サークル

   [T]

作:紅龍

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『ねえ、未夢ちゃん。来週の土曜日って何か予定ある?』

電話の向こうで、綾が突然話題を変えてきた。

「え、何も無かったはずだけど。どうしたの急に?」

『その日、うちの中学校の文化祭なの。一般公開するから、
 未夢ちゃんも来ないかな〜って思って。』

「え〜!行く行く、絶対行くよ!うわ〜、また皆にあえるんだね」

あまりの興奮に思わず立ち上がって、腕をぐるぐる回していた。
綾やななみ達とは引っ越した後も度々電話でやりとりしたり、夏休みには一緒に遊びに行ったりしたはが、学校で皆に会うのは半年振りなのだ。

『じゃあ、9時開門だから。あと、うちの教室は3階の一番奥だから。待ってるね』

「あ、綾ちゃん。綾ちゃん達、何の出し物するの?」

『んっふっふ、それは秘密です。さあ、ななみちゃんにも知らせなきゃ。
 じゃあね未夢ちゃん、またね。』

「綾ちゃん!・・・切れてる。相変わらずですなぁ。」

思い込んだらまっしぐらの親友に苦笑しながらも、未夢はカレンダーの来週の土曜日の欄に大きく【四中文化祭】と書き込んだ。

「逢えるんだ・・・」

懐かしい友達との再会ももちろん嬉しいが、平尾町に行くと決まったとたん、
頭に浮かんできた顔。口は悪いが、いつも見守ってくれていた男の子。
逢いたくて、声が聞きたくて心が落ち着かない。
両親のもとに帰ることがわかっていたから、何も告げずに別れたのだけれど・・・。




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よく晴れた秋空の下、いつもより活気のある中学校の前に未夢は辿り着いた。

「うわ〜なっつかしい。まだたった半年ぐらいなのに・・・。」

未夢はきょろきょろと校庭にでている屋台を見ながら教室を目指す。
校舎の中には仮装をした生徒達が呼び込みに力を入れている。

おいしそうな食べ物の匂いに負けそうになりながらも、未夢は電話で聞いた3階の教室の前まで来ていた。
教室の窓には暗幕が張られ、入口にはアンティーク調のランプまでかかっている。

「・・・な、なんか雰囲気でてますなぁ。まさかお化け屋敷じゃないよね?えーと、
 〔アクアキャッスル〕?何だろう、ぜんぜん想像がつかないんですけど・・・。」

おそるおそる、扉を開いてゆく。

「あ、ようこそ、アクアキャッスルへ!・・・って光月さんじゃん!」

開いた扉に一礼をし顔を上げたのは、猫目の少々変わった趣味を持つ男の子、三太だった。

「え?未夢ちゃん!わー久しぶりー!」

クラスの女子達が久々のクラスメートの登場に集まってくる。

「未夢〜いらっしゃーい」

「未夢ちゃん早かったねえ」

綾やななみも未夢のそばにやってくる。

「えへへ、早く皆に会いたくて早起きしちゃった。皆その格好かわいい〜、え?喫茶店なの?」

集まってきた女子達の衣装はおそろいの真っ白なエプロン、頭には大きな白いリボンが付いていた。男子達はタキシードでバシッと決めている。

「ただの喫茶店じゃあないのよ。ここは水野様のお城、アクアキャッスル!
 ここに来る各地の王子様、お姫様達をおもてなしするのが私達なのでーす。」

お下げ髪をぐるぐる回しながら綾が説明をする。ようするにメイド喫茶?とは思ってもあえて流しておく。

「やぁ未夢っち、半年ほど合えなかった間にずいぶんときれいになったね。素敵なレイディを
 おもてなしするのはこの僕の使命だからね。心を込めておもてなしさせてもらうよ。」

くるくる回りながらバラの嵐を起こし、未夢の前にバラを差し出す。自称“バラの貴公子”光ヶ丘もあいかわらずだった。
未夢は差し出されたバラを受け取りながらも、視線だけで、もう一人の美少年を探した。

「あ、西遠寺君なら今、水野先生のところに行ってるよ。もうすぐ帰ってくると思うけど」

「え!?べ、別に彷徨なんか探してないよ」

ななみに図星を指され、顔に出てたかな?と頬をおさえる。

「さ、立ち話もなんだから。こちらへどうぞお姫様」

綾に勧められて窓際の席につく。

「苺とチョコレートとりんごのケーキがございますが、どれになさいますか?」

「へぇ、結構本格的なんだね。じゃあ、苺で」

「お飲み物は紅茶とコーヒーとオレンジジュースがございますが、どれになさいますか?」

「紅茶でお願いします。」

優雅に一礼をし、半分に区切った教室の後ろ側に下がる綾を見ながら、ふぅとため息をつく。
クラスメート達が楽しそうに他のお客達の相手をしているのを見て、どうして自分は座っているのだろう、と。

懐かしい顔に合えたのは嬉しかったが、
つい、自分も一緒に参加したかったなと思ってしまう。


「おまたせしましたぁ。お姫様、そんなに悲しそうな顔してちゃダメですよ。」

いつの間にかケーキセットを持って来たななみが目の前に立っていた。

「この後ちょっとしたイベントがあるから、未夢も参加しなよね」

「イベント・・・?」

何のことだろう?と不思議に思いながらも、ちょこちょこと入ってくる一般客への接客の為戻っていったななみに確認することができなかった。

「アクアキャッスルへお越しの皆様、お待たせ致しました。
 城主の水野様とクリス姫の登場です。」

突然の三太の声に全員が入口を見る。
開かれた扉からドレス姿の水野先生とクリスが入ってくる。
水野は一礼をし、教室を見渡しながら挨拶をはじめる。

「皆様、ようこそアクアキャッスルへ。城の者たちが心を込めて作らせて頂きましたケーキは
 お口に合いましたでしょうか?よろしければ15時より中庭でダンスパーティを開きますので
 どうぞご参加を。」

「ドレスをご希望のお客様がいらっしゃいましたら、少しですがご準備しておりますので、
 どうぞお申し出くださいませ」

クリスの「ドレスがある」という部分に客の女性達がざわめき始めた。
こんな機会でもないと着る事のなさそうな豪華なドレスに挑戦してみようと思案しているのだ。
そんなざわめきの中、水野もクリスも未夢に気付きウィンクする。
未夢もこっそり手を振った。その時、クリスの後ろでつまならそうに窓の外を見つめる人影に気付いた。

「彷徨・・・」

呆然と、声にならない程のつぶやき。
その声が聞こえたかのように、彷徨が視線を未夢へ移した。

「未・・・夢・・・?」

大きく開かれた琥珀色の瞳と新緑の瞳がぶつかる。
恋焦がれた姿がそこにある。

「・・・未夢ちゃんと彷徨君が見つめ合ってる・・・・・・久しぶり、きれいになって。
 そんな、彷徨の方こそかっこよくなっちゃってもう、私なんて忘れられちゃったかしら。
 馬鹿だなぁ、俺がお前を忘れるわけないだろう。さぁ、もっとよく顔を見せてくれ。
 あぁ、私もあなたの顔をもっと近くで見たい。・・・・・なぁんて、お互いの顔と顔、しっかり
 握って離れない手と手、だんだん近づく視線の先にはもうお互いしか見えてない。
 引き裂かれた二人は、逢えなかった分、惹かれあってしまうのねーーーーー!!!!」

見つめ合う二人の間に立っていたクリスが、不穏な空気を身にまとい、頭上に三太を掲げ
今にも未夢に向かって投げ付けそうな勢いだ。

「うわー!花小町さん、落ち着いてー!」

三太が涙目になりながら叫んでいる。
他の客達もあっけに取られながらも、金縛りにあったように動けないでいる。

「ク、クリス姫、そろそろお時間ですので準備の方を」

三太の悲鳴で我に返り、未夢から視線をはずすと彷徨はクリスに声をかけた。

「あら、もうそんなお時間ですの?では皆様ごきげんよう」

彷徨の声で我に返ったクリスは、三太を脇に下ろし、何事もなかったように優雅に一礼をし
水野、彷徨と一緒に教室から出ていった。
一気に解けた緊張感でその場にいた全員がため息をついた。
普段こーゆー場面を見慣れない客達も、演出だったのだろうと落ち着きを取り戻していた。

「あ、あはは、クリスちゃんもあいかわらずだね・・・」

引きつりながらも、今も変わらぬ反応をする友達を未夢は笑顔で見送った。

「西遠寺君が他の女の子にケーキを運んでるのを見るだけであーなってたから、
 しかたなく執事役を辞めさせて、クリス姫の護衛って役に付けたんだけど・・・
 これじゃ一緒だったかな?」

「しかたないよ、未夢と西遠寺君が揃うの見るの久しぶりだったんだから。それに、
 あながちクリスちゃんの妄想も間違ってないんじゃない?」

クリスのただならぬ雰囲気に裏から飛び出してきていたななみは、役の配分を悩む綾をなだめながら、後半は未夢に意味深な目をむけてくる。

「もー、そんな事言ってないで。綾ちゃんもななみちゃんも一日ここにいるの?」

「うちらは午前中の当番だから、午後から見て回れるんだ。未夢も一緒にまわろうよ」

「うん。でも午後からって、さっき言ってたダンスパーティっていうのは?」

「あれは全校の共同イベントなの。まぁ、ドレスはうちのクラスのオリジナルだけどね。
 ついでに宣伝にもなるかなぁって。あ、ちなみに衣装は花小町家全面協力だよ。」

綾もななみも注文が増え始めた為、「あとでね」と戻っていった。
未夢は出されたままだったケーキを思い出し、少し冷めた紅茶と一緒に食べ始めた。

「おいしい。すごいなぁ、私も今度作ってみようかなぁ」

最近は簡単な料理なら作れるようになってきた。基礎はワンニャーに習っていたし、落ち着いてやれば失敗も少ない。
それでも時々、火が強すぎたりとか、分量を間違えたりはしたが・・・。
うーん、と考えながら黙々とケーキを食べ、紅茶を飲み干すと同時に、ぽん、と頭を叩かれた。
自分の世界から突然に引き戻されて、びっくりして振り返ると彷徨が少し息を切らしながら立っていた。

「彷徨!」

「お前なぁ、来るなら先に連絡しとけよな。」

頭に上に手を置いたまま、あきれたという顔でため息まじりに見下ろす。

「いきなり叩くことないじゃない。・・・久しぶりに会ったっていうのに・・・」

むーっと唇を尖らせて上目遣いで抗議をしてみる。でもその頬はうっすらと赤くなっている気がする。
久々に見た姿が、今まで見たことのないタキシード姿で至近距離だったのだから仕方がない。
さっきから女性客の話題にもなっていたのだ。
相変わらず、かっこいい。なんて思いながらも、素直になれずに憎まれ口をきいてしまう。
一緒に生活してた時と変わらずに。

「今日は小西や天地とまわるのか?」

彷徨は彷徨で、久しぶりに見る未夢の上目づかいのすねた表情にクラッとし、慌てて天井を仰ぎながら話題を変えてみた。

赤くなった顔で思いがバレやしないかと気が気でなかった未夢は、彷徨の行動に気付かずに、
何気に教室を見渡してみれば、満席とはいわないがほぼ埋まっていた。

「うん、当番があるから午後からだけどね。あと三時間ぐらい・・・ここにいちゃ邪魔だよね?」

多分これからもっと増えてくるだろうと予想できる。そこに自分がいつまでも一席陣取っているわけにはいかない。
もう、自分は部外者なのだから、と気持ちが急降下していく感覚が、さっきまでの火照った頬を冷ましていく。


目に見えて沈んでいく表情に、未夢が何を考えていたかなど聞くまでもなく、
せっかく逢えたのだからどうせなら笑顔が見たいと思った瞬間、彷徨の体は動いていた。

「・・・案内してやるよ」

未夢の頭の上に置きっぱなしになっていた右手をスッと下ろし、そのまま、未夢の左手をとり軽く引っ張り、イスから立たせる。

突然の事に頭が付いてこず、「ふぇ?」と間抜けな声を発しながら、未夢も軽く引かれただけの手に従って立ち上がった。

あまりにも息の合った自然な振る舞い。
しかも暗幕を張った教室の洋館チックな雰囲気に、タキシードを着た美少年と、雑誌に載ってもおかしくないほどの美少女。
クラスメートや一般客達は思わず「ほぅ」とため息をついていた。

彷徨は、そんな周囲の状況も気付いてない振りをしながら

「いくぞ」

の一言で未夢をつれて教室を後にした。

後ろで、未夢が何か言っていた気がするが、無意識に握ってしまった手と、教室中から注目されていた事とで
急激に襲ってきた恥ずかしさから、何を言っているか聞き取っている余裕は彷徨にはなかった。




「・・・なんか、いい・・・」
「・・・今のも演出?」
「ドラマ・・・おとぎ話?」

二人が出て行った後、客達は「すごい」「良かった」等と盛り上がり、
女生徒たちは「キャー、西遠寺くーん」と、男子生徒たちは「やるなぁ」などとそれぞれに盛り上がっていた。

「彷徨、我慢してきたもんなぁ」

「未夢だって同じだよ。似たもの同士だよねぇ」

幼い頃からの親友の隠したつもりの思いを感心しながらつぶやく三太に、
まっすぐで純粋でちょっと不器用な親友を心配するななみがうなずく。

その横でレポート用紙にざかざかと原稿を書き上げていく、もう一人の親友も笑っている。















思いついたまま、書き続けてるとかなり長くなってしまったので、
一回区切って、初めてのシリーズ化。
こんな計画性のなさで良いのでしょうか・・・?

オチor書きたいシーンまでは作ってみようと低い目標で作成中。

読んで頂きましたみなしゃん、ありがとうございました。



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