作:杏
手にしたままだった土産品を何度も見比べながら、未夢は苛立っていた。
例えようのない苛立ち、その理由がわからないので更に苛々する。
(確かに、関係ないけどっ! あんな言い方しなくたっていいじゃない!
…はぁ〜〜ななみちゃんたち早く戻ってこないかなぁ〜)
「あの〜すみませぇん」
「はい?」
結局、悩んだ挙句に2つとも買った未夢。会計を終えたところで、声をかけられた。
聞き覚えのない声に、いつもより1オクターブ高い声で返事をする。
先ほどまでの苛々はどこへやら、愛想よく笑顔まで浮かべていた。
振り返ったそこには、女の子が二人。
此処に着いてから何度もすれ違った、紺のブレザーに赤いリボンの制服。他校の修学旅行生のようだ。
少女たちは品定めするように、未夢の頭からつま先までに鋭い視線を往復させる。
「あ、あの…?」
片方がぐっと押し黙るように口元を結ぶ。もう一人が、満面の笑顔で未夢に話しかけた。
「お店の外にいる男の子と、さっき話してましたよね? 同じ学校の方ですかぁ?」
少女が指差すドアにちらりと視線を向けると、ドアの向こうには彷徨の姿。
(あ、ちゃんと待っててくれたんだ)
「そうですけど…?」
「あのぉ、カレと一緒に写真撮りたいんですけどぉ〜、頼んでもらえませんかぁ?」
「…えぇ〜〜〜?」
(うわぁ〜…彷徨、嫌がるだろうなぁ〜)
未夢の進行方向を塞いだ二人の少女は、短いスカートに、明るく染めた派手な巻き髪。バッチリとメイクまでしている。
彷徨じゃなくても、あまり近付きたくないような印象だった。
「カレ、超カッコいいじゃないですかぁ! せっかくなんで記念に〜!」
「でもなんかクールな感じで声かけづらくってぇ〜」
「あなたとさっきこのお店に歩いて来るのも見てたんですけどぉ、そのときは超いい感じに笑ってたんで、仲いいのかなーって…」
「…あ! でももしかして、彼女さんですかぁ〜?」
一気に捲し立てた少女たちが、差し出していたカメラを少し遠慮がちに引っ込めた。
「えっ!ま、まさかっ!!」
未夢はその気迫に押されながらも、最後の一言には両手をバタバタと振って、力いっぱい否定した。それを聞いて、少女たちがニッコリと笑う。
「だったら、お願いしますぅ〜」
「え〜っと……」
苦く笑い返しながら、この少女たちから逃げる方法を懸命に考えた。
(綾ちゃん〜ななみちゃん〜早く戻ってきてぇ〜〜〜)
店先では彷徨もまた、苛立ちを募らせている。
腕を組んで、ため息をつく。視線を空に巡らせては、またため息。
それが時間の経過とともに、別の苛立ちに変わっていく。
(…遅い!何やって……ん?
他校の女子か…なに仲良くなってんだか…)
ガラス越しに店内を覗くと、他校の女子生徒と話している未夢。声は聞こえないが、何やら困惑した笑顔だった。
(…ったく、しょーがねぇなぁ…)
「未夢! 早くしろよ! 小西たち戻ってきたぞ!」
「えっっ!? あっ待ってよー彷徨ぁ!」
ドアから半身だけ店に入って、未夢に声をかけるとさっさと出てしまう。
「ごっ、ごめんなさい! 急ぐんで…!」
少女たちにペコっと頭を下げて、彷徨のあとを追った。
「ごめーん! …あれ? みんなは?」
「まだだけど?」
ゆっくり歩いてくれていた彷徨に追い付き、待ち合わせ場所にしている集合地点まで、並んで歩く。
「えっ、何それ!? 慌てて追いかけて来たのに〜」
「ばーか、助けてやったんだろ。 で、あれ何だったんだ? 女子にナンパされてたのか?」
「そんな訳ないでしょ! 外の男の子がカッコいいから、一緒に写真撮りたいんですぅ〜、だって!
そのカッコい〜い誰かさんはそーゆーの嫌いだと思って、どう断ろうか困ってたの!
女の子たち可愛かったし、頼まれとけばよかったかなぁ〜」
べーっだ、と言わんばかりに思い切り舌を出した。
「あ、でもやっぱり、好きな子いるんなら撮らなくてよかったね。
彷徨なら、告白しちゃえば付き合えるんじゃない? ほら、例のジンクスもあることだし!」
言いながらだんだん寂しいような辛いような、言い表せない感情が湧いてきた。
笑顔をつくって、語気を強くする。妙に早口になってしまった。
「―――いい加減にしろ!」
突然怒鳴られて、目を見開いてビクッと肩を強張らせた未夢。
足を止めることなく、彷徨は進んでしまう。
「…言わねーよ。 好き勝手言ってんな」
吐き捨てた冷たい言葉が、二人に僅かな距離をつくった。
「おっ待たせー!
って…うわ、なに! この重い空気!」
ななみがその空気を追い出すように、大げさにパタパタと空を扇いだ。
「べっつにっ! この先のお土産屋さんに可愛い和小物とかたくさんあったよ〜。 行こっ!」
「え、うん。 未夢??」
「どうしたの〜?」
自分たちが戻るなり、ずんずんと土産店の方に歩き出した未夢を、ななみと綾が追う。
「京都まで来て、ケンカしてんのかぁ? 仲いーんだか、悪いんだかなぁ〜」
「…別にケンカじゃねーよ」
残された三太がその後ろ姿を眺めながら、彷徨に茶々を入れる。
「まーなんでもいーけど〜。 行こうぜ!」
三太に呼ばれて、大きなため息をつきながらようやく歩き出した。
「あっ! 彷徨ぁ〜! 頼む! ここ寄らせて!
珍しい木彫りの…」
「ダメ。 行くぞ」
「えぇ〜〜〜! オレの木彫りの宇宙人〜〜〜!!!!!」
店先で仁王立ちする等身大の木彫りの熊にしがみつく三太を引き剥がし、ずるずると引き摺って未夢たちを追った。
「…あの! 西遠寺くん!」
呼ばれた方を振り返ると、今度は四中の女子。
(えっと…………………誰だっけ。 6組…いや、7組の…?)
嫌な予感をさせながらそんなことを考えていると、これ!と封筒を突きつけられた。頬を赤らめながら小声で何か言うと、立ち去ってしまう。
「返事待ってます、だってぇ〜! いやぁ〜モテる男はツラいねぇ〜」
引き摺られた格好のまま、一部始終を見ていた三太がニヤニヤとそう言ったので、とりあえず足蹴にしておいて。
手にしたままの淡いピンクの封筒を乱暴にリュックにしまいこむ。
読む気のない手紙が、今日、これで3通目。
(…今のは人目についたよなぁ)
ちらり、ちらりと視線を感じる。睨みつけるように周囲を見渡し、視線を行き先に戻すと。
やはり、未夢たちも見ていたらしい。目が合った。
「…ふたりとも、早く行こっ!」
未夢はぱっと目をそらすと、すぐそばの店の中に消えていった。
こんにちは、杏です。
拍手、コメントありがとうございます!
嬉しくて嬉しくて、何度も見てはニヤニヤしてます(笑)
今回からシリーズになってますが、続きです。
いや、あの使い方が…やっとわかってきたのです(^^;
分かりにくくてスミマセン。。
今回、サブタイトルに悩みました(>x<)
写真、恋文、苛立ち、淡色、無垢、無意識…ざーっと言葉は浮かべど、これってモノに辿りつかず。
どれも部分的な表現にしかならなくて、『注目』にしてみました。
他校生から彷徨くんへの注目、声をかけた未夢ちゃんへの注目。
それを見た彷徨くん、戻ってきたななみちゃんたち、
ラブレターを渡した四中の女の子、そしてまた、それを目撃した未夢ちゃん。って感じに。
見て、見られて、それぞれが何を想うか。
ふたりの心情をカッコ書きでたくさん書くより、言動から想像していただけるモノにしたいなーと思ってますが、難しいです。。
カッコ書きは出来るだけ、独り言みたいなものにとどめようと思ってます。
初めて後書きらしい後書きを書いてみましたが、いかがでしょうか〜(*^^*)
後書きにも毎度悩んでます(笑)
では、次回もよろしくお願いします。
杏でした!