作:あずま
web拍手に使用していた「だぁ!小話」です。
1〜5までをまとめています。
中学生だったり、未宇が出ていたりと、時代に統一性がありませんのでご注意ください(^^;
1.『階段』
西遠寺を見上げて、未夢は溜息をついた。
目の前には長い階段。
自分の両手には大きな買い物袋が二つ。
買い物当番だった未夢は、ワンニャーに渡されていた買い物メモの通りに買い物をしてきていた。
その中身といえば、みそ、しょうゆ、砂糖、牛乳……などなど、重たいものばかり。
メモの中にあった「みたらし団子」を意図的に忘れるくらいの仕返しは許されると思う程度には、未夢は疲れ、ワンニャーを恨めしく思っていた。
階段と買い物袋を交互に見やり、もうひとつ溜息をついてからきっと前を向く。
買い物袋を持つ手にも力が入る。
「よし!行くぞ〜〜!」
気合を入れて、一歩踏み出そうとしたちょうどその時、右手が不意に軽くなった。
未夢の横を通り過ぎて、階段を数段あがったところで振り返ったその顔に、いたずらっぽく輝く瞳。
「一人で何ぶつぶつ言ってんだよ」
「彷徨!?」
「一つ持ってやるよ。お礼は冷蔵庫にあった饅頭でいいから」
「なっ!?お饅頭、私楽しみにしてたのに!それに、誰も持ってくれなんて頼んでないでしょーー―ーっ!!」
さっさと階段を上っていく彷徨に叫び返し、自分も急いで上ろうと買い物袋を持ち直して、ふと気付く。
残された買い物袋は軽いものが多く入った方。
ということは、重たいものは彷徨が持ってくれたということで……。
口元に笑みが浮かぶ。
なんか、すっごく嬉しい…かも。
一気に軽くなった心と荷物に、足取りも軽く階段を上る。
お饅頭は彷徨にあげてもいいかな、と思いながら。
end
2.『尻尾』
ゆらゆらと揺れるそれを目が追う。
未夢の動きに合わせて右に行ったり左に行ったり、時には跳ねたり。
楽しげに揺れる、それ。
「面白い……」
「え? なにが?」
呟いた言葉に、未夢が不思議そうな顔でこちらを見た。
小首を傾げれば、それに合わせてゆらゆら揺れる。
「それ」
くすりと笑って未夢の後ろに付いたものを指差せば、未夢も手を後ろに回して、その手に触れたものの先を掴んだ。
まだ不思議そうな顔をして、それを確認する。
「……ポニーテール?」
「そう、それ。尻尾みたいだ」
「そうかな?」
「ああ」
面白い、ともう一度呟いて、それを見つめる。
未夢は尻尾の先を掴んだまま何事か考え込んでいたが、突然顔を上げるとすっと近づいてきた。
そして、その掴んだままの手を楽しげに振り始める。
「ほらほら、彷徨」
「なにやってんだよ?」
目の前で揺れる尻尾。
「尻尾振ってるの! 彷徨と一緒に居られて嬉しいから♪」
「……バカ」
照れ隠しにそっぽを向いて。
それでも、熱くなっている頬や耳は隠せないだろうけど。
視界の隅に映る、ゆらゆら揺れる尻尾―――
end
3.『読書』
今日の彷徨は本を読むのに夢中。
そのまなざしは真剣で、横顔はとてもかっこいいのだけど、じっと未夢が見てることに気付かない。
「今日の夕飯何がいい?」
「んー?」
「カレーにしようかと思ってたんだけど、今日、お魚が安いんだって」
「んー」
「……ホットケーキでもいい?」
「うん」
「…………」
返ってくる適当な返事に、未夢の機嫌は下降気味。
むーっと睨みつけてみても、彷徨の意識は本の中。
構ってもらえなくて不機嫌になるなんて子どもみたいだと思うけど、それでも、今は何となく甘えたい気分なのだ。
彷徨に触れても邪魔にならないところを探してさまよっていた視線が、ある一箇所で止まった。
「彷徨」
「んー?」
「ちょっと借りるね?」
「んー…って、え? ちょっと待て未夢! お前なにやって…っ!?」
「なにって、ひざまくら」
彷徨の太ももに懐いたまま言えば、彷徨が唖然として見下ろしてきた。
少し気分が浮上して、そのままそこに頬を擦りつけるようにして甘える。
見上げれば、耳まで赤くなった彷徨の顔。
「べつにいいでしょ?」
「よくない! 頭下ろせよ!」
「やだ」
「やだって…未夢〜〜〜〜っ!」
「なによ…膝だけでも、私がもらってもいいじゃない!」
ちょっと拗ねた表情で発せられた言葉に、彷徨は絶句。
未夢が何に嫉妬したのか分かってしまって、ただ、赤くなるしかなかった―――
今日の彷徨は本を読むのに夢中……だった。
今は太ももに感じる熱と重み、そしてそこにかかる寝息が気になって仕方がない様子。
本のページは、進まない。
end
4.『手』
ママのおててはすてきなおてて。
おりょうりはときどきしっぱいするけど、とてもやさしいすてきなおてて。
みうのかみをとてもじょうずにむすんでくれるんだよ。
おさんぽするときはみうのおててをやさしくにぎってくれる。
やさしくてやわらかくてあったかい、だいすきなおてて。
パパのおててはすてきなおてて。
なんでもじょうずにできる、とてもおおきなすてきなおてて。
おでむかえするみうのあたまをいっぱいいっぱいなでてくれるんだよ。
みうをかんたんにだっこしてかたぐるましてくれる。
おおきくてつよくてかっこいい、だいすきなおてて。
end
5.『日記』
せんせい、あのね、きょうみうのいえにさんたおじちゃんがあそびにきました。
さんたおじちゃんはパパとママのこどものころからのおともだちで、とてもたのしいおじちゃんです。
きょうはさんたおじちゃんに、いろいろなことをおしえてもらいました。
それは――――
「なによっ!ちょっと間違えただけじゃないっ!」
「お前の場合はその『ちょっと』が多いんだよ!」
未夢と彷徨はいつものけんか。
いつものことではあるけれど、それはいつもよりちょっと激しくなってきている。
未宇が自分の両親と三太とを見比べながら、止めに入ろうかどうしようか、と迷っていると、隣に座っていた三太がその体をひょいっと抱き上げた。
そのまま、三太の膝の上に下ろされる。
「未宇ちゃんが気にすることないよ〜。2人とも昔からあんな感じだったし」
「むかしから?」
きょとん、と見上げてくる未宇に笑いながらうなずく。
「そうだよ。それにね、おじちゃんあの2人にぴったりの言葉を知ってるし」
知りたい? と問われて未宇が期待に満ちた目でこくこくと頭を振った。
「よ〜し、未宇ちゃんに特別に教えてあげようっ! それはね〜…喧嘩するほど仲が良いって言うんだよ」
「けんかしてるのに?」
「そうだよ。未宇ちゃんはパパとママが仲良しに見えないのかな?」
ふるふる、と頭を横に振る未宇を撫でて、三太は楽しそうに笑った。
「それに、馬に蹴られたくはないしな〜」
「おうまさん?」
「そうそう。未宇ちゃんはおじちゃんと一緒にパパとママが仲良く喧嘩してるのを見てような」
「……けられるの?」
「蹴られるの」
未宇ちゃんも蹴られたくないだろ? と尋ねられて、未宇はこくんとうなずいた。
「みう、おうまさんはすきだけど、イタイのいやだもん」
「三太っ! 未宇に変なこと教えんなよっ!」
「三太くんっ! 未宇に変なこと教えないでよっ!」
見事に重なった声に未宇と三太は顔を見合わせて肩を震わせる。
「ほらな。おじちゃんの言った通りだろ〜? 喧嘩するほど仲がいいってな」
「うんっ! パパとママ、なかよしだもん!」
嬉しそうに、満面の笑みで言われた言葉に、彷徨と未夢はバツが悪そうお互いを見やり、苦笑した。
「未宇には勝てないな…」
「そだね。……ごめんね」
「俺も悪かったよ」
柔らかい雰囲気に変わった両親に未宇は飛びついて、優しく抱きしめてくれる大好きな腕に甘えた――――
―――ということをおべんきょうしました。
でも、おうまさんにもあいたいから、こんどはパパとママのけんかをとめたいな、とおもいます。
そして、けられるまえにおうまさんとおともだちになれたらいいな、とおもいます。
end
だぁ!小話集の1です。
この中では「尻尾」が特にお気に入りですね。
時代や設定がバラバラで読みにくいところもあったかと思いますが、ご容赦くださいませm(_ _)m
ひとつでもお気に召していただければ幸いですv