作:杏
ピンポーン
「カ―――ナタ―――――!」
「…ん……」
外から響くアレックスの声に少しだけ目を開けると、外は明るくなっていた。
射し込む日の光が今日はやけに眩しく感じる。時計が示すのは6時前。
「……………」
反射的に目を閉じて、考える。気だるい理由。伸ばしたままの腕の重み。
「………?」
眩しい訳がない。こっちは壁側。朝日が侵入する方向には背を向けているはずなのに。
痺れを切らした早朝の訪問者は、いつの間にか庭にまわっていたらしい。俺を呼びながらひたすらに雨戸を叩いている。
「合い鍵…渡してあっただろ……」
目を閉じたまま、小さく呟いた。アレックスに届くことのない独り言は、いつもの朝より掠れていた気がする。
「ミ―――ユ―――――!」
今度は未夢の部屋の方にまわったのか。雨戸を叩く音が小さくなった。
(…残念だけど、未夢はここに……。 ……ここに…?)
「……っ!!?」
ようやく考えが至って、また目を開いた壁側。眩しかったのは朝日を反射した未夢の髪だったのだと、気がついた。
耳に小さな寝息を聞きながら、俺は天井を仰いだ。もう一度目を閉じて、思い返したのは昨日の未夢の言葉。
『…彷徨のものに…して……?』
「…ん……」
朝の冷気が入った俺との隙間を埋めるように、身じろぎした未夢がすり寄ってくる。その声には耳をくすぐる昨夜の残り香。
冷たい空気を感じる間もなく、身体の内から上昇してくる熱が俺を現実に引き連れていく。
俺の部屋。隣に未夢が、眠っていて…。
「カナタァ―――!」
玄関の戸がガラガラと音を立てて、アレックスの声が廊下に響いた。
「…やべっ」
慌てて身体を起こすと、未夢がゆっくりと瞼を開いた。玄関からこっちに向かって、足音が大きくなる。
「かなた…?」
さらりと流れた光る髪をひと撫でして、先にアレックスを迎え出ると目で伝えたところ。
「Good morning! カナタ! おっはヨ〜! ニモツ取りにキタヨ〜!」
「お、おい、待て待てっ!」
「きゃ…!」
俺に立ちはだかる時間も与えずに、無粋な襖は思い切り口を開いてしまった。
「Oh〜〜〜〜〜! ヨカッタ! ちゃんとミユのコト手に入れたデスネ!
こーでもしないとカナタ、ミユのコト大事に大事にしソーだったカラ!
ごアンシンしてクダサイ! ボクにはちゃんと、glamourなコイビトがいるデスヨォ〜!」
布団の中に隠した未夢も俺も、言葉なく固まっていた。コイツは矢継ぎ早にそれだけ言って、満足げに頷いている。
…とゆーことは、何だ…?コイツ、まさか…
「…謀ったのか、おまえ―――!」
「ネェ、カナタ! …どーでしタ? ミユのアジは?」
抱き付くように肩を組みにきたアレックスは、ニヤニヤと訊いてきた。同時に、隣で未夢が爆発。
「ちょっ、な、ななな…っ」
小声でこそっと訊いたつもりらしいが、傍に居すぎる未夢にはしっかりと聞こえていた。
「……教えて欲しい?」
挑発するように軽く拳を投げた。パシッと音を立てて俺の拳を捕らえたアレックスは、あからさまに目を輝かせる。
「か、彷徨…っ!」
「ゴメンネ、ミユ! これからはオトコドーシのヒミツの時間!」
俺の背中を押していそいそと部屋を出ようと促すアレックス。布団にくるまったまま残される真っ赤な未夢。
俺はその場で、アレックスの耳を思い切り引っ張った。
「ペチャパイでも、――――――…」
fin.
こんばんは、杏でございます。
「すぷりんぐ すとーむ」ようやく完結致しました。
大っっ変お待たせしてしまって、申し訳ありません(><)
お読みいただきまして、ありがとうございます。
彷徨くんの友人(男の子)に嫉妬する未夢ちゃんを書こうとしたお話ですが、時間をおきすぎたため、自分でももう、何がなんやら…です。。
次あたりは学校のお話を書きたいなぁ〜。ネタないけど…。
この時期と言えば…プールとか?期末試験とか?あぁ、もうすぐ夏休み…。
一年あたためてたお盆ネタも、書き始めたいと思います。
ご愛読ありがとうございました。次回作もまた、よろしくお願いいたします。
2014.06.25 杏