作:あゆみ
西遠寺彷徨が未夢を解放してくれるまでには、午前中いっぱいかかった。
「ここにある問題の答えを覚えるんじゃない。解き方をおぼえるんだ。そうすればちょっとやそっとじゃ忘れないから」
と、それこそ、基礎の基礎から勉強させられたからである。
西遠寺彷徨は教師としても優れていた。未夢の数学知識にはところどころ混乱していたり、曖昧なままにしていた部分があったのだが、
西遠寺彷徨はそれを引き出し、体系付け、きれいに整理しなおしてくれたのである。
数学で九十五点以下は取らないと豪語していたのも、今の未夢には頷ける。
西遠寺彷徨は数学というものを理解しているのだ。少なくとも中学程度の数学ならば西遠寺彷徨に解けない問題は無いだろう。
減点されることがあるとすれば、ケアレスミスだけに違いない。
「じゃあ、もう一度やってもらおうか」
再び問題用紙に目を通すと、さっきと同じ問題であるのにかかわらず、やけに簡単に思えた。
「まぁ。こんなものだろう。」
採点を終えた西遠寺彷徨は満足そうにうなずいた。
「ありがとうございました」
「どういたしまして。だけど、光月、頼むからケアレスミスなんてするなよ。この努力がこの努力が何にもならなくなる」
未夢が頷くと終了ベルが聞こえてきた。
この後は1時間の昼休みだ。
「どうせだからここで昼飯を食っていくか」
と西遠寺彷徨はかばんを引き寄せ、中から弁当箱を取り出した。
「そうね」
西遠寺彷徨は座りなおし、弁当箱をあけた。
それをみて、未夢は目を輝かせた。
シンプルなお弁当だがバランスのよいおかずが並んでいる。
なかでもかぼちゃの煮つけと卵焼きはおいしそうだ。
「おいしそうなお弁当ね」
未夢がニコニコというと、西遠寺彷徨は澄まして答えた。
「親父は修行に出かけててね。お袋はガキのころ死んだし。俺が作ってるんだ」
「えっ!・・ごめんなさい・・・」
「いや、気にすること無いよ。昔のことだしね」
「お父さんが修行って何をしていらっしゃるの?」
「寺。住職なんだ。今回はインドに行くって言ってたな。」
「そうなの…」
未夢はその言葉に何か引っかかるものがあるがその理由が何なのかわからなかった。
そして相槌を打ちながら、こんな手の込んだ弁当が自分に作れるだろうかと、ふと考えてしまう未夢だった。
食事を終えてしまうと、西遠寺彷徨は言った。
「今からなら、午後の授業には間に合う。君は言ってくれ。」
「君はって……西遠寺君は?」
「俺は、まだ少し用事がある。」
「だったら付き合うわよ」
「いや、それじゃ困るんだ」
「何で?」
西遠寺彷徨が困ったような表情を見せたので、次の言葉が予想できた。
「それも、教えられないのね?」
未夢のことなのに未夢に教えたれないというのはどういうことなのだろう。
それが気にはなったが、相応の理由があって判断したことなのだろう。
頭の出来では西遠寺彷徨にかなわないことを思い知らされているので未夢は、
納得はしないまでも、受け入れることにした。
「わかったわ。でもその用事って、いつまでかかるの?終わるまで待ってるから」
「いや。それもだめだ。授業が終わったら一人で帰ってくれ。」
「え?だって私の登下校には付き添うって言ってたじゃない」
「何事にも例外はある。今日は駄目なんだ。」
「だけど…あなたがいない間にまた『跳んだ』らどうするの?」
「心配しなくてもいい。何かあるときはすっ飛んでいく。」
「…ほんとかしら。」
「嘘はつかない」
西遠寺彷徨ははっきりと頷いて見せた。
きょろきょろと、人目を気にしながら出た未夢は自転車置き場の方を回って校舎に向かった。
まだ昼休みである。そこで出くわす生徒たちが鞄を持ったままの未夢に、妙な顔を向けたが
こういうときは、堂々としていた方がかえって変に思われない。
未夢は悠然とした態度を装って昇降口に入った。
ところが上履きに履き替え
教室に向かおうとしたその時、未夢は転校生の蒼井と出くわしてしまった
「光月さん…今日は休みじゃなかったの?」
蒼井は未夢を軽く睨むようにした。
なぜ、こんな表情をされるのか未夢にはわからないが、
どうしてこう都合の悪いときに、蒼井と会うのだろう。
未夢はあわてていった。
「えっと・・・その・・・このところ、体の調子が思わしくなくて・・・それで
今日も休もうと思ったんだけど。少ししたらよくなったから・・・」
しどろもどろに未夢が答えたものだからおかしかったのだろう蒼井歯薄く笑った。
「そうなんだ。体調が悪いなら気をつけたほうがいいよ」
その言い方に妙に含むところがあるようなのが気になったが、ここしばらくわけのわからない事には限りなく直面している未夢である。
聞き流すことにした。
「そうね。気をつけるよ。」
精一杯笑顔を向けて未夢はその場を後にした。
「あら、未夢。重役出勤じゃん。」
教室に入ると、弁当を食べていた ななみが、目ざとく未夢を見つけた。
いつものように綾と珍しくクリスもそばにいる。
「ちょっと頭がいたかったから。。。」
「このところ、そんなことばっかり言ってるけどほんとに体、大丈夫なの?」
ななみが本気で心配してくれているのがわかって、ちくりと良心がいたんだ。
「大丈夫。気分的なものだったみたい。」
未夢はにっこりと笑って見せた。
「ならいいけど・・・」
「そういえば未夢ちゃん。今日は珍しく西遠寺君も休んでるのよ」
綾が例によって、からかうような視線をよこした。
「……ふぅん。そう?」
「ひょっとしたら二人で学校サボって、どこかへ出かけたんじゃないかって今、話していたところですのよ」
「でもがっかり」
クリスと綾はいう。
「・・・何言ってるんだか」
あきれて見せると
「冗談よ」
とななみは軽く笑った。
「でも折角だから、放課後、お見舞いでも言ったら?」
「そうですわ。なんなら私もご一緒しますわよ」
綾は目を光らせ、クリスは少し目を据わらせて言う。
「いいよ、そんなの」
未夢はあわてて、首と手を振った。
「じゃ、未夢は見舞いには行かないの?」
「「「西遠寺君がやすんでいるのに?」」」
最後の言葉は3人がハモった。
「…どうして、ななみちゃん達は、私と西遠寺君をくっつけようとするのよ」
「え?だって…」
綾とななみがそろって目をぱちくりした。
また何か、まずいことを言ってしまったのだろうか。
「まあまあ。まだあれが続いているのですわ。きっと。」
クリスが間に入ってくれたが、その口にした台詞が、これまたわけがわからない。
綾は今ひとつ納得しかねるというような表情を浮かべている。
「だけど、そんな複雑なのってある?」
「だからこそ、効果があるんでしょ」
いったい、何をはなしているのよ、あなた達
そう口から出てくるのを未夢はやっとのことで耐えた。
〜注意〜
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だぁ!だぁ!だぁ!設定ではどうなるか考えて書いたものとなります。
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「タイム・リープ・・・あしたはきのう」
著者 高畑京一郎