作:山稜
ヴァリエッタ、という名前。
つけられた車は、そう多くはない。
売れたクルマじゃ、ないらしい。
言ってみれば「レア」か?
そういうのをこのんで買うのは、誰ぞの影響なんだろーか。
しかしなにより、この名前が好きだった。
ロードスター。
コンヴァーチブル。
スパイダー。
そんな無骨なのじゃあ、ない。
ヴァリエッタ。
かわいーじゃないか。
「クリスティーヌ」には、およばないとしても。
その娘を降ろして、ひとり。
わきに寄せて、屋根をとじる。
消されていく空を、見上げた。
半分、欠けた月。
屋根に、はさまっていく。
光っている方が、きっと、きみ。
しばしの、わかれ。
のこり半分、満たして帰るから…。
ぜんぶ閉まったときだった。
イトコになる子の、メールがとどいたのは。
◇
その手は、すりぬけてゆく。
近づいたと思ったのに、遠ざかる。
いま離れたら、だめだ…。
なんでだよ、と思うより先、からだ。
下へ、すべりこむ。
どさっと、たおれこむ前に。
背中に、彼女をうけとめて。
すぐ横、彷徨がとんできて。
「三太っ!」
「か…彷徨ぁ…」
「だいじょうぶか…?」
「こ…」
「なんだ、しっかりしろ三太!」
「…こーゆーのってよぉ、映画とかじゃかっこいーけど、痛てぇもんだなぁ」
「…言ってろ」
彷徨は彼女を、すこし起こした。
肩を落として、そう言いながら。
体を起こすと、彷徨が呼んだ。
「ほら」
彼女の肩を、さしだして。
ちょっと、心臓がはねた。
「いつまでおれに、ささえさせんだ?」
かたっぽ、まゆ毛をひっぱりあげて。
クチもと、はしっこひっぱりあげて。
「わりぃ」
とだけ言って、そっと受けとる。
…ちからがない。
耳もとで呼んでみる。
「キョウコちゃん?」
何度か、やってみる。
反応は、ぜんぜんない。
「…まずいな」
彷徨がぽつり、つぶやいた。
ポケットの中、重くなった。
もう…これっきゃ、ねーな…っ。
手をつっこむ。
指輪型の、治療器。
夜星の、声がする。
《副作用で、心がうつっちゃったときからの記憶がなくなることがあるんだ》
記憶、か…。
《サンタさんっ!》
《きて、くれたんだね》
「サンタクロースは…」
いくつかのゆび、ためしてみて。
するっとぴったり、はまるトコ。
そこでなきゃやだ、って、ゆびが言ってる。
「大人になりゃぁ、忘れられちまうって相場が決まってるもんさ…」
そおっと、押し込む…。
ほわっと、指輪が光った。
彼女の顔が、ゆるんだ気がする。
ほっぺた、やわらかそうで。
そっと、ゆびでなぞった。
彷徨の声には、かまわずに。
「あぁ…うん、いっしょだ…もうひとり、い…ちがうちがう、未夢じゃない…」
やつはちょっと、離れたっぽい。
声がすこし、遠くにきこえる。
「なんだ、すぐそばじゃ…あぁ、来てる…車なのか?ちょうどいい、…」
ちょうど…いい。
少しだけ、こう、させててくれ…。
◇
車のドアが、ばたんと閉まる。
姿が出るのを目にするだけで、空気の密度が上がる気がする。
…はやいハナシが、ヘンに「濃い」んだよな、コイツ…。
「彷徨くん」
ヤツは三太をちらっと見ると、小声でそおっと尋ねてきた。
「客人は、女性かい?」
「…いきなり、それか?」
「…何がいーたいんだい」
「べつに」
けげんそうな顔。
同じ顔で、返す。
「…おれがおまえだったら、花小町がこわいだろうと思ってな」
「こわい?」
望は目をいっぱいにあけた。
「きみは未夢っちがこわいのかい?」
「んなわけねーだろっ」
「おんなじことさ、ぼくはクリスはこわくない」
すこしずつ、足を運んだ。
「ただ…彼女に、よけいなことを考えさせたくないだけさ」
そばまで行くと、のぞきこむ。
「だから…協力するけど、」
さぁ、と助手席を、さししめす。
「髪の毛1本、のこさないでくれよ…このクルマ、気に入ってるんだからね」
「ん?」
「買いかえたくない、ってことさ」
なんと言っていいやら。
わらおうにも、クチもと、引きつる。
三太が顔を上げた。
「あぁ…望ぅ」
「くわしーこと、ぜんぜんきーてないんだけど…このコが?」
「あぁ…」
「ふーん…」
目をさましそうに、ない。
というよりは、おちついてる。
安心しきって…。
「とにかく、まずのせてやれよ」
「あ…あぁ、そーだなぁ…」
「それもそーだねぇ、そーしよう」
抱きかかえて、三太が立つ。
手伝おうか、の代わりの手。
目もとでわらって、返されて。
そうだろうなと、うなずいて。
助手席に、ちょこんとおさまる。
「超アイドル」と言われるコ。
子どもみたいな、寝顔をしてる。
ふ、と、息がもれた。
…未夢、みたいだな。
こうしてみると、フツーの娘だ。
運転席が、まだ空いてる。
望がどうぞと、手をのばす。
「きみが運転したほうが、いいんじゃないのかい?」
三太がいいやと、手をよこにふる。
「そうしたいトコなんだけどさぁ…」
ミョーな沈黙。
その先を、ちゃんと言えって。
顔がそう言ってたのか、三太は苦笑いをした。
「おれ、クルマの免許、もってねーんだ」
は?
「おまっ…大型二輪までもってて、なんでそんなとこだけっ!」
「だってよぉっ、大型とったらカネなくなっちまったんだよぉっ!」
こいつらしいといえば、こいつらしいのだけれども…。
頭を抱えざるをえず。
「…とにかく、送っていこう」
「どこまで行けばいいんだい?」
さっさと望は、運転席で。
要領がいいのか、単に深くなやんでないのか。
こいつがそーなら、わり切るべきか。
「自宅につれてく、って、ももかちゃんからマネージャーさんに伝えてもらってる」
「場所は?」
「カーナビ、入れるかぁ?」
三太がケータイの画像を見せる。
「このあたりなら、入れるまでもないね」
望がわらってみせた。
三太が親指をたてた。
「一応、バイクで先導するからなっ」
かぶりかけのメット、おとしかけ。
「って運転すんの、おれじゃん…」
半年…以上ですか(汗)
いや〜、書き味わすれてますね〜(^^;
あんまり久しぶりに書くんで、どんな話の流れか最初から読み直しました(笑)
ようやく望登場。今回はわりとマジメな彼です。あんまりハジけてないので、書いててちとおもしろみに欠けますな(^^;しかたないとはいえ、オトコノコしか出てこないし…書きにくい書きにくい(汗)
はやくキョウコを動かしたいし、未夢もクリスも書いてやりたいんですが…もうちょっと、先か?(A^^;