作:どらむかん
お願い
私を乱さないで
頼む
俺を拒絶しないでくれ
「じゃあ、答えろよ未夢ちゃん?」
おどけたように振る舞う姿と対照的に額に流れる汗が自分の首元に落ちてきた。
今まで驚きが強すぎて気づかなかったが、真冬というのに防寒具をつけず必死に走ってきたのがわかるほど息を切らしている。
なんで…
お願いだからもうこれ以上期待をさせないで…
「お願いだからもうやめてよ…辛すぎるよ。彷徨。」
「ダメだ。ちゃんと話を聞いてくれるまでは絶対に離さない。」
涙がほほを流れる。
胸が痛むがそれでも逃がすつもりはない。
この一生分といえるほどの想いを伝えられたら…
彼女はどういう風な反応をするか…
「お前に遠まわしで言っても通じないってわかってるからもう迷わない。」
「お前だよ。未夢」
「え…」
「俺が好きな奴はお前だってこと。」
「嘘…」
「”でも”とか”嘘”とか無し!俺の言葉そんな信じられない?」
「だってそんなこと簡単には信じられないよ。」
「じゃあ、信じさせてやるよ…」
顔と顔が近づいていく
一瞬の出来事。
「これで分かった?俺の好きな人」
覗き込んだ顔は火を吐きそうなぐらい真っ赤になっていた。
「で?お前は?」
「へ?」
「俺が告白したんだから、答えてもらわなくちゃな?まぁ答えといっても一つしか許さないけど。」
「で、でも」
「また、でもって言った。もう一回言ったらまたキスするからな。」
「うぅ〜…。彷徨のいじわる…。」
震えながらもどうこたえようか思案する彼女を見ながら力いっぱい幸せを感じ抱き寄せる。
そして、彼は今までないような甘い声で彼女にしか聞こえないようにささやく。
「ほら、早く。」
それは甘い麻薬のように体をめぐる。
「好き。」
「もう一回。」
「私、彷徨のことが好き。」
「もう一度。」
「う〜!好き!!」
「もういっちょ!」
「何度言えばいいのよ!!」
「俺が死ぬまで?」
「バカ、ずっとじゃない…」
未夢が抱えていた不安が春先の雪のように消えていく。
当たり前というように違和感なく…
彷徨という存在によってつくられそして、彷徨という存在によって解かされていく。
「あ、そうそう。これ。」
彷徨は何かに気づきポケットに入っていた箱を取り出した。
それを未夢に手渡す。
「なに?これ?」
「これ買いに行ってたんだよ。これでも苦労してるんだ。知らない女の人には絡まれるし、同級生にはそれを見られるし、お前には勘違いされるしで散々だけどさ。」
「終わりよければすべてよしってことで!」
「開けてみ?」
「いいの?」
彼から手渡された紺の小さな箱に生えている赤いリボンを震える手でそっとほどいていく。
そこには、シルバーでコーティングされている小さなシンプルな指輪が箱に綺麗に収まっている。
未夢は慌てて彼を見た。
彼は余裕綽々といった表情をしているが頬が軽く赤い。
「きれい。これすごく高いんじゃ…。」
「クリスマスプレゼントというか、虫よけ?」
「虫?」
「そ、まぁ分からなくていいよ。その指輪の裏側見てみな。」
指輪の裏側にはconnected in space という文字が書かれている。
「彷徨、私英語が苦手っていうのわかってて言ってるわよね。」
「意味はあとで調べろ。未夢の宿題な。」
「え〜!」
「ほら指かせよ。」
「どっちの?」
「左に決まってるだろ!恥ずかしいこと言わせんな!」
「へへへ。」
「いきなり元気になったなお前。」
未夢は左の手を彼に差し出しまだ少しうるんだ瞳で彼を見る。
彷徨は彼女の左手にそっと触れ薬指にそれをはめる。
二人の間には騒がしい音楽も人の声も何一つ聞こえない。
「私もね、彷徨にプレゼントあるの。」
「俺に?」
「彷徨本好きでしょ?前にブックカバー渡したときすごく気に入ってくれてたみたいだったから。同じお店で買おうと思ってここへ立ち寄ったの。」
未夢は先ほどよりもましになってはいるが震える手で彼にプレゼントを渡す。
「開けていい?」
「うん。」
白い包みに紺色のリボン、そしてメリークリスマスの文字が書かれたシールが貼ってある。
彷徨は慎重に包みを開く。
「これ栞?」
「そう、それがすごく気に入ってね。真っ白な栞に真っ白なストックの花すごく素敵でしょ?」
「あと、すごく言うのが遅くなっちゃったけど誕生日&クリスマスおめでとう彷徨。」
「あぁ、ありがとう。」
彷徨の口角が少し上がるのを未夢は見逃さなかった。
「どうしたの?」
「お前さ、このストックの花言葉って何だか知っててこれ買ったのか?」
「へ?」
「この花言葉って求愛とか愛の絆だろ?」
ば、ばれてる!!
やっと落ち着いてきたと思っていたのにまた体温が上がり始める。
「し、知らない!」
慌ててそんなこと知らないといってみるものの彷徨にはすべてお見通しのようだ。
「そういうことにしておいてやるよ未夢ちゃん。」
お互いを見つめ笑いあってる二人の間に小さな小さな白い塊がふわりと落ちてくるものが見えた。
「あ、彷徨見て!雪!」
「通りで冷えると思ったら。」
あちこちに無数に少しずつ数を増やし存在感を出していく。
「きれいだね。」
「そうだな。」
「ありがとう。」
「これからは不安になってることとか溜めんなよ?俺が被害受けるんだからな。」
「あ、ひどい!」
「じゃあ、帰ろう。」
「うん。」 」
雪の降る夜、クリスマスツリーを背に二人は手を繋ぎ人の流れに沿って歩き始めた。
お互いを思いあいながら。
遅筆ですみません(・。・;
やっと書き終わりました…
クリスマスから何か月たってんだよ!
もう年も越して春だよ!
と自分で突っ込んでみたり(笑)