春山のある日

(下)

作:山稜

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 …?
 なんともない…。

 ガサっ、ガサっ。
 となりで、音がする。

 そこでようやく、ソレが、はっきり見えた。

 ポテチの、ふくろ…に、鼻、つっこんで。
 かわいらしく、おしりをふって。

「な…なに…?」
 彷徨がゆっくり、近づいて。
「クマ…か?」

 そういわれてみれば、そんな感じ。

「子熊…かな…?」
「そうみたいだな…」
「おなか、すいてんのかな?」
「ん…」

 リュック、あける。
 えーと…あった。

「これ、あげちゃダメかな?」
 クリームはさんだ、ウェハース。
「クマはなんだって食うだろーけど…」

 それだけ聞けばじゅーぶんっ。

「ほ〜らクマちゃんっ、おいしーよっ」

 そっと、置いてみた。

「両手で持ったよ、かわいーっ!」
「おまえ…無邪気だな…」


 なついちゃったみたい。
 わたしのひざの上で、彷徨の手からウェハース食べてる。
 ふふっ、って彷徨がわらうのが、ちょっといいな。

「クマってこんなにかわいーんだ…」
「でも…こんなトコ、クマなんて出るってきーたことないけどな…」
「最近は山にエサになるよーなものがないから…とか、ニュースで言ってたよ?」
「いや…この山、サルやうさぎはいるけど、クマがいるよーな山じゃないはずなんだ」

 そういえば、前にきたときにガケから落ちたの、サルのせいだったっけ。

「でも、じゃなんでここにこの子はいるの?」
「…ホントにエサに困って、山をわたり歩いてきてはぐれたか…そうじゃなきゃ、だれかが、すてたか…」

 すてた…。
 そんなの、いやだ。

「でも、猛獣だからな…すてるようなことになるより前に、」
「はぐれてきたんだよ、きっとっ!」
「未夢…」
「どっかでこの子の親、この子をさがしてるんだよっ!きっとそーだよっ!」
「おちつけ、未夢っ」

 彷徨が、肩をそっとつかんだ。
「…ゴメン」
「いーけど…でも」

 片手を、くまちゃんの頭にもってった。
「こいつの親もさがしてんなら、きっと気が立ってる…だったら、かなり危ないとおもう」
 首すじにむかって、そっとなでた。
「そっと帰してやったほーが、いーんじゃないのか?」

「でも…」
 きゅ、っと、しめつけられた。
「はやく…かえしてあげたいの…」

 ずっと、思ってた。

「ルゥくんのときには、待ってるしかできなかったんだもの…だから」

「未夢…」
 きっと彷徨も、おなじこと、思い出してるとおもった。
 ルゥくんの、笑顔。
 ルゥくんの、声。

 マンマッ、パンパッ、…


 くぅん、と、くまちゃんが鳴いた。


 彷徨が、ため息をついた。
「わかったよ…」
 すこしだけ、わらった。

 そのとき。

 ガサっ、ガサガサガサガサっ。
 音のほう、またあの桜の木のかげ。
 …じゃない、木がゆれてる。

 …じゃない、木がうごいてる!

 桜の木はぎこちなく、ゆっくり向かってきた。
 あまりのことに、声が出ない。

 じっと見てたら、くまちゃんが向かってく。
「だっ、だめよくまちゃんっ!」
「おっ、おいっ!」

 きーてない。
 まっすぐ、突進して…
 木の根元に、ほおずりしてるっ!?

≪ありがとう≫

 へっ?
「おまえ、なんか言ったか?」
「ううん、わたしじゃない…」

≪ありがとう≫

 まただ。
「だれだ…っ?」
 彷徨がさけんだ。

≪すいませんが…このボタンを≫

 枝の上から、コロン。
 わたしの、足もとへ。

 手を出す。
 彷徨がとめた。

「って言われても…アンタ、何なんだ?」

 桜の木が、ざわっとゆれた。
≪あ、ごめんなさいね…説明しないとわからないですね≫

 それからわたしたちは、いろんなことを聞いた。
 くまちゃんと桜の木は、ホントはハルヤマ星から来た宇宙人。
 最近体調がよくないので、地球の温泉で療養することにして。
 宇宙人が地球に来るときには、現地のものの姿になるのが決まり。

 彷徨が腕を組んだ。
「…現地のもの、が、なんでまた子熊と桜の木なんですか」
≪かわいいのと、きれいなのを選んだらそうなっちゃって≫
「そーじゃなくて…なんで人間の姿にしなかったんですか?」
≪え?だって『(モノ)』って、パンフレットに書いてあって…人じゃダメなんだと…≫
「モノの意味がちがーうっ!」

 あんがいママさん、おっちょこちょい…?


「ありがとう、たすかりました」
「現地人の姿になってればいいって、シャラク星の友人が言ってましたよ」

 もとにもどったママさんは、だれかによくにてる。

「マーマぁ、おなかすいたぁ」
 くまちゃんだった子が、ママさんの服のすそをひく。
「この子ったらもう…」

 彷徨が、じっと見てる。
 …そうだ。
 彷徨のママのような、ワンニャーの変身後のような…。

「あっあのっ」
「はい?」
「温泉、はいりに地球にきたんですよね?」
「そうですけど…」
「このあたりでも温泉、出るんですけど、なんだったらいっしょにっ」

 ひじ、とられた。
「おい、未夢…」
「だって、彷徨…」
「だってじゃねーよ、ほっててもさっきから出ねーんだから、めーわくだろっ」

 ママさんが、ほほえんだ。
「そうですね、じゃお言葉にあまえて…」
 ポン、と音がする。
 ママさんが、水着姿。

「あっ、でも…」
「だいじょーぶよ」
 そういうとママさんは、子どもクンをよんだ。
「なに、ママ?」
「温泉はどこ?」
「えーとねぇ…」

 4、5歩、あるいて。
「ここ、かな?」

 首をかしげながら、彷徨がほってみた。
 ぷしゅ。
 そんな音といっしょに、みるみるお湯がわいてくる。

「ハルヤマ星の子どもは、みんな温泉をほりあてる能力があるの」

 は〜そ〜ですか。


 ともあれ、無事にみんなで入って。
 子どもクン、彷徨とはしゃいだりなんかして。
 お礼を言って、帰っていった。

 わたしと彷徨は、そのまま入って。
 日が暮れかけて。
 ふたりっきりで。

 …こんなカッコで。
 やっ、なんか急にはずかしくなってきた。

「だいじょーぶか?」
 ここで妙なことを言ってしまったら、またなに、言われたもんだか。
「だっ、だいじょーぶ、だいじょーぶ」
「のぼせたんじゃないのか?」
「へーき、へーきっ」

 すこし、彷徨はだまってた。
 それから。

「なぁ…未夢」
「へ?」
「ルゥとワンニャーが帰ってきたら…また、来ような」
「…うん」

 西の空に、いちばん星が出て。
 その向こうに、ルゥくんとワンニャーが見えた気がして。





「で、けっきょく…のぼせたわけか…」
「…ゴメン」
 山を降りてく道すがら、彷徨の背中はあったかかった。


う〜ん、最後が何言いたいのかわからなくなってしまってますな(^^;
彷徨に親孝行させてあげようと思ってたんですけどね、なんだかうまく書けませんでした。
いずれ手直しをしたいと思います(汗)

このときの企画はプロット競作でした。同じプロットを基にして、どんな話ができあがってくるかということを楽しんだわけですが、書くとなるともう決めたことから外さないというのは案外むずかしいですね。いつもは、書いてるうちにいいアイデアがあったらプロット曲げちゃったりするんですけど(^^;

みなさんの作品はいろいろ考えられてて、楽しい企画でした。企画終了後も、書棚・ギャラリーで公開されてる作品も多いですから、さがしてみては?(^^)

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