I lost my heart

〜Lover's Word〜

作:煉夏沙良

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あの言葉が無かったら、オレは、どーなってたんだろうな。



I lost my Heart 〜Lover's Word〜




「ねぇ、私、フランスで結婚式したいな」
「結婚式?オレはまだ大学在学中だ。確かに半年前、結婚してくれとは言った。でも後1年あるぞ」
「そうだけど・・・いいじゃん、今から希望してもさ!」


乙女心分かってませんな〜。
モテるくせに、そういう所ダメなんだから!
とでも言いたそうに、むぅ〜と頬を膨らませて拗ねる未夢。
8年前、ようやっと自分の心を取り戻した彼女。
こうやって、表情がコロコロ変わる。

「結婚式の準備はもう、始めるころじゃないの?プランとかさ」

しかし、冷静なところは変わらず。

「まぁ、な。けど・・・」
「けど、なに?」

オレには一つ、ためらっている理由がある。
結婚の約束をしたのに、何ためらってるんだよ。
皆はそうオレに言う。
いや、皆はオレの事情を分かっていない。
オレにとってその悩みはとてつもなく大きい。
・・・未夢に告げたら、どう思われるか、分からない・・・。


「いや、何でもない。ごめんな、未夢」
「そう・・・じゃ、何かあったら言ってね。相談に乗るよ」

未夢は微笑むと、自分の部屋に戻っていった。
ごめん、本当に、ごめん。


あれからオレは、未夢を無意識に避けるようになった。
何となく、未夢の顔が見れない。
せっかく話しかけてくれるのに、話をはぐらかしてしまう。
未夢の表情が日に日に暗くなっているのも分かっていた。
今のオレに、未夢の涙をぬぐうことは、出来ない。
そんな資格、無い。
これからオレと生涯を歩んでいく未夢に、言えていないことがある。
そのこと自体、おかしい。
けれど、人間隠し事くらいあるだろ、と言い訳している自分もいる。





目の前が真っ暗になっていく・・・。





「か、彷徨!!」

最後に聞いたのは、未夢が叫ぶ声だった。
自分に何が起こったのか分からない。
ただ、未夢がオレに抱きついたのだけは、分かっていた―――





















「かなた・・・・彷徨!」
「ん・・・?」

目が覚めると、オレはベッドの上。
どうやら、オレは倒れたらしい。
薬のにおいがする。
病院の、一室にオレはいた。

「バカ!何で、言ってくれなかったの?彷徨が、心臓患ってたこと、どーして・・・」

バレた、か・・・。
オレは、3ヶ月前の定期検査で心臓を患っていることが発覚した。
未夢にプロポーズしてから3ヶ月。
実際オレは、未夢に内緒で結婚式の手配している最中だった。
未夢がフランスで式を挙げたいと言うことも、未夢の机の上にあったカタログを見て知っていた。
けれども、自分の病を知って、その手配は一旦ストップしていた。
心臓移植しない限り、自分が助かる見込みは、ない・・・。

「言える、わけねぇだろ。勉強だって中途半端だ。
それにプロポーズした以上、未夢を守っていく、と思ったら弱みなんて、見せられない・・・」
「あと、永くて4年ってお医者さん、言ってたよ・・・っ!彷徨・・・」

4年、か。1ヶ月前は5年って言ってたのに、いつの間にか進行してたんだな。
オレはぼーっとそんなことを考えていた。

「私・・・彷徨と絶対、別れない!結婚式、早く挙げよ?
そしたら彷徨のこと、看病するから。一緒に頑張ろう。だからお願い。
自分の身を殺すようなことだけはしないで・・・。無理しなくていいよ」
「・・・」
「彷徨が、心臓移植できなくて、たとえ4年経っていなくなっちゃったとしても。
せめて、それまでは、ずっと一緒にいたい。それくらい彷徨のこと、想ってるんだからっ!」

自分の心の鎖が取れた気がした。
そして一気に、心に安らぎが戻ってきた。
ずっと、オレと一緒にいてくれた未夢。
喧嘩ばかりしてきたけれど、1番オレのことを分かってくれている。
そんな未夢の言葉にオレは、いつも助けられていたんだ。
彼女の言葉は魔法のように、心に響く。
ありがとう、未夢・・・。

「ごめんな、未夢・・・。頑張るから」
「・・・うん・・・」




4年後、オレは元通りの生活に戻っていた。
あの未夢の言葉が無かったら。
オレはこうして人生を歩んではいなかっただろう。


何となく、だぁ!の小説書きたくなって番外編書いたら。
彷徨くんが病気!?
いや、最後にも書いたようにちゃんと治りますが。
何で、鬱展開はいるんでしょうね・・・。

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