作:杏
「…ここにいたのか」
「彷徨……うん」
「もーすぐ、日の出だな」
「…うん」
徐々に明るくなる空。西遠寺の広い境内にポツリと立った未夢は、東の空を見上げていた。
山の端から静かに一筋の光が射し、それが少しずつ眩しく、力強くなっていくのを、彷徨の胸にもたれてうっとりと眺める。
「…―――ねぇ、覚えてる?」
「忘れる訳ないだろ? …初めて、こんな風におまえを抱きしめた日」
「うん…」
きゅっと胸元に回された腕にしがみついたら、その腕の中にきつく抱き留められた。
去年の秋、何気ない帰り道だった。いつもと変わらない石段をようやく上り切って、それを見下ろすように門のところで振り返ったら、あまりに夕日がキレイで。
「わぁ…!」
思わず感嘆の声を漏らした未夢は、それに気付くことなく母屋へ向かう彷徨を呼び止めた。
きっと彷徨は、この場所で何年も目にしてきたのであろうけど。それでも、「あぁ、綺麗だな」と自分の隣まで戻って来てくれた。
キレイな夕焼けを目にしたことも嬉しかったけど、それを彷徨が一緒に見てくれたことが、何より嬉しくて、未夢はそれを隠すようにはしゃいで見せた。
「ホントに、キレイだね…」
そう呟いてふらりと数歩、足を進めたのはおそらく無意識。突然、背中が温かくなったと思ったら、両肩から伸びた腕に、見慣れた制服に包まれていた。
「――――俺から離れるな」
「…? かなた……?」
その言葉と現状が意味する答えを見出せなくて、肩越しに彷徨を見上げた自分の表情はきっと、間の抜けたものだっただろう。
「…綺麗だな、夕日」
そう言った彷徨の目は、西の空ではなく明らかに自分を映していて。
「うん…?」
訳のわからない未夢は、半ば呆然と、大人しくそこに突っ立っていた。
「…あの日の夜、縁側で彷徨がちゃんと言ってくれるまで、わたし、全然気付かなかったもん」
「………。 あれだけやれば、フツーはわかると思うけどな?」
「悪かったわねっ! あんなことするなら、フツーはその場で言ってくれると思うけどっ?」
初春の光を浴びながら、二人で初笑い。
冷たい空気も、朝日に照らされて、二人の柔らかい熱にあてられて。
「次は春だなー」
「はる??」
「ここからこうやって、川沿いの桜並木を見下ろす」
「うん…」
「夏には浴衣で、星空見上げて、さ」
「…あつそーですなぁ」
「嫌か?」
頬ずりするように、肩に顎を乗せて未夢を見る彷徨に、静かに頭を振って答えた。
小さく笑った彷徨がすっと目を細めて、いつの間にか空へと昇っていた太陽に目を向けると、未夢もそれに倣った。
「…彷徨」
「ん……?」
近すぎる距離、視線だけをこちらに向けようとする彷徨の頬に、冷たい唇が触れた。
「今年もよろしくね?」
言い逃げよろしく、ぱっとまた空に顔を戻した未夢。夕日に染められたあのときより、頬を赤くして。
心なしか力の入った表情は、彷徨の方に集中してしまう意識が表れている。
そんな未夢を一瞥した彷徨が、ニヤリと片方の口角を上げた瞬間。
未夢の顎を掬った彷徨からはこちらこそ、と言わんばかりの熱いキスが返ってきた。
2014.01.02 50000突破記念号
ざ・拍手御礼ッ☆
新年早々の突破だったこともあり、こんなお話に仕上げたこの記念号。
元ネタは、ギャラリーにございます、奏しゃんの『夕日に照らされて』という素敵なイラストでございます。
あまりに素敵だったので、ネタにさせて戴きました。
彷徨くんサイドも書きたいわッ!…とか調子乗ってみたものの、書けず仕舞いだったなぁ…。
温かく受け入れてくださった奏しゃんには、本当に感謝しております。
ありがとうございます♪
これで今回の整理はおしまいです。
10万突破記念、最後に残してた3/3も上げましたので、よかったらご覧ください。
先日、111111とゆーゾロ目を発見して、うはうはで写真をとりましたw
たくさんのお言葉を頂戴出来ますよう、これからもまったり書いていきたいと思います。
そこのアナタ!アナタの感想を待ってます!(≧▽≦)
みなしゃん、よろしくお願いします。 杏