タカラモノ

4

作:あかり

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課題とは全く違う思考にそれてしまったから、仕切り直しにと居間へ向かう。暗い廊下の先は、ほんのり明るい。扉を開くと、予想していたのと同じように、未夢がいた。ほんのり玄米ちゃの柔らかい香りが広がっている。「いる?」と差し出された言葉に甘える。
いつもは、さわがしいくらい元気がいいのにどこか沈みがちな表情を不思議に思う。尋ねてみたら、小学校のときの作文の話。自分と同じように思い出したんだなと思うと、少し不思議な気もした。続けて、告げられる言葉に、あぁ、寂しかったのだなと思う。
自分に出来るのは、自分を助けてくれた親父の言葉を伝えることしかなかった。最初、弾かれたように、こちら見つめてきた未夢に丁寧に言葉を繋げる。あの時、親父がしたように。少しでも、俺が感じたように護られていると感じてくれたならいいと思いながら。



話し終わってみたら、脱力したように未夢の顔はほっとしているように見える。一瞬、話し終わったことに気付かなかったように、ぼんやりしていたけれど終わったと気付くと、表情がゆっくりと微笑みに変わってほっとする。
「なんか、軽くなった。彷徨、すごいね。そだね。寂しくなっちゃった思い出だからぐるぐるしてたのか。」
分かるようで、分かりにくい未夢のことば。それでも、少しでも重石を軽く出来たなら、良かったなと思う。親父の受け売りでも、それでもいつもの笑顔に戻せたのが自分だったことにほっとする。心の隅っこにある優越感が出てくるのだって、致し方ないと思う。家族だと決めたのは自分だけど、好ましく思っているのはとめられないから。
「なんか、うまく言えないけど、糸が絡まっちゃったみたいにずっともやもやしてたんだよ。ありがと、彷徨。・・・今、あったかく感じるは、ルゥ君やワンニャーや彷徨と一緒にすごしてるからかも。ルゥ君も、大きくなったとき私たちのことはっきり覚えてなくても温かいってどこかで感じてくれたら良いな。彷徨もそう思わない?」
続けられた言葉に、優越感は苦い味にかわる。告げられる言葉は、どこまでも家族としてのもの。それでも、そこには大切に護りたいって俺と同じところからくるもので。嬉しい気もちもあるけれど、それでも、どこかでがっかりしている自分もいて・・・。
それでも、家族を護りたい気持ちが同じだと分かっただけでもよかったと思えたから、「そうだな。」って笑って返す。苦い笑顔になったけれど、きっと未夢は気付かない。家族を護りたいと思っているのは本当で、けれど、その中でも一番をと尋ねられれば、間違いなく彼女だと答えるのに、当の本人は絶対にわかっていなくて。





『今を維持していくことが最善』自分で決めたことだけれど、ぎゅっと体の中心を捕まれるような気持ちになった。


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