恋人ごっこ!?

未夢の一生のお願い

作:

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ねぇ、彷徨っ! いっしょ―――のお願いっっ!

わたしの………



「―――………はぁっ!?」

両の手を合わせてそぉっと上目遣いで見上げた未夢のお願いに、珍しく彷徨が狼狽してしまったのは仕方のないことだと、傍で聴いていたワンニャーは思った。
なんせ、向かい側で茶菓子をつまんでいたワンニャーでさえ、どんな反応をすればいいかわからなかったのだから。
動揺して噎せ返っている彷徨には気の毒だけど、飲んでいた熱いお茶を吹き出さなかったのが不思議なくらい。それだけ衝撃的な言葉だった。

「わ、わたくし、お邪魔なようなので、ルゥちゃまとお部屋にィ〜……どわぁっ!」
「せっかくだから、ワンニャーも一緒に聞いてくれない?」
畳に叩き付けられるようにすっ転んだ。去り際に尻尾を掴み、そうさせた張本人は真剣に言うけれど。
「い、いえ、それは、さすがに……」
「いいから!」
「で、ですが…」
チラリと目を向けた彷徨は、そんな二人の声が聞こえているのか、いないのか。
上る熱を必死に堪えて、“今”を呑み込もうとしているように、ワンニャーの目には映った。
(…あぁ〜〜〜あの彷徨さんが、狼狽えていらっしゃいますぅ〜…。 一緒にお返事を待つなんて、そんな無粋なことは、わたくし……)

「ね、お願い! 今度の土曜日、モモンランドっ! お金は全部わたしが出すから!」
尻尾は掴んだまま、未夢は彷徨に向き直って迫った。
「み、未夢さん、痛いですぅ〜」
「……あ。 ごめん、ワンニャー…」
力いっぱい握られていた尻尾を涙を浮かべてさすりながら、ワンニャーは行く末を見守る。
(そうおっしゃられても、彷徨さんにも男のプライドってものがぁ〜…)


「――――悪い」
「か、彷徨さんっ!?」
思いがけない返答に、驚いたのはワンニャー。未夢はそれを想定していたかのように、やっぱりかと、しゅんと視線を落とした。
「…何か用事あった? あ、三太くんと出掛けるとか?」
「いや、何もないけど。 ……ちょっと、考えさせて」
「う、うん……?」

(…ど、どうしたのでしょう……? 考えなくても、答えは出ているはず…。
 や、やはりわたくしがお邪魔だったのですね! すみません、彷徨さん〜〜〜〜)

未夢はおろか、ワンニャーにさえ目を合わせることなく居間を出ていってしまった彷徨。
その背を追うことも出来ずに閉じられた襖を眺めていると、隣できょとんと目を瞬いた未夢がワンニャーを窺った。
「…ねぇ、ワンニャー?」
「は、はいっ?」
「何を考えるんだと思う?」
「で、ですから、未夢さんのおっしゃったことを…」
「用事ないんなら別にいいじゃない、タダで遊べるんだし…。 そんなに嫌なの? 彼氏のフリするのが」
「……へ?」
ワンニャーが小さく首をかしげて未夢に疑問符を投げるまで、数秒かかった。
「そりゃあ、わたしだってフリで友達騙すのはちょーっと気が引けるけどさぁ〜。 だって向こうは女子中で彼がいるのに、共学のわたしがいないなんて、なんか悔しいじゃないっ!
 あ、やっぱり彷徨、そーゆーことさせられること自体が嫌なのかな? それとも、相手がわたしだから? ……失礼ですなぁ〜」
「…フリ、ですか? み、未夢さん、確か……」
「そうよ? 前の学校の友達が遊びに来るんだけどね、彼氏も連れてくから、未夢も彼連れてきて!ダブルデートしよー!って…」
「だ、だぶるでーと…」

(……………き、聞いてませんよぉ〜〜〜〜〜〜!)



◇◇◇


「何考えてんだ、あいつ…」
自室の畳に大の字に転がった彷徨は、身体に籠っていた熱を吐き出した。
子供じみた“一生のお願い”は、予想をはるかに超えたとんでもないお願いだった。
『わたしの、…か、彼氏になって!』

夕食の間、妙に静かだと思ったら、そんなことを考えていたのだろうか。
未夢の申し出は、嬉しいことのはず。いつか自分が、と思っていたから、先を越されてしまったことには、思うことは多々あるけれど。
でも、それを素直に言葉通りに受けとって、喜ぶことなんて出来なかった。
(…なんかいろいろ、間違ってるだろ……)

タイミングも、選ぶ言葉も。
嫌われてもいないだろうけど、そういう好きだと言われたこともない。それを飛び越えて、彼氏という関係性を求めてきた。
悪戯や、自分に向けられたよからぬ企みぐらいなら、すぐ顔に出る未夢の胸中は今まで手に取るようにわかったのに。
今回は全くわからない、未夢の心のうち。
(…いや、それに関してはずっと、読めてねーか……)


今宵、西遠寺の母屋では、三人三様のため息が闇に交ざり合って、消えた。







こんにちは〜杏です。
思い付き作品を投下。1話しか出来てません、プロットもないに等しいです!
迷宮入りしたら、ごめんなさい。自分に課した爆弾がデカすぎるのは重々承知。
最新作から“UP”のアイコンが消えたら、次を出したくなるのです。(てことは週1ペースですね)

しかーし!常に2〜3作品の書きかけストックはもっているのですが、最近どれも進まないんですよぅ〜(T△T)
誰か書き方教えて!作品の作り方談義とか、開きませんか?(笑)
今回は、私の趣味がガッツリと出る…かもしれませんw
突っ走ります!好みが違う方には毒かもしれません!
R付けない範囲で頑張ります。行き先はモモンランドだから、たぶん大丈夫…。

こんな私の暴走にもしお付き合い戴けましたら、次回も読んでやってください。
ありがとうございました♪ 杏




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