作:杏
「…う、ん…あさ…? あたまいた―――い…」
なんか、いつもと違う…あれ……?
ここ…あぁ、そっか。昨日、結婚式に出て…、ホテルに…
「未夢…? おきた?」
えっ………
声の方に、頭だけ動かして気がついた。違和感。
枕が…ってゆーかその前に距離が……
「なっ! なんで一緒に寝てるのよっっ!?」
「うるさい、頭に響く…。 おまえが放さなかったんだって…。 あー…腕しびれた……」
いつになく気怠そうな彷徨が、隣で身体を起こした。さすっている左腕には、わたしの頭が乗っていた、らしい…?
「おまえ、大丈夫か? 気持ち悪いとかないの?」
「…? なんで?」
「…ないんならいーや。 とりあえず着替えれば? ドレス、シワに…ってもう遅いかもしんねーけど。 髪もワックスついたまんまだし」
「………シャワー浴びてくるっ」
なんか…わかんないんだけど、いろいろ…。
バタンと閉めたバスルームのドアに寄りかかって、ボサボサの髪をかき上げた。確かに、ところどころワックスで固まってる。
「とりあえずシャワー……」
鏡を見ると、綾ちゃんがしてくれた薄いメイクも、ほとんど残ってない。冷たい水で顔を洗って、目を覚ます。
「あがるまでに思い出さなきゃ!」
えっと、昨日は…
……なんか頭痛い。生理痛…?いやいや、まだだし。ぶつけた痛みじゃないよね?風邪でもひいた?
…って違う違う!とりあえず昨日のことを!えっと、え〜〜〜〜っと…
『…何コレ? おさけ…?』
『ゆうかさぁん〜〜〜…もぉ、あるけな…』
『未夢ちゃんは酔っぱらってないでっすぅ〜!』
『えへへ〜うでまーくらっ! いっしょにねよ?』
「お酒…? 一緒に、寝よう…?」
誰に言ったの、わたし!ってどう考えても彷徨だよね…?
何がどーしてお酒なんて飲んじゃったの!?わたし…
ちょっとだけ思い出せた言葉に、さーっと血の気が引いて、あまりの恥ずかしさに、身体中の血が沸騰した気がする。
「なっ、なんでなんでなんで…っ!? えっと〜〜〜…結婚式! そうよ、結婚式!」
そうそう、こないだママから電話と荷物が………
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ジリリリリリリ ジリリリリリリ
夕刻の西遠寺に響く電話の音。ルゥと遊んでいた未夢が、廊下を急いだ。
「はいはーい、今出ますよぉ〜! はいっ、西遠寺ですぅ〜」
『み―――ゆ―――――!? 元気っ!?』
「ママ!? うん、元気…」
『ママね、未夢と彷徨くんにお願いがあって!』
「お願い?」
『もーすぐ荷物が届くと思うんだけどぉー』
ピンポーン
「はぁーい! ワン…かぁなたぁ〜! 玄関出て〜!」
『彷徨くんももう帰ってるの?』
「えっ、あ、うんっ。 今日は委員会ない日だから…」
本当は、今日は委員会の日で、彷徨はまだ帰っていない。未夢が呼びながら目配せしたのは、ワンニャー。
『そう、じゃあ話が早いわ! 彷徨くんにも聞いてもらって!』
「えっ……うん、いいよ。 なぁに?」
いない彷徨がそばに来たかのように、タイムラグを作る。ここに来てから、こーゆーことが上手くなったな〜って、たまに未夢は思う。
その間に、ワンニャーが大きな荷物を抱えて戻ってきた。
『そっちに送った荷物に、あなたたちの着て行く服が入ってるから。 それと、未夢の口座にお金も振り込んだわ』
「…服? お金?? ママ、いったいなんの話?」
『ホントはパパとママが出席するはずだったんだけど…先方にも話してあるから! ふたりでよろしくね!』
未夢が受話器片手に、箱の厳重なガムテープを剥がす。
未来の話が見えてこないのはいつものことだけど。それでも13年も付き合っていれば、おおよそピンとくるものなのに、今回は見当もつかない。
「だから、何の……ドレスと、スーツ? 何これ、招待状?」
「ただいま…」
「おかえりなさーい」
彷徨が帰ってきた。
電話のそばで、大きな段ボールと共に座り込んでいる未夢を指差して、ワンニャーと目を合わせる。
「未夢さんのお母さまですぅ〜」
こっそりとワンニャーが伝えると、未夢が振り返って手招き。
俺?と今度は自分を指してみる。力いっぱい未夢が頷いた。
「何の話だよ?」
「さぁ、わたくしに訊かれても…」
仕方なく未夢のそばに寄る。聞き耳をたてなくても、未来の声はよく聞こえた。
『だからね、結婚式! パパとママの大学の恩師の娘さんなの〜!
今度の土曜日だから、よろしく! 失礼のないようにね!
あ、ご祝儀袋だけ、そっちで用意してくれる? こっちにはなくってぇ〜』
「土曜日って…明後日じゃない! 欠席にできないの!?」
『だってパパもママも一昨日まで行くつもりだったのよ! でも急な仕事が入って帰れなくなっちゃって!
先方にも用意があるでしょ? 今さら欠席なんて申し訳ないし、座ってるだけでいいから! じゃ、よろしくね〜』
「ちょ、ちょっと! ママっ!」
『ツ―――ッ ツ―――ッ』
「切れちゃった…信じらんない! どぉしよ…」
「何だったんですかぁ〜?」
ワンニャーがルゥを抱えて居間から出てきた。段ボールを覗き込んで、中身を出す。
「パパとママの代理で明後日の結婚式に出ろって…」
「へぇ〜結婚式ですかぁ、いいですねぇ〜」
ヒトゴトのように言うワンニャー。未夢は招待状を眺めたまま、頭を抱えた。
「とりあえず着てみられては? 素敵ですよぉ〜このお洋服」
「きゃぁーい!」
「………着たら行かなきゃいけない気がする…」
ワンニャーの差し出すドレスを受け取れない。箱の中には、靴もバッグもアクセサリーも、一式揃っている。
「どっちにしろ今回は拒否権ないだろ。 諦めて合わせてみろよ」
彷徨はさっさと自分の分を持って、自室に向かってしまった。
「諦めてって…結婚式なんてどうしていいかわかんないよぉ…」
「さぁ未夢さんも! ひとりじゃないんですから、彷徨さんがなんとかしてくれますよぉ〜」
「うぅ〜〜〜…」
気が進まないながらも、ようやくワンニャーからドレスを受け取る。
(そ、そうよ、彷徨がなんとか…独りじゃないし! 座ってるだけだもん、ね…?)
ワンニャーの言葉に少しだけ心を軽くして、未夢も着替えに向かった。
杏です!新作投下いたしまーす!
とりあえず、お酒は二十歳になってから!です、はい。
つい先日、友人の結婚式に出席してきたので、自分的お題(表)は結婚式。
(裏)ってのもありますが、それは最後にでも明かそうかしら。
「酔っぱらい」ではないですよ(笑)
中2の彼らにこのネタ、難しい!
高校生ぐらいにすることも考えましたが、やっぱり中2の彼らで書きたくて。
完成する目処はたっていますが、完結させるまではやっぱり不安です(^^;
またしばし、お付き合いいただけると嬉しいです。
ありがとうございました。