段ならこの時間二人とも仕事でいないはずだったんだけど
 今日は早かったみたいで。」

未夢は恥ずかしげにドアを閉めて西遠寺彷徨にわびた。

「別に気にしてないよ。…それより早いとこ、用件を済ませよう。長居しないほうがいいみたいだ。」

例のごとく、西遠寺彷徨は薄笑いをうかべて言った。

「・・・」

「とりあえず日記とやらを見せてもらおうか」

「変なところは読まないでね」

「…別に君のプライバシーには興味が無い」

そっけなく西遠寺彷徨は答え問題のページの開いた日記を受け取った。
そして十行足らずのその記述に目を通す。

「『・・・最初は冷たい人だと思うかもしれないけど、彼は頼りになる人だからか。』か」

西遠寺彷徨は面白げな笑いを浮かべた

「これはほめ言葉ととっていいのか?」

「知らないわよ、私が書いたんじゃないもの」

「でもいずれ書くんだろ?」

「それは…そうかも。。。知れないけど……。」

未夢は口ごもってしまう。

「ところで」

西遠寺彷徨は日記を未夢に返しながらいった。

「この前のページの内容を知りたいんだけど教えてくれるか?」

「…私のプライバシーには興味が無いんじゃなかったの?」

「日曜や、土曜日に似たような記述が無いか知りたいだけだ。」

「ないわよ。」

未夢は即答した。

「やけにはっきり言うな。間違いないのか?」

「だってその前に書いたのは八月だもの」

西遠寺彷徨は少し驚いたように未夢をみた。

「君は。日記を二ヶ月おきに書く習慣なのか?」

「そんなことあるわけ無いでしょ。たまたま書くことが無かったの。」

「なるほどね。すると、やっぱり『始まりは月曜』か…でも待てよ。。。」

西遠寺彷徨はじっと未夢の目を見つめた。強く鋭い視線だった。
心のおくまで見透かされてしまいそうである。

「な、なに?」

頬が赤らむのを未夢は自身で感じる。

「え?なんだって?」

西遠寺彷徨は聞き返した。
あの強い視線もとたんに緩む。

「・・・あんまり見つめないでっていったの。」

「ああ。ごめん。俺は考え事する時、そばにあるものを見つめる癖があるんだ」

「・・・」

未夢は西遠寺彷徨を思いっきり蹴飛ばしてやろうかと思った。

「じゃあ光月、もう一度、君が体験したことを話してくれないか?」

「・・・だって水曜日に話したでしょ?」

「あの時は『全疑』で聞いていたからま」

「今度は『信じたつもり』できいてくれるの?」

「あぁ。それにあの時よりも話す内容は増えたはずだろ?」

「わかった。もう一度はじめからね。」

「ちょっとまった。」

西遠寺彷徨は鞄を開けてノートと筆記用具を取り出した。

「真剣に取り組むといっただろ?机借りるぜ」

「う、うん。」

未夢は西遠寺彷徨が『信じる』という言葉にこだわったことを思い出した。
西遠寺彷徨は言葉の意味をかなり厳格に捉えているようだ。
本当に信じなければ『信じる』とは決して言わない。
だからこの『信じたつもり』なのである。
そして西遠寺彷徨が『真剣に取り組む』といった場合文字通り『真剣』なのだ

「それじゃ始めてくれ。」

西遠寺彷徨はシャーペンを手に未夢を促した。

「えっと…始めは、火曜日なのよ…」

未夢は話し始めた。








「ふぅ・・・」

「ご苦労様。」

「だが、おかげさまで、ここ最近の君の行動は把握できたよ。」

「それで…その後はどうするの?」

「データの分析だな。法則を見つけてみる。」

「そううまくいく?」

「さあ。」

「意外に無責任なのね。」

未夢はため息混じりに軽く言った。

「うまくいかなくて困るのは君だ。俺じゃない。」

突き放すようにいう西遠寺彷徨に未夢は驚いた。

未夢は唇をかんだ。それは正論だが、もっとほかに言いようがあるのではないか?
もっと優しくしてくれてもいいのではないだろうか?


未夢は再びノートに目を戻した西遠寺彷徨の横顔をじっと見つめた。




やっぱり女嫌いって、本当なのかしら…。























〜注意〜
この作品は以下の作品をリスペクトし
だぁ!だぁ!だぁ!設定ではどうなるか考えて書いたものとなります。
メディアワークス 
「タイム・リープ・・・あしたはきのう」
著者 高畑京一郎

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