明日は昨日

金曜日から木曜日 2

作:あゆみ

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四中には裏門から入ってすぐの所に古い建物がある。
もともとは校舎立替のときの仮校舎として建設して利用していたものだが、立替が終わった後も取り壊すのはもったいないという事で現在部活動の部室として利用している。

西遠寺彷徨に誘導されてついてきた未夢はその場に立っていった。

「授業サボるの?」

人目を避けてその建物に入ろうとする西遠寺彷徨に続きながら未夢は聞いた。

「そういうことになる。」

「西遠寺君が?」

未夢は驚いた。同じクラスになってからというもの西遠寺彷徨は遅刻や早退はもちろん欠席もした事のない優等生の鏡だったからである。

「俺もさぼりたくない。だけど仕方ない。時間がないからな。」

「時間がないって?・・・ねぇ、何か知らないけどそれならわざわざ学校に来てなくても他の場所でよかったんじゃない?」

「制服きたままで、どこへ行こうっていうんだ?それに今日は学校に来てなきゃいけないんだ。」

「なんで?」

「いずれ分かる」

「・・・今は教えてくれないの?」

「教えられない。」

西遠寺彷徨は周りを見渡して様子を確認して未夢を促した。

「二階へ行こう。見つかりにくいだろう。」








「ちょっと待っててくれ、板かなんか探してくる。」

以前使ったらしい教室にかばんを置くと西遠寺彷徨はそういい残して一回へ降りていった。
わけの分からないまま未夢は一番綺麗そうなところに座った。

何がどうなっているか分からないが西遠寺彷徨が知らない方がいいというなら従ったほうがいいのだろうと思わざるを得なかった。
しばらくして西遠寺彷徨がダンボールと板を持ってきた。

「何をするの?そんなもので?」

「机代わりだ」

西遠寺彷徨はダンボールを置いてその上に板を載せる。

「それで?この『机』で何をするの?」

「勉強だよ。君の。」

西遠寺彷徨は短く答えた。

「え?」

「数学のテスト勉強だ。」

「・・テスト?」

「忘れているようだから思い出させてやるが、今週の月曜日に数学のテストがあった。」

「・・・覚えてるわよ。」

「なら分かるはずだ。君はまだ月曜日をやっていない。君はこれからテストを受ける事になるんだ。」

「・・・でも。。。こんな事までしてテスト勉強しなくても。」

「分かっていないようだな。・・・君はこのテストで100点満点を取らないといけないんだぞ。」

「・・・取れなかったら?」

「君の『予言』が外れる事になる。したがって、俺は君に協力しない。」

「だけど、現に西遠寺君はここにいるじゃない。」

「だから、俺をここにいられるままにしてくれよ。」

「分からないわ。もし満点が取れなかったらどうなるの?『居られなくなる』って?」

「詳しい事は『昨日』言う。今は余計な事を考えずに勉強に集中してくれ。」

「そんな事言われたって、こんなにわからないことだらけじゃ、集中なんてできないよ。」

未夢がむくれると。それまで表情をこわばらせていた西遠寺彷徨がすこし顔の力を緩めて静かな目で未夢を見つめた。

「意地悪で言ってるんじゃないんだよ、光月。知らない方がいい事や、知っているとまずい事があるんだ」

「だけど、」

「約束どおり、俺は今、真剣に君の事を考えている。頼むから、俺を信じて、俺の言うとおりにしてくれないか。」




そうまで言われては従うしかない。

「・・・わかった・・・」

未夢がしぶしぶと答えたとき校舎から始業ベルが聴こえた。


「じゃ。これを解いてくれ。」

西遠寺彷徨はかばんから一枚のプリントを取り出して即席の机の上に載せた。














「はい、そこまで」
一時間目の終了を告げるベルが聞こえると、西遠寺彷徨は未夢が答案用紙代わりにしているルーズリーフを手前に引き寄せた。
右手には赤いサインペンを用意している。

ルーズリーフを一瞥した西遠寺彷徨はちらりと未夢に目を向けた。
未夢は思わず目を伏せてしまった。

満点どころか、半分も解けなかったのである


「こいつは苦労しそうだ。」

採点を終えた西遠寺彷徨は、ため息とともに首を振った。

「えっと・・・」

未夢はおずおずと首を上げる。

「…満点を取らなきゃいけないんでしょ? こんなの一日じゃ無理よ」

「問題はわかってるんだぜ? そんなに心配するな。君にはできることが、俺にはわかっている。」

「そんな予言者みたいなこと・・・」

「この件に関してはそうかもしれないな。それに」

西遠寺彷徨は意味ありげに未夢を見つめた。

「昔からいうだろう、『今日できることを明日に伸ばすな』。これ以上今の君にぴったりの格言は無いと思うよ」

確かにそのとおりだった。
今の未夢にとって、明日が明日である保障は無いのだ。
月曜日がいつ来るのかわからない。
まだ時間があると高をくくっていて、もし、すぐに月曜日に跳躍してしまったら準備不足のまま
テストに望まなければならない。

「もう一度言っておくぞ。月曜日のテストで満点をとらない限り、俺は君の見方にはならない。
 そうなってしまったら君は自分ひとりで戦わなければならなくなるんだ」

『戦う』とは少し大げさだが、西遠寺彷徨が言おうとしていることはわかった。

「…うん。あなたの言うとおりにする」

西遠寺彷徨に協力を依頼したのは自分である。その西遠寺彷徨が必要だと判断したことなら従うべきだろう。

「まぁ、まだ時間はある、問題の解き方を君の頭に叩き込むことくらいの時間はな」

西遠寺彷徨は未夢の横に座りなおした。

「まず一問目だが…」











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