作:あかり
『夕焼け こやけで 日が暮れて・・・』
お決まりの5時になったらなるフレーズ。
小学生だろう小さな子たちも「じゃあねー。」なんていってお互いに手を振り合ってる。
ほんの数年前までは、私も小さな子だったんだなーって思うとなんだか変な気持ちだ。
「みぃゆぅ、どうしたの?ぼーっとしてぇ?」
「ごめん、ななみちゃん。ほら、あの子達小学生くらいでしょう?小さいなあって思ったんだけど、でも、私も2年まえまでは小学生だったなぁって思ったらおかしいなと思って。」
「なんだ、そんなこと考えてたのか。ま、日々成長してますから?」
「そうだよねぇ、ずっと小さいままだったら大変!あ、でも、この題材で何か演劇できないかな?成長の止まってしまった少女と、青年の話とか!、せつないラブストーリーができそうな気がする。」
「綾の場合は、なんでも演劇にしちゃうんだねぇ。」
「綾ちゃん、すごいなー。」
「未夢、ほめちゃだめだよ。絶対、巻き込まれるから!」
「ええーっ!」
「二人ともやる気満々ね、いいわ。今度の作品にはダブル主演で出てもらおうかしら?」
「あ、綾ちゃん?あのー冗談だよね・・・」
「あーやー、それはちょっと。」
「ふふ、今度のはもう決まってるから嘘だよ。でも、その次のは考えておいてね?」
芸術の秋になって、綾ちゃんはいつもにもましてはりきっていて、勢いはちょっととまりそうにない。前に演劇指導してたときはもうすごかったから、それを知っているだけにちょっと怖い気もする。
「未夢はともかく、私はパス」
そう言いおいて、ななみちゃんはたっと勢いよく走り出した。やらないよーっていうみたいに。
「あ、ななみちゃん逃げたね。ずるいなー。綾ちゃん、追いかけよ。」
そう言って、先に駆け出した背中を追いかける。夕方で空も橙色で、なんとなく、昔の青春漫画みたいだなんて思ってしまう。
「ねぇ、なんかこれって青春ドラマみたいじゃない?」
先を走っていたななみちゃんも同じようなことを思ったみたいで私は「うん。」といって笑ってしまった。
まあ、思春期だから?なんてななみちゃんがいうからもっと笑ってしまて、おなかが痛くなって走ってはいられなくなってしまった。
皆いつものペースで歩き出す。
3人がばらばらになるT字路は走ったおかげでもうすぐ目の前だ。
「じゃあね、未夢、綾。」
「うん、ばいばーい。」
「うん、二人とも、また明日。」
そう言って、分かれた後はなんだか寂しい。
また明日ってことは、明日まで会えないってことだからかな。
夕暮れはいつものことなんだけどやっぱり毎回胸がキュってなるなと思う。
秋のせいなのかなんなのかそんなことをぼんやり思いながらテクテク歩いていたら後ろから駆けてくる足音が近づいてきた。
「未夢、今帰りか?」
「うん。あれ、彷徨今日って委員会で遅くなるんじゃなかったっけ?ずいぶん早くない?」
「夕方暗くなるのが早いからって先生が早めに切り上げたんだ。」
「そうなんだ。」
「そう。」
彷徨はそんなにおしゃべりじゃないけど、帰り道が一人じゃないことにほっとした。
それに、なんとなく彷徨の隣は居心地がいい。
一緒にすんでる家族みたいなものだからかな?
最近ふっと思ってしまうこと。多分、いつも一緒にいる皆が私と彷徨のこと『つきあってる』とか『思いあっている』っていってからかうから余計に、居心地がいいのはなんでだろうって思うんだと思う。
今日の5時間め休み時間では三太君は「彷徨のことよくみてるんだね。」ってなんだか嬉しそうに言ってた。別に彷徨を見てたわけじゃなくて、当てられた三太君が慌てているのをみてたら横にいた彷徨があくびをかみ殺したのが見えただけだったのに。
それを聞いてた綾ちゃんとななみちゃんは「知らぬは本人ばかりなりってやつだね。」なんて言って多分、あれはニヤニヤしてた。
クリスちゃんはクリスちゃんで、6時間目の授業のときに突然「いつでも二人はお互いを見詰め合ってるのね。ふたりはとっても仲良しさーん。そんなのって、そんなのって、嫌ですわー。」とかなんとか言っていつもみたいに禍々しいオーラを出してたし。あれはかなり怖かった。私、彷徨に近づいてさえいなかったのにな。ちょうど国語の授業中で、朗読をしてて「次は、花小町な。」先生のその言葉で正気に戻ったみたいで「きゃー、すみません先生。」と言ってた。先生に当てられてからは優しい穏やかなクリスちゃんに戻ってたけど。一緒にいるわけでもないのに暴走したのを見たのは初めてだったから本当にびっくりした。
それに、望君。帰りがけに「未夢っち、このバラを受け取っておくれ。君の心が一人にとらわれようとも、僕はバラを送り続けるよ。なんていったって、僕はみんなのアイドルなんだからー。」そういって、真っ赤なバラを手渡して帰っていった。もちろん、彷徨には「君は僕のライバルにふさわしい」なんていつもみたいに声をかけて。彷徨は心底嫌そうな顔してた。
それにしても、私の心が一人にとらわれるって誰のことだろう?ルゥ君のことかな?
まあ、6時間目始まってから時々、こちらをみる彷徨に私だって気付かなかったわけじゃない。
もしかしてまたルゥ君がやってきたのかと思って思わず窓を見ちゃったくらい。
ルゥ君が来てる気配はなくて変だなって思ってたときにクリスちゃんが暴走して、それからは私のほうをそんなに見なくなってた。
そういえば、まだ理由を聞いてなかったな。
「ねぇ、彷徨。6時間目の始めなんであんなに窓のほう見てたの?クリスちゃん、間違って私のほうを見てるって思ったみたいだったよ。暴走して怖かったー。」
「あぁ、眠気覚ましになるものないかなってちょっと余所見をしてたんだよ。まさか、それだけで暴走するなんて思いもよらないだろ。」
「うそー。目が合ったとき、そんなに眠そうでもなかったじゃない?」
「・・・眠かったんだよ。」
ぷいっと横を向いて、そんな風に返された。夕焼けに照らされて、彷徨のほっぺたは真っ赤だ。
一瞬、照れてるのかなと思ったけど、夕暮れの空をみてそんなわけないかと思う。
授業中眠かったなんて私にはそんな風には見えなかったけどなと思うけど本人がそういうんだから信じるほかない。
「まぁ、眠かったならしょうがないけど。でも、クリスちゃん一緒にいないときに暴走したの初めてだったからびっくりしちゃったよ。」
「ほんとにな。」
そう言って、彷徨は苦笑いしてた。やっぱり彷徨も怖かったんだなと思う。
おしゃべりしてたら、西遠寺のあのきつーい階段も残すところ、あとちょっと。
話してて、息切れしちゃったから「ふー」って息をついて次の一歩を踏み出したら、なんでか踏み外してしまって前のほうに体が傾いた。
つい、目を閉じちゃって、膝すりむいちゃうなそう思って衝撃を待ったけど痛みはなくて、その代わりに、右腕がすごい力で上に引っ張られてた。
「あぶねー。大丈夫か?」
その声にまぶたを開けたら私はちゃんと立っていた。つかまれた右腕はすこし痛かったけどすぐに痛みは引いてきた。
真摯な目に目が離せなくなる。心臓がいつもよりずっと早くなった気がするけど、こけそうでびっくりしたからかな。心配そうな彷徨にやっとのことで「うん。」と大丈夫だって言う返事だけをする。
「あー悪い。思わず思いっきり握った。」
「へーき。」
痛かったのは本当だけど、心配してくれる目が本気な気がしてなんだか安心する。
「じゃあ、帰るか。」って彷徨が促したから階段を1段ずつ登る。
今度こそ、慎重に。
登りきって、玄関の扉を開いて「ただいま。」って声をかける。ワンニャーが「おかえりなさいませー」と間延びした声で答えて、ルゥ君が「きゃーっ」って喜んで迎えてくれる。いつもの光景。
だけど、ふっとそのとき思った。彷徨には「また明日」って言わなくていいんだなぁって。
今日、学校で過ごした友達には彷徨を除いて多分全員「また明日」って言って帰ってきた。仲良しのななみちゃんや綾ちゃんに言ったときも寂しく感じたけど、多分彷徨にそんな風に言わないといけないとしたらもっとずっと寂しいだろうなって思う。いつも口喧嘩ばっかりしてるのに。
想像しただけでキュって胸が締め付けられる。
それが、「好き」ってことかどうかは分からないけれど、誰よりも「また明日」なんて寂しくなることを言いたくない存在だってことだけは確かで。
それって、ずっと一緒に居たいってことなのかも。
ずっと一緒に居たいくらい彷徨の傍が居心地がいいって思ってるってこと?
でもそれって、恋人を通り越して夫婦が思うことなんじゃないの?
そんな、時々クリスちゃんが口に出してる想像くらい恥ずかしいことを思ってしまった。
つい彷徨をそっと見てみたら「今帰ったぞー。ただいまー。」なんていいながら満面の笑みでルゥ君の頭をなでて話していたのに、私が見ていたのが分かったみたいにふいにこっちを向くものだから頬に熱が集まってきてしまう。
「ルゥ君、私も帰ったよ。ただいま。」
そういって、ルゥ君の手を握って彷徨の視線をごまかした。いつもなら、一緒になってルゥ君の頭をなでるのだけど・・・。今、ちょこっとでもその手に触れてしまうのはなんだかとっても恥ずかしい気がして、いつものようにはできなかった。
お題に挑戦させていただきました。
お題をお借りしたサイト様は以下のとおりです。ありがとうございました。
サイト名・時雨れ喫茶 管理人名・道野 木実 様
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