君さえいれば

競技終了 視線

作:

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トラックのカーブを曲がったら、向かうのは同じ場所。未夢のもとへ。

負けられない。



「…おまえがなんで未夢んとこ行くんだよ!」
「小西さんはフリーの人は好きなパートナーをと言っていたよ! だからボクは迷わず未夢っちを選んだのさぁ!」

砂煙をあげて走りながら、望に苛立ちをぶつける。互いに相手の進路を塞ぐように前に出ては並び、トラックなんてお構いなしの蛇行。

「「「きゃ―――西遠寺くぅん!」」」

「光ヶ丘くん、わたしがっ!」
「あたしが走るわぁ!」

赤団の団席に着く直前、横に並んでいた望が消えた。


(そーだった、こーゆーヤツだった……)
負けてなるものかと全力で走っていた自分に疑問が浮かぶ。こうなるのは目に見えていたはず、どうして気付かなかったのか。

他の団席が、あっという間に赤く染まった。唖然とする、彷徨と赤団の面々。
クルリとターンした望は、黄色い声のする方に真っ赤なバラを撒きだしたのだった。


「西遠寺くん! 今のうち!」
「光ヶ丘くんなら、すぐにこっちにもいらっしゃいますわ!」

ななみとクリスに言われて、彷徨は未夢の前に。ななみがポンと背中を押しだして、未夢が集団から吐き出された。
「か、彷徨…」
行くぞと手を差し出して、気がついた好奇の視線。未夢も背後に感じているらしく、手を出すのを躊躇している。

「あ―――も――――――…」
引っこめた手で、熱を持ち始めた顔を隠すように、彷徨は頭を抱える。ここまであからさまな視線を送られると、やりにくい。
どうせ望は“一人”を決められないから、負けることはないだろうけど…早く終わらせてしまいたい。
とっくに乾いた髪を乱暴にかきあげて、その手をもう一度伸ばした。

「ひゃ…!」
「これでいいんだろ! ……行くぞ!」
未夢の手をさらって、背中で吐き捨てた。二人で表彰台に向かう。斜め後ろの未夢にだけ見える、赤い頬。
恥ずかしいのは変わらないけど、それが嬉しくて、未夢は彷徨に隠れて頬を上げていた。



『おぉ! やーっと西遠寺くんが彼女を連れてやってきましたよぉ〜。 光ヶ丘くんがこうなるのはみんなわかってましたけどねぇ〜。
 さぁさぁ、おふたりさん! チャチャッとくじを引いちゃいましょ〜! なにがでるかな〜なにがでるかな〜!』

「……あ」
「何?」
未夢が開いたくじを彷徨にも見せる。ほっとした表情の二人に、綾が放送席で首をかしげていた。


『こちらにも情報が入ってきました! ふたりの決めポーズは! …タイタニック? ちょっと誰よぉ〜こんなつまんないの入れたのぉ〜〜〜』
「あ、綾ちゃん……」

『まぁいーわ! 引いちゃったものは仕方ない! 十年後にも、船に乗れば誰もがやるであろうと言われているこのポーズ!
 さぁさぁ、カメラの用意は出来ています! 準備はいいですかぁ〜〜〜? カメラ目線はいりませーん! 見つめ合っちゃってくださいね! さぁ、みなさんご一緒に! はいっ!』

「「「「ポ――――ズっっ!!」」」」


綾の予定でも、未夢や彷徨の予想も、もっといろんな意味で過激なものが入っている、はずだった。なのに未夢が引いたのは、王道。
三太のポラロイドからベロンと出て来た写真も当然、同じポーズの二人。少々の照れはあるようだけど、なんだか納得いかない。

『あ! さっきみたいに抱きしめちゃってくれても、いいんだけどなぁ〜。 そのまま、もっかいキスしちゃう?』
さらっと言った綾の言葉は、しっかりとマイクを通って校舎のスピーカーへ。全校生徒がいるグラウンドからご近所にまで、響き渡った。

「な……!」
「何で知ってんだよっ!」
キャ―――っと叫声があがり、グラウンド中がざわついた。
真っ赤になった二人が、綾を問う。

『わたしじゃないですよぉ〜! わたしはダンスバトル出てましたからぁ?
 その間におふたりさんは校舎裏でふたりっきりでぇ〜〜〜って情報が、とあるところから入っておりまぁ〜す!』
「…おまえか、三太っ!」
「な、なんのことかなぁ〜〜〜?」
「おまえと天地ぐらいしかいないんだよっ」
「はは、はははは〜…」

『…で、この情報、遠くて不確定なのよ! ホントのところはどうなの??』
「………」
「…してねーよっ」
「ちょ、かなたっ!」

未夢が押し黙ったのに、彷徨は憮然と答えてしまった。表彰台を降りて、本部の方に詰め寄る。
「三太、写真よこせっ!」
焦る三太から写真を奪い取って、彷徨は未夢を連れて走り出す。






ゴールテープを切ったあと。「なんてことゆーの」と、両手をバタバタさせた未夢。

その猛抗議が途切れた瞬間を見ていた生徒、多数。とのこと。




こんにちは、杏です。
…え、ポーズが普通でつまんない?ス、スミマセン。。。

いや、ちょっと二人をほっとさせといて、綾ちゃん暴露ー!しかもマイクでー!
…みたいなのをしたかったんです(笑)

結局、いつもの長さになった最終話。わたしの最終話はいつも長いですネ(−−;
バランス悪い…。

さぁ、次回!お待たせいたしました!
気持ち切り替えて、「遠カタ」に向かいたいと思います!

20000越え記念も書きたい、けどネタと余裕がないw
30000は書ける気がしないので、次は50000にします。(勝手にしろよって話ですみません^^;

最後までお付き合いいただきありがとうございました。 杏

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