大掃除の後で…

5.

作:ロッカラビット

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「あっ……彷徨も、それゴミ?」

「あぁ。未夢もか。」


玄関を出て、門の手前。

ゴミが出たら各自ここに置きに来ると決めていた。


食事を終えて、お風呂を済ませたルウとワンニャーはもうすっかり夢の中だ。


「風呂、あいたぞ。」

先に来ていた未夢に声をかける彷徨。


「うん。」


返事の割に動く気配の無い未夢に、ゴミ袋を置いた彷徨が振り返る。

そこには空を見上げて目を輝かす未夢がいた。


「星か?」

「…うん。きれいだな〜って。」

「ここは街の明かりが邪魔しないからな。」

「こんなにいっぱい輝いてたんだねぇ。うちからじゃ、こんなに見えなかったから不思議な感じ。」

「………。」


未夢から発せられた「うち」という言葉に、黙り込む彷徨。

未夢の家はここじゃないのだと、当たり前のことが急に胸をさしてくる。

仮住まいのこの家で、たまたま一緒に暮らすだけの関係。

未夢はいつか自分の元を去っていく。

突如出来た未夢との距離に、足元から崩れそうになる。


「彷徨、大丈夫?調子悪いの?」


またしても心配そうに顔を覗き込む未夢。


「お前は、どうして…。」


未夢の優しさが心を苦しめる。

勝手に好きになったのは自分なのに、それに気が付かない未夢がもどかしい。


「え?何?彷徨?」


彷徨の呟きは未夢には届かず、小首を傾げて見つめる姿に、我慢が限界に達する。


「ちょっとこっちこい。」


ぼそっと吐き捨てられた言葉の意味を理解する前に、引っ張られた未夢の体は彷徨の腕の中に納まっていた。

彷徨の突然の行動に呆気にとられ、しばらく抵抗もせず大人していた未夢だったが、状況を理解して腕の中から顔を出す。


「か、か な た?」


恐る恐る彷徨の顔を覗く未夢。

彷徨の腕の力は緩まらず、抱きしめられたままの状態から見える彼の顔の近さに未夢も顔を真っ赤にする。


「ちょっ、ちょっと、彷徨?」


顔が赤くなったことで、さらに恥ずかしさを覚えた未夢は慌てて離れようともがき出す。


「嫌か?」


そんな未夢の様子に寂しそうな声を出す彷徨に、未夢も動きを止める。


「え?嫌っていうか…だって、彷徨この状況……わかってる?」


恥ずかしそうに、それでもいつもと様子の違う彷徨を気遣って優しく問いかける未夢。


「わかってる。」


思いもよらず彷徨の返事は真剣で、未夢も目を見開いて彷徨を見つめる。


「未夢、俺、おまえがスキだ。」


突然の告白に、言葉も出ずに口を開けたまま静止する未夢。

そんな未夢の様子に、複雑そうな顔をして唇を噛みしめて微笑む彷徨。


「未夢、ごめんな。こんなこと急に。」


少し腕を緩めて、未夢との間に距離を作る。

離れていく彷徨のぬくもりに、ハッと我に返る未夢。


「今言ったこと、忘れてくれ。俺たち家族だし。未夢も困るよな。わりぃ。」


緩められていく腕が、とうとう外れて未夢の体を冬の冷気が襲う。

そのまま家の中へ戻ろうとする彷徨の後姿に、未夢が動く。


「待って…。」


彷徨の背中に飛びついて、顔を背中にうずめる。


「そんなの、ずるいよ…。自分だけ気持ちを伝えて逃げるなんて…。そんなの…。」

「未夢?」


背中に感じるぬくもりに、少しだけ期待の色を滲ませて名前を呼んでみる。


「彷徨、スキだよ。」


背中が急に熱くなる。

触れている面から全体に広がって、体中に灯がともる。

腰に巻きついた未夢の腕をそっと引っ張って、自分の前に連れてくる。

もう一度、向き合う形で見つめ合う。


「本当か?」

「本当だよ。」

「後で嘘って言っても、もう遅いぞ?」

「彷徨こそ、騙してたら許さないから。」


真っ赤な顔で上目遣いに言われたら、彷徨だってたまらない。


「証拠をやるよ。」


耳元で囁くと、未夢の唇に自分のを重ねた。

ひんやりとした唇は柔らかく、一瞬で離すのには惜しくて。

そのまま唇を押しあてる。

触れた所から熱をおびていくそれに、胸も高鳴る。

抑えられていた欲求が止められない。

未夢を求めるように、深く絡めていく。

少し離れては角度を変えて、何度も…。

未夢から漏れる艶っぽい声に、興奮の色が隠せない。


どれくらい唇を重ねただろうか…。

ゆっくりと解放すれば、未夢はへなへなと地面に崩れ落ちていった。


「あぶね…。」


咄嗟に脇を抱えて、それを阻止する。


「彷徨、私、もうダメだよぉ〜。」


真っ赤な顔で彷徨を見つめて弱々しく呟く未夢の可愛さに、もう一度キスしたいという衝動をなんとか堪える。


「まだまだこれからだぞ?」


意地悪そうにニヤッと笑えば、頭からポンッと煙を出して黙り込んでしまった。

そんな未夢に追い打ちをかけるかのように、耳元で囁く。


「続きはまた今度…な?」


その言葉に、ハッと身体を起こすと


「な、な、なに言ってんのよ〜スケベ〜!!」


と両手で彷徨を押しやって家の中へ走って行く未夢。


走り去る後姿を見送って、先ほどの出来事を、自分の発言を、思い出す。


「お、俺、何言って……。」


顔が熱くなる。

ぐしゃぐしゃと自分の頭をかいて、とぼとぼと未夢の後を追う。


「あー、明日、どんな顔すりゃ良いんだ?」


困ったようにそう呟く彷徨の顔は、言葉とは裏腹に幸せそうに優しく微笑んでいた。


**次の日***


「あ〜〜!!ルウ君ダメ〜返してぇ〜!」


空を飛ぶルウを追いかけて、廊下を走ってくる未夢。


「ほーら、ルウ、また何か悪戯したのか〜?」


飛んできたルウを捕まえて、顔を覗きこんで話しかける彷徨。


「ルー」


腕の中のルウは不機嫌そうに彷徨を見上げる。


「これ……。」


ルウの手に光るシルバーの塊に目が止まる。


「ルウ、ダメだぞぉ。これは未夢のだから返すぞ?」

「や〜、あぅ…。」

「あー良かったよぉ。彷徨ありがとう。」


ルウに追いついた未夢が、走るスピードを緩めて彷徨の前に歩み寄る。

彷徨の手からペンダントを受け取って、お礼を言う。


「ほら、ルウ、ごめんなさいは?」


優しく促す彷徨に、プーと膨れていたルウも未夢の方を振り向いて小さく謝る。


「ちゃーい。」

「ルウ君、いい子ねぇ。これは大切な物だからあげられないの、ごめんね。でも今日は一緒に遊んであげられるから。」


優しく微笑む未夢に、嬉しそうにルウが飛び立つ。

彷徨の腕の中をすり抜け、未夢の腕に納まる。


「未夢、それ、何?」


ルウがいなくなった腕を見つめつつ、何気ない感じで声をかける。


「あぁこれね…。こっちへ来る時に友達にもらったの。…。」


なんとなく言いにくそうに言葉を濁す未夢に、不安とイライラが募る。

自分でも情けないとは思うのだが、言葉が勝手に口を飛び出す。


「へー、そんなアクセサリーくれる奴、居たんだな。」


ヤキモチを焼く彷徨の気持ちには気が付かず、素直に言葉を返す未夢。


「うん…。じ、実はね、これ、もらったのにずっと失くしてて…。情けないよね。大事な友達からもらったのに、なくしちゃうなんて…。でも昨日の大掃除でやっと見つけたの。」


恥ずかしそうに頭を掻きながら説明すると、最後は顔をあげて嬉しそうに彷徨を見る未夢。


「彷徨知ってる?これ、ロケットペンダントって言うんだよ。こうやってね、中に写真が入れられるんだ〜。しかも中にもう一枚めくれるようになってて…ほらね。」


ペンダントを開いて、こちらへ見せる未夢。

そこにある笑顔の男に顔を曇らせる彷徨。

けれど、めくった先にある顔に目が点になる。


「似てるでしょ〜。うふふ、この二人双子なんだよぉ〜。こっちが弟のルイ君で、こっちが姉のミホちゃん。」


写真を見つめる彷徨にフフッと笑うと未夢が話を続ける。


「みほちゃんの上に3人お姉ちゃんがいて、下に2人の妹がいるんだよぉ。お父さんは海外出張が多いらしくて、とにかく女だらけの家族でね…。そのせいか、るい君は男の子というか女の子というか…。だから私もすぐに仲良くなってね。みほちゃんの家に遊びに行くと、るい君も一緒に男性アイドルの話で盛り上がってね。」


その頃を思い出すように楽しそうに笑う未夢に、はぁと大きなため息をつく彷徨。


「ん?どうかした?彷徨。」

「いや、なんでもない。」


自分の嫉妬と独占欲の強さに苦しんでいたなんて、未夢にはわからないだろう。

こんなに想っていることを悟られないのがいいことなのかどうなのか、それも悩みの種ではあるのだが。


「あっでも、このペンダントについてた手紙に、中身を入れ替えて使ってねってあったから、ルウ君の写真を入れちゃおうかな…。」


思いついたように、腕の中のルウの顔を見て話しかける未夢に、ニヤリと何かを思いつく彷徨。


「写真はもう一枚入れられるんだろ?だったら俺の写真いれとけよ。」

「え?な、なんで‥‥…?そ、そ、そんな、だって彷徨写真嫌いでしょ?」

「未夢の為なら撮られてもいいぞ?」

「んなっ!」


顔を赤くする未夢に追い打ちをかける。


「そしたら未夢の傍にいつでもいられるだろ?」


顔を近づけて耳元で囁けば、先ほどよりももっと顔を赤くする。

そんな可愛い彼女に口づけをと思った所で…。


「未夢さ〜ん、彷徨さ〜ん、ルウちゃまみかけませ……あ〜こちらにいらしたんですねぇ。ルウちゃま探しましたよぉ。って、あれ?どうかなされたんですか?未夢さんお顔が真っ赤ですぅ。え?彷徨さん、わたくし何かしましたかぁ〜?」


彷徨の鋭い眼差しに気が付き、ビクッと怯えるワンニャー。


「な、なんでもないよぉワンニャー。それよりそろそろお昼じゃない?さ、行こう行こう。」


ワンニャーの背中を押して歩き出す未夢。


「え?え?え?どうされたんですかぁ〜?えぇ〜?」


訳が分からず押されるままに歩き出すワンニャー。


「未夢、後で俺の部屋こいよ〜さっきの続き待ってるからさ。」


楽しそうにからかえば、「彷徨のバカー」という叫び声が帰ってきた。

真っ赤になった彼女の顔を思い浮かべ、彷徨は幸せそうに笑った。



5話が以上に長いですね…配分ミスですが、もう修正する元気はないので、このまま上げます。(笑)

今年はこのサイトに投稿を始め、例年よりも楽しい一年となりました。

つたない文章で読みにくい中、多くの方にご覧いただけたこと、本当に嬉しかったです。

コメントや拍手に大喜びしつつ、楽しく作品を書くことが出来て幸せな年でした。

本当にありがとうございました。

だぁ!だぁ!だぁ!大好きだぁv

それでは、よいお年を!

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