作:杏
「…未夢、未夢っ!」
「ん………」
「…おい、大丈夫か?」
「…かなた……、うん…」
気がつくと、上から見下ろすのはいつになく心配そうな彷徨の顔。片方の頬が冷たい床に冷やされている。
「…ここ……」
「あぁ、戻ってきたよ。 ちゃんと俺たちの時代の、うちに」
周囲を見渡すように視線を巡らせた彷徨に倣うと、ここは西遠寺の縁側だった。
友人たちを見送ってから片付けるはずだった椅子は、庭に置かれたまま、雪が座っている。
「結構、時間経ってるみたいだな」
片付けといてくれてもいーのに、気ィきかねぇなと、雪に溶かされた小さなぼやきは、家にいるはずの父に向けられたものだろう。
「……飲み会、やめとくか?」
「え…?」
雪をはらって縁側に椅子を上げた彷徨は、それに片肘をかけたまま、ぼんやりとした未夢を覗き込んだ。
「…その、おまえ……」
「ううん」
笑って見上げる未夢の頬に、そっと彷徨の手が触れた。きっと冷えているんだろうけど、自分の頬だって同じ温度だから、冷たいとは思わない。
むしろ触れ合ったところから、じんわりと温かくなっていく。
「………悪い、こんなつもりなかったから、何も用意してないけど」
「…うん…? …彷徨?」
触れられた手に自分の手を重ねたら、冷たいと感じたのか、逆にその手を包まれてしまった。
「……俺、あと2年あるから、未夢に苦労させるかもしれないけど……絶対、何とかするから」
その真剣な瞳が意味するところ、これから紡がれるであろう言葉に、未夢の胸には熱が込み上げてきた。
「結婚しよう、未夢。 …この子を産んでくれないか……?」
はい、と返したいのに、たった二文字の音よりも、涙が溢れ出る。きゅっと握った左手に力を入れて、うんうんと頷くだけで精いっぱいだった。
あとからあとから、身体の中心からわき出すような熱を堪えて、涙を零しながらも、真っ直ぐに瞳を合わせて微笑んだ。
「…ホントは、おまえの誕生日までに用意しようと思ったんだけどな」
ようやく、ほっとしたように瞳を柔らかくした彷徨。
空いた手で未夢の頬に流れる涙を拭うと、掴んだままで温みを取り戻したどころか、二人分の熱で熱くなった未夢の左手に唇を寄せた。
「…っ……か、彷徨…っ!」
「…とりあえず、指輪の代わり」
べっと舌を出して解放した左手の薬指、近い未来に指輪が光る予定のその付け根には、紅い跡。
「ちょっ、これから飲み会行くのに…!」
「いーじゃん、別に。 今さら誰も驚きゃしないだろー?」
「そっ、そーゆー問題じゃなぁい―――っっ!!!」
『…ねぇ、未来ちゃん』
『ん?』
『あの子の振袖、未来ちゃんのにそっくりだったわね』
お昼寝をする子供たちの傍らで、静かに笑い合う。
『…そういえばそうね、似てたかも! 着てないから、よく覚えてないけど…』
『きっと未夢ちゃんが着てくれるわよ』
『…だといいんだけど』
少女の頬をつつく母。少女は目を開けることなく小さな手ではらう仕草を見せる。
『……ありがとう、彷徨』
耳元の母の声に、くすぐったそうに眉を寄せた少年は、すぐにまた微笑むような寝顔に戻った。
(…会えてよかった、ホントに……)
fin.
こんばんは!
最後までお付き合い戴きまして、ありがとうございます。
脱☆不調!…とはならなかったのですが、何とか完結出来ました!
なんで言葉が浮かばないときって尽く浮かばないのでしょう??
きっとキスマークが消える前に、その指には指輪が嵌められることでしょう。
小さい子が妊娠(初期)を言い当てるのって、ホントにあるんですよね?私の周りには今のところその体験談はないのですが(^^;
さてさて、お題発表!
ちなつしゃんより、『未夢とお揃いの着物』の未夢の過去に行くバージョン。
お題提供、ありがとうございます!そして遅くなってしまって申し訳ありません。
…すみません、未夢の過去とは言い難いものになってしまいました(><)
お揃いの着物→未来さんの振袖、成人式!と決めて、あたためていたのですが、どうやって過去に?とゆー辺りから、悩みに悩んだ作品です。
二十歳なら、ルゥくん登場はさせたくなかったし、じゃあ非地球的なモノからのタイムトラベルはおかしい…。(…あ、星矢くんてテもありましたね、今気付いたw)
で、結局行き着いたのが時空の歪み。うーん、ワンパターン。
西遠寺周辺には多発するんですよね?ね?(笑)
これはナイわ!ってコメントもどーんと仰ってくださいね!
私自身、設定をいじくったものやパラレルな作品を受け入れるまで時間かかりましたから(><;;
あ、2話ぐらいでボヤいてた拍手御礼も、無事に上げましたので、見つかりましたら読んでやってください。
それでは、また次回作でお会いできるのを楽しみにしております。
次回は何にしようかなぁ〜。ネタがないんだよなぁ…(−−;
2014.01.17 杏