作:杏
放課後、人気のない体育館裏。目の前には自分を呼び出した女子。
彷徨のあまり好まないシチュエーション。
今日は終業式で、クリスマスイブで。午後から活動する部もないらしく、体育館もグラウンドも静かだった。
「―――ごめん」
断り文句はなぜ謝罪の言葉なんだろうと、彷徨はいつも思う。
悪いことはしていないはずなのに。
そしてこの後は大概、しゅんと肩を落として去っていく。泣き出すやつにあたったときなんかは、こっちが参ってしまう。
「…ありがとうございます。 ハッキリと言ってくださって」
にこりと笑った今日の相手は、物分かりがいい方。こーゆーやつは次に、自分の好きなヤツを言い当てたりする。否定も肯定もしないけど。
そんな風に、いつもなら内心で分析しながら、自分を含めたこの光景を客観視していた。
けれど、今日は違った。
次に起こるだろう暴走への恐怖は顔に出さないようにしているけど、顔の筋肉が強張っている。
凶器になりえるものがないか、彷徨は周辺に目を走らせた。
「わたくし、…今まで彷徨くんや未夢ちゃんにたくさん迷惑をかけてきましたわ…。 こんな風にちゃんと向き合えば、終わってしまう…それがわかっていたから、逃げていました。
彷徨くんの優しさに甘えて、遠回しに想いをぶつけるばかりで、……本当に、ごめんなさい」
深々と頭を下げた相手の肩から、紅い髪がふわりと流れた。
「花小町…?」
目の前のクリスはいつもの彼女ではなかった。
今までのように妄想を先走らせることはしない。ちゃんと自分の思いを、言葉を紡いでいる。
そんな彼女の、小さいながらしっかりとした声はえらく現実的で、かえってリアリティがなかった。
現状がホンモノだと教えてくれたのは、校舎に響いたチャイムの音。
それを合図に、クリスは頭を上げて、さっと髪を整えた。
「――いけない、そろそろ帰らないと、フライトの時間を遅らせてしまいますわ! では彷徨くん、ごきげんよう。
明日、わたくしの分も頑張ってくださいね。 それから、…よいおとしを……」
時折吹き付ける冷たい風も、彼女の声の合間を狙っている。邪魔をするものは何もない。
対話をしていたはずの彷徨も、クリスの言葉を遮ることが出来なかった。
「――花小町!」
はっとして、彷徨は呼び掛ける。
とうに背を向けて歩き出していたクリスは、足を止めた。けれど、振り向かない。
「……また三学期、会えるよな?」
話の総括は、隅に置いた。もう会えないんじゃないかと、違和感からの一抹の不安がよぎる。
彼女の望む意味ではないから、少しだけ躊躇った。
「…もちろんです」
振り向いたクリスは泣き出しそうな笑顔を彷徨に向ける。
もう一度、優雅にお辞儀をして、今度は目線を交わすことなく立ち去った。
◇◇◇
「――――未夢ちゃん!」
綾の呼ぶ声が響き、しんと周囲が静まった。クラスメイトたちの視線が、全部自分に向けられてる。
「未夢ちゃんのトコだよ! 大丈夫?」
「う、うん、ごめん。 ボーっとしてた…」
注目に驚いた未夢は、そこまで言われてようやく自分がやらかした事態に気が付く。
明日の会場となる文化ホールまでみんなで足を運んで、リハーサルの真っ最中だった。
“未夢ちゃんのトコ”と言われたから、おそらく自分のソロに入るところ。
「しょうがない、もっかいソロの直前のサビから、おねがーいっ! これで時間的に最後だよぉ〜」
綾が構えた指揮棒に、注目が移る。一瞬の無音を確かめたピアノが、音を奏で始めた。
(…ダメダメ、今はこっちに集中しないと)
ふっと短く息をつく。今度はしっかり伴奏を聴いてみんなとサビに入った。
「…そうよ あなたと――…」
ソロパートもちゃんと歌えている。高音もうまく出せた。
「――きみとなら さあ」
自分のパートを終えると、次は男声。彷徨の番。
その次はまた未夢、そしてもう一度、彷徨。何度か掛け合って、最後は二人で。
最後の和音が高い天井に消えたとき、わぁっと周囲から拍手が起こった。
友人たちだけではない。客席や舞台袖で明日の用意をしているスタッフ、リハーサルの順番待ちをしていた他の出演者も、舞台中央の未夢と彷徨に注目している。
「ブラボ―――!! 予想以上の出来よ、未夢ちゃん! これなら明日の本番はスタンディングオベーション間違いなしっ!」
「未夢に任せて正解だったねー! この歌声にあの衣装と演出でしょー! コンクールでこれができてれば確実に優勝だったのにー」
「すっげ〜ハモりだったぜ〜彷徨ぁ! トリにも負けず劣らずって感じでさぁ、やっぱ相手が違うと、おまえのやる気も全然ちが……っと、もごもご…」
退場の流れまでを練習するはずが、つい全員が詰め寄るように輪をつくってしまった。
持ち時間がなくなりそのまま舞台袖に促された彼らは、まるでヌーの大移動のよう。
「本番もこの調子でよろしくねっ、未夢ちゃん!」
「う、うん…」
ひしめき合うクラスメイトの波に引かれながら、自分の両手をしっかりととって目を輝かせた綾に、未夢は対照的な気のない返事。
歌いながら、彷徨の声を聴きながら、ずっと思い返していたのは、初めてソロパートを練習したときのことだった。
あけましておめでとうございます。杏でございます。
ようやく、新しい相方と出会いました。
ストレスなく書けるのが嬉しい。
昨年の目標は達成できていないので、今年こそ達成できるように頑張りたいとおもいます。
前年より完成度の高い作品をあげること。
言葉のボキャブラリーを増やすこと。
プロットを細かくして、あとで詰まらないようにすること。
今年は加えて、焦らずに自分ペースで上げること、かな。
とは言え、あんまり季節はずれにはならないようにね(^^;
これ、クリスマスだし…。
いつもお付き合い戴いているみなしゃまには、感謝感謝です。
拙い言葉繰りの作品ばかりではございますが、今年もまたよろしくお願いいたします。 杏
あ、追伸。
みなしゃんと仲良くなれたら、コミュニケーションがとれたらいいなぁ、と常々思っております。
なかなか掲示板も使えていなかった昨年でしたが、今年は頑張ってみようかなぁ。。
ついったのぼやきも、意外とみなしゃん見てくださってるようで?(気のせいかもですが)嬉しいです。
もし良かったらなんかつぶやき返してやってください。喜びます。