作:杏
風呂上がり。ルゥをワンニャーに預けて、自室に向かう。
今日落ちた縁側の床を、慎重に確かめようとして。
(彷徨…?)
縁側にぼんやりと夜空を見上げる彷徨。
「彷徨……?」
「…あぁ未夢、か…」
「お風呂、空いたよ?」
「うん……」
未夢に移した視線を、また夜空に向ける。隣に座って、未夢も同じように空を見上げた。
「どうしたの?」
「うん……」
「お母さんの、こと…?」
「…いや、あの日のこと考えてた」
「そっか…」
「なぁ未夢。 俺、サボテンマンみたいになれたんだ?」
「へ?」
「約束」
「やく、そく…?」
隣を見ると、視線がぶつかった。
「な、なんだっけ…」
「覚えてるだろ、ついさっきのことなんだから」
「…………」
「子供心に、10コぐらい年上かーって覚悟してたんだぜ?」
「…忘れてたくせに」
「また騙すの? サボテンウーマンさん?」
楽しそうに笑う瞳は、力強い。3歳児の可愛げは欠片もないけれど。
「…そんなつもりじゃ」
この瞳はズルい。幼い頃も今も、自分を捉えて離さない。
「じゃー守れよ? 約束」
「俺のそばに居てくれるか? …ずっと」
「え………?」
確かに、そう言ったのは自分だけど。幼い彷徨に言ったのとは訳が違う。
外は無風。彼の言葉だけが、耳に残って響く。
「おまえを探してる間、生きた心地がしなかった。 ワンニャーは誘拐だとか言い出すし…。
帰ってきたおまえが、肩に母さんのストールかけててさ。 あーあのときのねーちゃんは未夢だったのかって思ったら、全部納得がいったんだ」
「なっとく??」
「言ったろ? 覚悟してたって。 3つのガキだけどさ、子供なりにあのとき思ったんだ。 次に会ったときは、今度は、自分が守るんだ、…って。
今まで忘れてたけど、知らないうちに出会ってて、…いつの間にか惹かれてた。 母親みたいな、守られる存在じゃなくて…守りたいひととして」
(そ、それって……)
「俺はあの日から、強くなろうと思ったんだ。 いつか、またあのねーちゃんに会うために。 今度は俺が、守るために」
「彷徨…」
「――俺の気持ちはずっと、たったひとりに向いてたんだ」
月明かりが二人を照らす。未夢の瞳に、乱反射。
「好きだよ、未夢」
あの日から、“ぼく”は“おれ”になった。
“おとうさん”も“とうさん”になって…いつしか“オヤジ”に変わった。
意識的に口調も変えていった。
子供だった俺は、『強さ』を履き違えていたんだと、今は思うけど。
それも、強くなる糧にはなっていると…思いたい。
あのねーちゃんならきっと、笑って受け入れてくれるだろうから。
な、未夢?
「…返事は?」
熱くなった頬が大きな両手で包まれた。
その瞳に捉えられて、身動きがとれなくて。言葉も出なくて。
言葉じゃなくても、その濡れた瞳を閉じてくれたことが。
何よりのこたえ。
fin.
いや〜〜〜無事に完結いたしました!
ありがとうございます!
最後がちーっともまとまらなくてもう!珍しく、使いたい言葉が多すぎて苦労しました。
いつもは、こんな感じなんだけど、これをなんて表現したらいいんだ!って悩むのに。。
心おきなく次へ進めます。…って、こっちがないがしろな訳じゃなく、自分なりにうまくできたからですョ、ね。たぶん。。
チビ彷徨くんが抱いていたのは、母への感情に近い想い。守るというのも、そうです。
「ぼくがおかあさんをまもるんだ!」…的なものですね。
矛先は同じだけど、そのカタチが全くの別物。それを彷徨くんらしく(なってるかなぁ…)、短いセリフの中で表現するのが…難しかった(TxT)
長く語れれば、割と簡単なんでしょうけどね。
そんな彼の“想い”が、最終話の異なるもの、でした。
双方の世界で一番異なる…とゆーか、変わったのは、彷徨くんでしょうね。
次回は戴いたものを。
季節をまたぎ、今までになく長いお話になる予定です。
たまに短編に浮気しながらwのんびりやります。
ちょっと時期が前後するかもしれませんが、季節外れだな〜と思いながら読んでやってくださいまし。
「時を越えて」
ここまでお付き合い戴きありがとうございました。
2013.09.01 杏