後編

作:あかり

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少し前まですごーく暑かったのに、2,3日前から急に寒くなってきたみたい。ルゥ君もちょっと寒いみたいでかわいいくしゃみをしている。そのせいか、ワンニャーも彷徨も少しピリピリしてる。ルゥ君がくしゃみをするたびに私のそばにいるルゥ君を二人が心配そうに見てるのが、大変なことだってわかってはいるけれどなんだかおかしい。どこにいても、何をしていても動作が止まって、ちょっとだるまさんが転んだをしているみたいだなんて思ってしまう。まあ、ルゥ君をお医者さんに連れて行くわけにはいかないから、皆が心配するわけも分かってはいるし私だって皆に負けないくらい心配してる。
「あ、ルゥ君これ着よう?あったかいよー。それにすごーくかわいいんだよ。ほら、ね?」
フワフワと宙を飛んで進んでいるルゥ君を抱っこして、出してきたポンチョを見せてみる。
「ル?」なんていって首を傾げてる様子はすごくかわいい。
そんなルゥ君にとても似合うだろうと思って買った服を取り出した。
2,3日前の寒くなった初日はお休みで、もともとショッピングに行こうって綾ちゃん、ななみちゃんと約束してた。そのとき、見つけて一目ぼれしてしまったポンチョ。その日寒くなってきたから秋物ほしいななんて思っていたけれど、子供用のポンチョを見つけてしまってどうしてもほしくなって買ってしまったそれ。やわらかいモコモコの素材でできていて、やわらかい黄色の生地に前はボンボンで止めるようになっていて、背中には真っ白の羽がついてる。一目ぼれだった。まさかこんなに早く出番ができるなんて思ってもみなかったけれど。
「やっぱり、かわいいな。ルゥ君、とっても似合ってるよ。」
ルゥ君も気に入ったみたいで、「ル、ル」なんていいながら手をたたいて喜んでる。しばらく喜んでたら、彷徨の方へフワフワしながら移動していった。
私にはいつも意地悪だけど、ルゥ君にはいつもやわらかく、優しい彷徨のほうへ。
昨日もルゥ君にたかいたかいなんてしてた。
私もは一人っ子で自分の年下の子と一緒になんて過ごしたことなんてほとんどないから、ルゥ君と一緒にすごす今は新鮮なことばかり時々すごく戸惑うこともある。
彷徨も私と一緒で一人っ子だから同じだと思うんだけどなんとなく、することが手馴れていて時々悔しくなる。でも、ルゥ君が喜んでるのをみるとそんなことすぐにどうでもよくなっちゃう。
今日もやっぱり彷徨は「たかいたかいがしてほしいのか?ルゥ?」なんていいながらニコニコしてルゥ君を上に上げて、最後には高い高いしながらくるくる自分の体を回してた。ルゥ君もきゃっきゃって言いながら喜んでる。
でも、なんだか違和感があった。なんだろうと思ったら、昨日と違って彷徨の動きが少しぎこちない。
よく見たら顔も少し血色がいいというよりは頬が赤い気がする。
「彷徨、そろそろルゥ君が目を回しちゃいそうだよ。」そういって声をかけると「そうか?ま、いいか。ルゥ面白かったか?」なんてのんきに返事を返してきた。
ルゥ君は「はぁい。」なんて言ってけっこうご機嫌にしてるけどなんとなく、彷徨はそのままじゃだめな気がした。ルゥ君をとりあえず、ワンニャーに任せてきて、もう一度彷徨を見てみるとやっぱりいつもに比べてなんとなく熱っぽいような感じがする。
「彷徨おでこみせて。」いつも熱が出たときに、ママやパパがしてくれたみたいに手を額にかざそうとすると、なんでか「おでこをなんで見せなきゃなんないんだよ。」って逃げるように後ろににじり寄って彷徨が嫌がってるから、『もう』って思って思い切って手を伸ばしたら手が届いた。いつもだったらひょいって逃げられちゃうのに。
彷徨の額に無理に手をあててみると、やっぱりずいぶん熱かった。「あれ、お前の手冷たくて気持ちいいな。」なんて、いうからどれだけ熱が出ているのか心配になった。あんまり心配だったから、熱を測るように言って体温計を手渡すのに「熱なんてあるわけないだろ。」なんて言って取り合ってくれない。ワンニャーに頼み込んでもらって、もっともらしく風邪をひいてもしルゥ君にうつしたりなんかしたら大変だから念のために測ってくれと頼むとしぶしぶ測ってくれた。
「38.9℃?あれ、熱があるな?気づかなかった。」
測った熱はかなり高いのに、他人事みたいにそんなことを言っているからあきれてしまった。それに、いつもいろんなことに気がつくのになんで自分の体のことには無頓着なんだとびっくりした。しょうがないから、早く薬飲んで休んでとぐいぐい引っ張って部屋まで連れて行ってあげた。もし私が熱が出ていたなら彷徨がしてくれるだろうとおりに。部屋に着いたらワンニャーがひいてくれた布団にもぐりこんで「うつらないように、しっかり手洗いとうがいしろよ。」なんて自分の心配をせずに人の心配をして眠り込んでしまった。でも、よっぽど疲れていたんだろう、すぐに寝入ってしまった。
お水や氷をとりに台所に戻ったら「未夢さん、風邪をひかれるといけませんから、私が今日はついています。」ってワンニャーが言ってくれたけど、ルゥ君のことも心配だったから、ルゥ君にワンニャーがついてあげてってお願いした。もし、ワンニャーに彷徨の風邪がうつっちゃったりしたら、家のことをまわせなくなっちゃうし、病院に連れて行けないのはくしゃみをしてるルゥ君だけじゃなくてワンニャーも一緒なんだから。
ワンニャーが手際よくそろえてくれたかぜっぴき対策の氷やコップや薬なんかをもって彷徨の部屋に入ったら、縮こまってはいたけどちゃんと布団に包まって寝てた。よく考えたら、数日前にあった体育祭や文化祭でどちらの行事もいろんなところで責任者を割り振られていて学校では結構忙しそうにしていたな、なんて思い出した。
でも、家ではそんなそぶりを見せたことはなくて、ワンニャーもルゥくんも多分そんなに彷徨が学校では忙しくしてたなんて気付かなかったんじゃないかなって思う。家事分担は一応その間私が引き受けたけど、それでも多分、ずいぶん無理してたんだと思う。何でもできちゃうからいろんなことを頼まれて、たぶんそれ自体は毎年のことではあったんだろうと思う。妙に手馴れていたから。
でも、今年は私やルゥ君、ワンニャーが家にいて、そのことにも気を回して・・・。
「いつも、ありがとう。」
眠る彷徨はいつもと違って意地悪なこと言わないから、するりといつもは言えない感謝のことばがするっと出てきた。いつもの意地悪だって、そのうちの何割かは私のことをおもって言ってくれているんだって分かってる。
父の日も母の日も私が家族と気まずくなったときには私のことを考えて動いてくれていた。
それに、今まで何度もルゥ君のことを隠すために何度となくうまく言い逃れてこれたのは彷徨の機転があったからだ。ワンニャーがしっかりお家のことろ切り盛りしてくれて、私や彷徨が時々は手伝ってなんとか生活できてた。
それでも、私たちが預けられたこの環境でうまく過ごせることができるようにきちんと道を照らしてくれる彷徨がいたから4人、何とかやってこれたってちゃんと分かってる。私と同じ中学2年生だけど、それでも大人びたところが多いから、つい私もワンニャーもどこか彷徨に頼ってしまう部分があった。
しっかりしてる、頼りになる、学校ではそんな風に言われてた。
どことなく大人びてるのは、小さいころから、甘えることをしてなかったのもあるんだろうなって思う。
今日の事だって、そうだ。たぶん昔から宝生おじ様は忙しくしてることが多くて体がきついってなかなか言いづらくて。小さいときから、体調がきついときも黙ってたんじゃないかなって思う。それで、どんどん自分の体の変化には無頓着になっちゃったんじゃないかなって。
私にも少し覚えがあるから。小学生になるあたりから両親はとても忙しくなって、子供の体調が悪いからといっていつも快く休みがもらえるわけじゃなかった。ママがお仕事先に謝りの電話をいれて、電話口から怒鳴り声が聞こえてくることや、なんだかよくない響きの言葉が返されてくるときはままあった。その声を聞いてて、私のせいでってすごく悲しくなった。
だから、少しくらい体がきつくても、両親の前ではそんなことありませんよーって顔をしてた気がする。
私はうそが下手ですぐばれちゃってたけど・・・。
私のところとは事情が多分違うだろうけど、西遠寺はお寺で、法事やなんかはもともと予定がきまっていることだからその日以外にするわけにはいかないし、おじ様しかお坊様がいないから代役も立てれない。そうなると体調が悪いからって彷徨が家に帰らされても一人で家にいなくてはいけないことになる。広い家に一人ぼっちで、体はきつくて・・・。お寺の仕事のことはよく分からないけれど、多分そんなことがあったんじゃないかななんて思う。
私も、1度そんなことがあったから。パパの大事な研究の発表の日とママの大事な訓練の日が重なって私もそのことを知っていたから、体調悪くて家に帰りましょうって言われたときに「おうちの人は今日は家にいるかしら?」って尋ねられて、いるから大丈夫って答えて家に帰ったあの日。誰もいない家はいつも知っている家のはずなのに、知らない家のようで、広い家にいることがとっても寂しくて、心がスッて冷えてくる。



私は1回だけだったけど、彷徨はそんなことを何回経験したんだろう。



そう思ったら、自然に「今日は、私がちゃんとついてるからね。安心して休んでいいよ。」って口にしてた。熱のせいか、彷徨の顔が苦痛に眉をきゅっとひそめてきつそうだったから。
彷徨は、私の声に気づいたみたいで、目をあけたかと思ったら手を伸ばして床に置いていた私の腕の裾の端をきゅっと握った。その後なにか口にしたみたいだったけど、声になっていなくて私には聞こえなかったけど、もしかして「お母さん。」って言ったのかなって思ってなんだか胸がきゅっとなった。
無意識にルゥ君が寝付けないときにしてるみたいに頭をなでてしまって、してしまった後にはっとして頭においてた手を離してしまった。別に、誰に見られたわけでもないのに頬が熱くなったのが分かった。でも、頭をなでた後の彷徨の顔が少し緩んでさっきのなんだか苦しんでいる顔とは違ったからなんだかほっとした。
ほっとして、ふっと思った。
いつだって、どこでだっていろんな人たちの進む先を照らして頑張っている彷徨が休める場所が、私たち4人が過ごすこの西遠寺だったら、例えば、それが私の傍だったならいいなって。









未夢ちゃんからみた彷徨くんが灯台から出される闇夜を割くように船に行く先を照らす光だったり御伽噺のヘンゼルとグレーテルが道しるべに使ったような行く先を示す光だったらいいなあと思います。
お互いがお互いのことを光り輝く存在だと思う関係は素敵だなぁと思います。

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