++ Life ++ short stories 作:流那
  Scene1 心のパーキングゾーン  →  




そのマンションは高台にあった。
窓からは海が見え、
時々心地良い風が吹き付ける。



まるで、君がすぐ側にいるように・・・。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







俺-西遠寺彷徨は、この春から一人暮らしを始めて
およそ四ヶ月になる。


未夢に会いたくて、止まらなくて。
どうしても、遠距離恋愛という壁を越えたくて
彼女の地元にある大学に進学した。


彼女、未夢の父・優の計らいで、こっちの大学に
近いマンションを借りた。


部屋は4LDKの八畳。ダイニングにキッチン
と一通りのものが揃っている。


親父は寂しがったが、ずっといるわけでもない。
そう言って説得した。


そんな俺の大学生活はと言うと・・・。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







-朝





休日の朝は、少し寝坊気味になる。
しかし、今日は勝手が違っていた。
時計はPM 8:30指している。


(やべっ。今日は未夢が来るんだった。
レポート片づけちまわないと。それから
掃除も・・・。)


俺はベットからガバッと飛び起きると
髪をとかし、髭を反る。


そして大急ぎで朝食の準備に取り掛かる。
トーストにアプリコットのジャム。
サラダ、目玉焼き。そして味噌汁。
デザートは、未夢手作りのプリン。



大急ぎで口に頬張り、片づけをする。
TVで頻りに流れていたニュースも
耳には入らない。




AM 9:30



ようやくノートパソコンの前に座り
レポートの残りに取り掛かる。
片手にはホットコーヒー。



煮詰まるたびに、寝転がってみたり
未夢にメールをしてみたり。
あれこれ資料を引っぱり出しながら
着々と進んでいく。



どのくらい時間が経ったのか分からないくらい
集中していたような気がする。なにせ提出は
休み明けの明後日だからな。



PM 12:30



ようやくレポートが完了する。
こった肩をほぐす暇もなく
昼食の準備に取り掛かる。


今日はトマトとなすのパスタ。
トマトとなすを一口大に切り
トマトピューレとケチャップを
加え、オリーブオイルで炒める。
味付けは塩こしょう。


最後に茹でたパスタにかけて出来上がり。
カフェオレを淹れて
イタリア気分を楽しんでみる。


時間が無く、慌てて食べたので
舌を少し火傷してしまった。


昼食を済ませるとすぐに
部屋の掃除に取り掛かる。


散らばっている雑誌はマガジンラックに
プリントは一束にまとめてファイルにしまう。
あとはパソコン関係の周辺機器をしまうと
床に掃除機を掛けて、全体の汚れを落とす。




PM 1:30



ようやくすべての予定を終え、
ベットに座って一息。
携帯を取り出し、電話を掛ける。


数秒経って、電話の相手・未夢の声が
聞こえてくる。


「もしもし、俺」
『あ、彷徨?』
「レポート終わったか?」
『えへへ。ついさっき』

(なんだか、どんな表情してるか分かるな)

「ったく。まぁ、俺も同じようなもんだけどな」
口には出さないが、そう思いながら言葉を続ける。


「今日来るだろ?」
『うん、今出るトコだったの』
「そっか。じゃあ、待ってるからな」


逸る想いを抑えながらピと電話を切りつつ
パチンと携帯の蓋を閉めて
ベットに寝っころがる。


(あいつが来るのも久しぶりだな)


そう思いながら。


ここ最近、ふたりで会うのは本当に久しぶりなのだ。
お互い、講義やサークルやバイトで忙しかったり。
同じサークルには入っているし、
電話やメールはしょっちゅうなのだが
二人だけの時間というのは、なかなか取れないものなのだ。



そうこうしているうちに玄関のチャイムが鳴った。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




PM 2:00



-ガチャ



ドアを開けると、さらさらの金髪
新緑色の瞳の恋人・未夢が
照れ臭そうに立っていた。



「入れよ。今、紅茶でも淹れる」
俺はいつものように手招きする。
「うん」
そうして、二人で選んで買った
お気に入りのソファにちょこんと座る。
そして、思いついたように鞄の中の
包みをも探る。




「これおみやげ。いつものプリンでごめんだけど」
「さんきゅ」
受け取るとすぐに包みを開き
冷蔵庫に常備してある
ホイップクリームで簡単な飾り付けをする。



お盆に乗せて運び、ソファーの前にある
テーブルに載せる。



今日の紅茶はロシアンティー。
友人から貰ったブルーベリージャムからは、
ほのかな甘い香がする。


まるで目の前に座っている
未夢のように。


何考えてるんだろな・・・俺。



「久しぶり・・・だね。
こうして彷徨の部屋に来るの」
「そうだな」


「それにしてもさぁ、お前
また合コンに誘われそうになっただろ?」
「えへへ」
「ったく、相手のいるやつが合コン行って
どーすんだよ」
「えへ、ごめん。つい。
人の頼みって断れないんだよねえ。なかなか
彷徨みたいにズバッと断れればいいんだけどな」
そう言い訳して、頭を掻く。




何気ないやりとりにも思わず顔が綻ぶ。
未夢のくるくる変わる表情にも
目が離せなくなる。



その後もバイトやサークルの話題で
盛り上がったり、ゲームをしたり。
和やかなムードで時間が流れていった。








◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







「チェックメイト」
「うわ〜また負けた。彷徨強いんだもん
もう一勝負行こう!」
「もう、飽きた。お前弱いしさぁ」
そう言って、からかうように舌を出してみせる。


「彷徨のバカ」
未夢は拗ねてそっぽを向く。



俺は予想通りの反応に顔を緩めつつ
真剣な表情で、一言。



「もっと、他のこと・・・しないか?」
「な・・何言ってるのよ またからかってるんでしょ?」

未夢の顔はすぐにぽんっと赤くなる。

そのしぐさ、表情が可愛くて。
思わず、抱きしめたくなる。


しばらくの間、見つめ合う。


「わ・・・わたし、紅茶のおかわり淹れてくるね。
彷徨も呑むでしょ?」
その沈黙に耐えられなかったのか、立ち上がり
台所の方に行ってしまった。


ったく、そんな態度が余計に煽ってるって
わかんねーのかな。俺だって普通の男なんだぞ。


そう思いながら、台所の方に向かった。


「何やってんだ」
俺は壁に寄りかかりつつ
後ろから話し掛ける。



「だから紅茶・・・」
「そんなのいいって」
同時に後ろから両手で抱きしめる。


「////か・・・かなた」
「俺、もう限界。煽ったのお前だぞ」
そう言って、顔を近づけ
唇に触れようとした瞬間、
再び、玄関のチャイムが鳴った。



俺は突然のチャイムに未夢を腕から離すと
玄関に向かって歩いていった。


そして玄関の向こうに立っていたのは・・・。


「高山!」
動揺して、思わず叫んでしまった。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






(な・・・なんで高山が。やつの用事と言えば
ろくなことが無いじゃないか)


「何の用だ」
思わず、不機嫌な表情で言ってやる。




「よ・・・よお!突然、悪りいな
ちょっと頼みがあってさ」
俺の表情から不機嫌さを悟ったのか
少し遠慮したように言葉をつなげる。



玄関の向こうには、短髪で
切れ長の瞳が印象的な男・高山志樹が
立っていた。


こいつは同じ大学の同級で
クラスも同じなのだが、女関係は派手。
いわば、トラブルメイカーの一端を担っている。
何度うちを、女よけの場所にされたか。



(まぁ、悪いやつじゃないんだけどな。
にしても、なんで今日なんだよ)


俺は心の中でそう呟きながら
ため息をつく。


「彷徨ぁ〜どうしたの?お客さん?」
俺が暫く戻ってこないので
未夢もこっちに向かってくる。


「今日、未夢ちゃん来てるのか?
お前んっちって女っけが無いから忘れてたぜ」
「というわけだ、今日は遠慮してくれ」
そう言ってドアを閉めようとすると
高山の姿に気が付いた未夢が声を上げる。


「あれえ?高山くんじゃない。どうしたの?」
「あ・・・いやちょっと。こいつに用があって
未夢ちゃんが来てるなら帰ろうかって
思ってたところでさ」


高山は決まり悪そうに頭を掻いている。
そんな顔したってダメなもんはダメだ。


俺が内心そう思っていると


「まぁ、遠慮しないで。大事な用事だったんでしょ?」
「あはは、まぁね」
俺が鋭い目で睨み付けてやると、
頭を掻きつつ、苦笑している。



「彷徨、私はいいからさ」
(どうせ、私は泊まってくんだし。
とりあえず、コーヒーでも淹れたら
夕飯の買い物に行ってくるね)


未夢は俺の耳にそう小さく呟いた。
こいつにそこまで言われたら
聞かざるを得ない。



しぶしぶ、やつの用事を聞いてやることにした。








◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇








「で、今日はどうしたんだ?」



テーブルの上では未夢の淹れたコーヒーが
湯気を立てている。



「そ・・・その明後日提出のレポートを
見せて欲しいなと。参考に」


俺は呆れたようにため息をついて
こう言ってやった。


「お前の場合は写したいだろ。
ったく。そんなこったろうと思ったぜ
どうせ、女と遊びほうけてたんだろうが」
「お察しの通り」
志樹は恥ずかしそうに頭を掻く。



「で・・・その」
「分かったよ。見せてやる
今日は特別だぞ」
「さんきゅ〜やっぱ持つべきモノは
心優しい友達だよなぁ。
明日には返しに来るからさぁ」
そう言って、完成した俺のレポートに
頬ずりしている。




「そう言えば、未夢ちゃんどうしたんだろ?
さっき出掛けたみたいだけど。やっぱ
俺に遠慮したのか?・・・・まさか」



高山はすべてを察したようにニヤリと微笑んだ。



「お・・・お前は余計な詮索せずに
レポート持ってさっさと帰れ」
あれこれ勘ぐられてはまずいと
目を光らせ、帰るよう促す。



「今日のところは帰るよ。経過はあとで聞くけどな」
夏の小台風は意味深な言葉を残して去っていった。








◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







夜はカボチャ料理がわんさか並んだ。
未夢によれば、昼間買い物した商店街の福引きで
カボチャ一箱を当てたらしい。


まぁ、俺としては好物が並ぶに越したことは
ないのだが・・・でも。


ふと頭の中に疑問が沸く。


「それにしても、あんな重いの
どうやって持って帰ってきたんだ。
電話すればバイクで迎えに行ってやったのに」



「えっと、帰りにばったり志樹くんに
合っちゃって。バイクで
ここまで乗せて来て貰ったのよ」


(なに〜あいつ)


俺は不機嫌になって黙りこくってしまった。
何に怒ってるって?こいつの無防備さだよ。
ったく。


「彷徨?」
「なんでもないよ。さて、片づけるか」
「うん」


未夢は台所にて、食器を洗っている間も
食後のコーヒーを飲んでいる間も
じっとこちらを見つめてくる。



俺は、凝視されるたびに少し困って
目を反らす。


「彷徨、どうしたの?さっきから不機嫌だけど
高山くんと何かあったの?」


あまりの反応に思わずため息をつくと
読んでいた本を閉じる。



(ったく誰のせいだと思ってるんだよ)
内心そう思いながら、時計を見る。


「いや、何でもないよ。それより寝るか?
もう遅いし。」
「そ・・・そうだね」


「俺、シャワー浴びてくっから
先布団入ってろよ」
そう言って、頭を軽く撫でてやる。


「うん」
未夢は不安そうな表情をしながらも
そう言って頷いた。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇








-夜




シングルベッドで肌を寄せ合う。
以前はこんなこと気恥ずかしくて
出来なかったが、いつしか
それが自然になった。


お互いの温もりを感じながら
眠る夜。今の俺達にとって
無くてはならない時間
あるいは、想いを確かめ合う時間と
いうのかもしれない。


未夢の細く小さな体を抱いてやる。
あまりに細くて俺の腕の中で
溶けて消えてしまいそうな感覚になる。



同時に夏の暑さとは違う熱が
体中に込み上げてくる。



「さっきの続き・・・」
俺はそう言って、顔を近づけると唇に触れた。



右手で金色の髪をすく。
シャンプーの甘い香りが
鼻をくすぐる。



「ねえ、彷徨。昼間はごめん。
彷徨・・・もしかして、
高山くんにやきもち妬いてたの?」
未夢は突然、申し訳無さそうに口を開いた。



俺は先程より深いため息をついて
人差し指で未夢の凸を弾く。


「ば〜か。誰があいつに妬くんだよ」
そう言って未夢の方に背中を向けてやる。
顔が少しずつ赤くなっていくのが分かる。



「彷徨・・・ごめん。少し無神経だったね。私」
未夢はやっと状況を理解したのか
そう言って俺の肩を抱く。



「分かったんだったら責任取れよ」
俺は何かを企むようにニヤリと笑う。



「彷徨のバカぁ〜」



長い夜は、こうして更けていくのだった。




ちなみに次の日の朝、高山のやつが突然尋ねて来たのは
言うまでもない。


散々俺達をからかって帰っていった。


(あいつ、いつか天罰が下るな)
俺は内心そう思っていた。



これは、夏のある日の出来事。
まぁ、これが俺の日常ってことなのかな?






The End





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






こんにちは〜またまた流那です。


懲りずに新たな短編をアップしてみました。
以前のチャットで話題になった
かなたんの部屋でラブラブ♪


のリクに答えたものです。
にしてもやってしまったわ(汗)。


本当はすれすれに書くつもりだったのに。
かなたん理性が飛んでるし。


感想など頂ければ幸いです。


ではでは「月光夢想」の新作で
お会いしましょう〜


これを日和しゃんに捧げます(ぺこり)



BGM:Be your Lover song by 森川美穂



'03 8.27 流那






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