作:あゆみ
「まさかと思ったが、本当に落ちてきたな」
見上げると、西遠寺彷徨の顔があった。
からかうような、面白がるような、諦めたような、なんとも複雑な笑みを浮かべている
「西遠寺君!」
未夢は、西遠寺彷徨の胸にしがみついた。体がぷるぷる震えている
「どうした?」
西遠寺彷徨が真顔になった。未夢の様子に気づいたのだ。
「く、バイクが…」
「バイク?」
「だめ!轢かれる!」
「光月」
西遠寺彷徨が、押し殺した、だが、強い口調でしかりつけた。
「しっかりしろ!ここは校舎の中だバイクなんか来やしない」
「そうじゃない、そうじゃないよ!」
激しく首を振る未夢の両肩を、西遠寺彷徨はぐっとつかんだ。
耳元に唇をよせ、落ち着くようにやさしく囁く。
「わかっているよ。光月、また未来を見てきたんだな。だが『今』は大丈夫だ。落ち着け」
力強い言葉だった。
そう
今なら平気だ
西遠寺彷徨がいてくれる『今』なら。
「西遠寺君…」
その安心感が、かえって未夢を気弱にさせた。
「おねがい…もう、一人にしないでよぉ…」
西遠寺彷徨の肩口に顔を埋めたときに、ぴぅと口笛が鳴った。
西遠寺彷徨ではない
驚いて顔を上げると、何人かの男子生徒が冷やかすような視線を抱き合う西遠寺彷徨と未夢に向けながら通り過ぎるところだった。
「大丈夫か?」
西遠寺彷徨はそんな周囲の状況には目もくれず、未夢を見つめた。
いつもながらの冷静沈着振りである。
そんな西遠寺彷徨が今は頼もしく思えた
「うん・・・ここは『今』は?」
「今は木曜日、掃除の時間だ。君はごみを捨てに行く途中で、階段から足を滑らせて落ちてきたところだ。」
木曜日…すると一日あまりを遡ったことになる。
そういえば金曜日の西遠寺彷徨が言っていた
『階段から落ちた君を受け止めた』
と。今はその 『時』なのだ
「怪我はないな?」
「・・・うん。」
西遠寺彷徨の手を借りて未夢は立ち上がった。階段の途中である。
一番下まで転落する前に西遠寺彷徨が抱きとめてくれたらしい。
だが今の未夢に怪我がないにしても
金曜の未夢は・・・・
身震いがした未夢に西遠寺彷徨がもう一度いった
「おちつけ」
「うん・・・大丈夫・・・」
恐怖心を振り捨て、西遠寺彷徨に頷いて見せた。
「さて。それじゃ。片付けることにするか」
下のほうから未夢がぶちまけてしまった紙くずを拾い上げていく
踊り場まであがったとき、未夢はその床面に水がこぼれていることに気づいた。
これでは足を滑らせても無理は無い。
「危ないなぁ…」
未夢がつぶやくと西遠寺彷徨はいった。
「そこのロッカーに掃除用具があるから拭いておけよ」
「えぇ…」
未夢は頷いてからはっ!っと西遠寺彷徨を振り返った。
「西遠寺君あなた知ってたの?」
「そこの水だろ?さっき一年がバケツで水を運んでてそのときにこぼれたんだ」
「それを知ってて…そのままにしてたの?」
きつめな口調になる未夢を西遠寺彷徨は笑みを浮かべながら見上げた。
「だって君はそこで足を滑らせることになってたんだろ?昨日そういってたじゃないか」
「それにしたって…」
足を滑らせた結果、大怪我をすることだってありえるのだ。
西遠寺彷徨のやり酔うには少し思いやりがかけているのでは無いだろうか。
「だから、ちゃんと受け止めただろう?怪我をしないように」
「・・・」
釈然としないものを感じながら未夢はロッカーから雑巾を取り出して拭いた。
拭き終わるとゴミを片付けた西遠寺彷徨が箱を抱えて待っている。
「さぁ。焼却炉に行くか」
焼却炉は校舎の裏手にある。
未夢と西遠寺彷徨は昇降口で靴を履き替え、外に出た
「で、君はいつから着たんだ?」
西遠寺彷徨は二人の間でしか通じないような質問をした。
「金曜の…放課後。うちへ帰る途中よ。」
「つまり明日か…。明日の俺とも何か話した?」
「えぇ」
「どんなことを?」
「それがよくわからないの。何を聞いても、『君は知らないほうがいい』って、そればかりで。」
「何でだ?君の事なんだろう?君に秘密にする意味が無いじゃないか」
未夢は、思わず立ち止まって西遠寺彷徨をみあげた
「あなたが、私にそういったのよ?」
西遠寺彷徨は肩をあげた。
「わからないな。何でだろう?」
西遠寺彷徨は本気で不思議がっているようだった。
金曜日の西遠寺彷徨と、木曜日の西遠寺彷徨で、なぜこう違いが出てくるのだろうか。
たった一日違うだけなのに。
未夢が首を傾けていると、西遠寺彷徨がぽつんと言った。
「きっと、今日の俺より、明日の俺のほうが賢いんだろうな」
焼却炉の中はごうごうと燃え盛っていた。
焼却炉の前には先客が何人かいたので、未夢と西遠寺彷徨は、しばらく待たねばならなかった。
「今日の放課後、何か用事があるか?」
西遠寺彷徨がたずねてくる。
「私の家にくるのね?」
先回りして言う未夢に
西遠寺彷徨は驚いたような表情を見せたがすぐに、にやりと笑った。
「なるほど…明日からきたなら、知ってて当然なわけか。」
〜 continue 〜
2004/5/5 あゆみ
まだまだ続きます
いよいよ未夢ちゃんの不思議な出来事の核心について迫っていきます
更新するのに時間がかかると思いますが、気長にお待ちいただけると嬉しいです
では、「金曜から木曜」編終わり。
〜注意〜
この作品は以下の作品をリスペクトし
だぁ!だぁ!だぁ!設定ではどうなるか考えて書いたものとなります。
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「タイム・リープ・・・あしたはきのう」
著者 高畑京一郎