作:宮原まふゆ
アスカは苦しそうに息を弾ませながら、公園の門の前まで来ると立ち止まった。
途中で携帯を鳴らしたが、この公園がわりと高台にあるせいなのか電波が届かなかった為、アスカはしたか無くそのままここまで走って来てしまった。
ふとアスカの中で不安がよぎる。
この携帯のように自分達も既に通じ合ってないのか?
アスカはメモリしてある芽美の携帯ナンバーを押す。
呼び出し音が3回。
「もしもし、アスカJr?」
芽美の声だ。アスカは少しほっとした。
「羽丘、ごめんな…大分遅れた。今どこだ」
「…いるよ公園に。」
帰らずに居てくれた…。それだけでアスカは嬉しかった。
「探して」
「えっ」
アスカはきょろきょろと周りを見渡した。
芽美の姿はここからでは見つからなかった。
「おい、どこだよ。」
「…内緒…探して」
アスカはすでに駆け出していた。
早く見つけたい。見つけないと、どうにかなりそうだった。
「くそーっ、どこだよ!」
アスカは走りながら、ある感触を思い出していた。
まるでセイントテールを追い掛けていたあの時と同じだ。
いつも追い掛けていた彼女の後姿を。
素顔が見たくて、彼女があの子だったらいいなと思い始めたのはあの事件の時。真実の鏡に映ったあの時…。
俺はたった一人に会いたいんだ。たった一人…きっとどんな名前でも構わない。
「馬鹿だよな俺も…『セイントテール』という名でも、『羽丘芽美』という名でも…世界中でたった一人しかいないじゃないか…好きになった奴は…」
アスカは公園の一番高台の木の下に崩れ落ちた。
ここなら公園全体を見渡せる。
きっと見つけられる。
再び携帯をかける。
突然頭上から携帯の着信のメロディーが聞こえた。
「えっ?!」
アスカはすぐさま上を見上げた。
そこには携帯を両手で押さえながら木の枝に座っている芽美の姿があった。
今にも泣きそうにしている芽美の表情。
アスカはそんな芽美を見て、愛おしさをつのらせた。
「羽丘…見つけた…」
「うん…」
「聞いてたか?…今の…」
「…うん」
「ごめんな…今まで…」
アスカは芽美をじっと見つめた。
決してそらすことなく真っ直ぐに。
見てくれる…。あの時のまま、いつまでも私だけを…。
「いいの。私信じてる…ずっと信じようって決めたの。だから、だからね…」
ふわりと木の枝からアスカの元へ降り立つ芽美。
長い栗色の髪が広がる。夕日に反射してキラキラ耀いた。
アスカは彼女を両手で受け止めた。そしてそのまま抱きしめた。
「…いつまでも捕まえていてね」
そっと耳元で囁く。
「ああ」
そして二人は、しばらくの間お互いの鼓動を肌で感じていた…。
二人は公園でしばらく過ごした。
もちろん芽美のバスケットの中身は、アスカのお腹の中に収まった。
短くなった二人の時間だが、それでも構わなかった。
二人でいられる…それだけで幸せだった。
そんな二人だが、帰る時間が近づくとお互い寂しいらしく、帰り道をわざとゆっくりと歩いていた。
「なあ」
「なに?」
「なんでお前、木の上にいたんだ?」
「アスカJrが来ると信じてたから、あの木から見下ろしたら公園の正門の先まで見えたから見てたの」
クスクスと笑いながら芽美は言った。
「あぁー!!お前!見てたのか?!ずっと!!!」
ぱっと、芽美は身体をひるがえすと、少しアスカから離れた。
「うん、見てたよ。一生懸命、走ってた」
「ちくしょー!まっ待てっ!羽丘!!」
二人は離れたり近づいたり、追いかけっこを楽しんだ。
これからもずっと、自分達はこうなのだろう。
このドキドキするような感覚を二人で分け合うのだろう。
そして、振り向くといつも目の前にいる人は…
芽美の腕をアスカはやっと捕まえた。
「捕まっちゃたぁ」
芽美はぺろっとを出した。
アスカはその捕まえた腕をそのまま引き寄せた。
「!」
目の前にアスカJrがいる。
そう思った瞬間、お互いの唇が触れ合った。
びっくりした表情の芽美を見て、アスカはにっと笑った。
「お返し。クリスマスの時の」
じぁ明日なと、照れくさそうに言うと、そのまま駆け足で走り去った。
柔らかな風が芽美の身体を包み、そして通り過ぎる。
その夜、あの公園では桜の花が咲き始めた…。
END