「もう1人の転校生」

第1話「現実無視の5人家族!?」―1

作:マサ

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3月半ばの、休日のこと。新聞記事の一面には、こんな記事が…。

「――新たに日本人の女性宇宙飛行士、登場」
「――宇宙科学者の夫もNASAから招集」

これを見ていた1人の少年は、ボーッと見ながら、

「ほ〜う。すごそうだな…。」
と受け流すにとどめていた。

さて、この少年がそんなことを言っている間に、
この宇宙飛行士、光月未来が住む家では、
大変なことが起きていた。
宇宙飛行士の彼女には記事で書かれた通り、
夫である光月優がいる。そして一人娘がいるのだ。

この子の名前は光月未夢。
背は同年代の女子に比べたら十分に高く、
腰まで伸びた長くてサラッとした髪はきれいなブロンドだった、

そんな彼女の両親が、宇宙飛行士として発表される。
そこまでは良かったのだが、
なんとその会見の場の発言が、
問題の火種を生んでしまったのである。

「夫婦二人でがんばります!」

なんて言ってしまったものだからたまらない。

会見を終えて家に帰るなり、
現場にいた未夢は両親に猛抗議した。

「ちょっと…。2人でがんばるって、どういうこと?
聞いてないよ!
ひょっとして、あたしは置き去りにされる。
なんてことじゃないでしょうね…。」
「置き去りにするワケじゃないわ。」

と、未来は冷静に切り返して未夢の抗議を受け止めた。
そして、

「ただ…。」
「ただ?」

ちょっとだけ間を置いてから、
未来はこう言った。

「もう決まっちゃったことなんだけど、
ママの知り合いの家に、
しばらく預かってもらうことにしてあるの。
一緒に預かってもらう男の子と、
そこに住んでいる男の子。
そしてそこのおじさん達と、仲良くするのよ。」
「何で…?何で勝手に…。」

彼女は、あ然を通り越して呆然としていた。

しかし本来はこの子、とっても自由気まま。
理由は簡単なこと、完全に親の遺伝だからである。

しかし、そんな彼女ではあるが、
何せ家を離れるのだから困るのである。
そして勝手に決められたのだから、本当に困る。

「何で勝手に決めちゃうのよ〜!」

列車の中でいろいろ思い出したのであろう。
彼女は降り立った駅で思わず叫んでいた。
駅名票には「平尾町」と書かれていた。
母の未来からもらったメモによれば、
どうやらここで間違いはないらしい。

未夢はとりあえずきょろきょろしながら、
メモの中の地図で示された場所へと、
とりあえず向かうことにした。

だが、未夢は気付かなかったが、
同じ駅で降りた人達の中に、
家の中で新聞を読みながら、
光月夫妻がNASAへと呼ばれたことを、
別に興味を持つことなく受け流していた、
あの少年の姿があった。
それは一体、なぜなのだろう…?

話はあの新聞を読んでいた時までさかのぼる。
実は、少年が読んだその記事の横には、
こんな文字が躍っていた。
少年は、その記事に目を奪われていた。

「――NKトランスポート、海外進出か」
「――国内流通最大手、ついに世界へ」

少年は飛び上がって驚いた。
こんな記事を見てしまったがために、
NASAの宇宙飛行士に日本人が決まったこと、
そんなことはどうでも良い話題になってしまった。
この少年には、むしろこの記事の方が大事だった。

少年の名は、鉈落誠大と言う。
記事に載った会社、「NKトランスポート」の、
社長、鉈落海成とその妻の深雪の間に生まれた息子で、
いわば、会社の御曹司である。
しかし親子揃って高級志向がないせいもあって、
普通のサラリーマン家庭と変わらない、
平凡な生活を送っていた。

背はかなり高く、スマートな体つき。
運動神経もかなりの物で、頭もそれなり。

…なのにこのハプニングである。
半分以上パニックだった。

もう居ても立ってもいられなくなった。
電車を乗り継ぎ、1時間半。
向かった先は東京の都心に建つ、
超高層ビルだった。
ここが「NKトランスポート」の本社ビルである。

ビルに入ると、誠大は受付へと「突進」していった。
受付の奥には、社長室直通のエレベーターがある。
誠大はエレベーターに飛び乗ると、

「ふう…。さすがに息が上がる…。」

とぼやいていた。
エレベーターの速度もまた速く、
最上階まで着くのに、1分とかからなかった。
エレベーターの扉が開くと、
そのまま社長室まで歩いていった。

誠大は一応、両親が仕事中かどうか、
ドアの横に立っていた秘書さんに聞いてみた。

「あ、どうも秘書さん。
父さんと母さん…、いや、社長と副社長は?」
「あら、誠大くん。
もちろんいるわよ。
あの新聞記事を見てきたんでしょ。」
「よくご存じで…。」
「そりゃ分かるわよ。
あんなにせっぱ詰まった表情だったんだから…。」

と、話している最中に、
誠大は後ろから誰かに肩を掴まれて思わず、

「ひゃああああ!」

と腰を抜かしそうになった。
その手の主はと言うと、彼の父であり、
この会社の社長である、鉈落海成である。

「おうおう、休日の朝から何やってるんだい?」
「新聞のことについて聞きに来たの。
海外進出とか言う…。」
「おお、そのことか。
なら帰ってすぐに、ニュースを見ればいい。
そのことについて、
1時間後から記者会見を開くんだ。」

誠大は一瞬眉をつり上げ、

「で…、誰か派遣に出すの?」

と聞くと、

「他人を出すなどとんでもない。
私と深雪が行くんだ、イギリスにね。」
「今の『私と深雪が』って言う言葉、
すっごく引っかかるんだけど…。
ひょっとして、俺は日本に残るってこと?」
「ご明察。」
「げっ。そんなの聞いてないよ!
父さん。俺は、どうすれば良いんだ!」
「その心配はいらないよ。
お前は母さんの知り合いの家に、
しばらく引き取ってもらうことが決まってるから、
そこに一緒に来る女の子と、そこに住む男の子、
それからその家のおじさんと、仲良くするんだぞ。」

と言われてしまうと、

「は、はぁ…。」

もはや反抗する気力も無かったためか。
父の言うことを認めるしかなかった。
誠大は、生活用の荷物を先に居候先へ運び出し、
後から必要最低限の荷物を持っていくことにした。
そして彼もまた、居候先となる「平尾町」へと、
電車でたどり着いたと言うわけだった…。


見るからに長そうなので、いくつかに分割してみようと思います…。



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