まい・おうん・さんたくろーす

#13

作:山稜

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 ヴァリエッタ、という名前。
 つけられた車は、そう多くはない。

 売れたクルマじゃ、ないらしい。
 言ってみれば「レア」か?
 そういうのをこのんで買うのは、誰ぞの影響なんだろーか。

 しかしなにより、この名前が好きだった。
 ロードスター。
 コンヴァーチブル。
 スパイダー。
 そんな無骨なのじゃあ、ない。

 ヴァリエッタ。
 かわいーじゃないか。
 「クリスティーヌ」には、およばないとしても。

 その娘を降ろして、ひとり。
 わきに寄せて、屋根をとじる。
 消されていく空を、見上げた。

 半分、欠けた月。
 屋根に、はさまっていく。
 光っている方が、きっと、きみ。

 しばしの、わかれ。
 のこり半分、満たして帰るから…。

 ぜんぶ閉まったときだった。
 イトコになる子の、メールがとどいたのは。



 その手は、すりぬけてゆく。
 近づいたと思ったのに、遠ざかる。

 いま離れたら、だめだ…。

 なんでだよ、と思うより先、からだ。
 下へ、すべりこむ。
 どさっと、たおれこむ前に。

 背中に、彼女をうけとめて。
 すぐ横、彷徨がとんできて。

「三太っ!」
「か…彷徨ぁ…」
「だいじょうぶか…?」
「こ…」
「なんだ、しっかりしろ三太!」

「…こーゆーのってよぉ、映画とかじゃかっこいーけど、痛てぇもんだなぁ」
「…言ってろ」

 彷徨は彼女を、すこし起こした。
 肩を落として、そう言いながら。

 体を起こすと、彷徨が呼んだ。
「ほら」
 彼女の肩を、さしだして。

 ちょっと、心臓がはねた。

「いつまでおれに、ささえさせんだ?」
 かたっぽ、まゆ毛をひっぱりあげて。
 クチもと、はしっこひっぱりあげて。

「わりぃ」
 とだけ言って、そっと受けとる。

 …ちからがない。

 耳もとで呼んでみる。
「キョウコちゃん?」
 何度か、やってみる。
 反応は、ぜんぜんない。

「…まずいな」
 彷徨がぽつり、つぶやいた。
 ポケットの中、重くなった。

 もう…これっきゃ、ねーな…っ。

 手をつっこむ。
 指輪型の、治療器。

 夜星の、声がする。
《副作用で、心がうつっちゃったときからの記憶がなくなることがあるんだ》

 記憶、か…。

《サンタさんっ!》
《きて、くれたんだね》

「サンタクロースは…」

 いくつかのゆび、ためしてみて。
 するっとぴったり、はまるトコ。
 そこでなきゃやだ、って、ゆびが言ってる。

「大人になりゃぁ、忘れられちまうって相場が決まってるもんさ…」

 そおっと、押し込む…。
 ほわっと、指輪が光った。

 彼女の顔が、ゆるんだ気がする。
 ほっぺた、やわらかそうで。
 そっと、ゆびでなぞった。
 彷徨の声には、かまわずに。

「あぁ…うん、いっしょだ…もうひとり、い…ちがうちがう、未夢じゃない…」

 やつはちょっと、離れたっぽい。
 声がすこし、遠くにきこえる。

「なんだ、すぐそばじゃ…あぁ、来てる…車なのか?ちょうどいい、…」

 ちょうど…いい。
 少しだけ、こう、させててくれ…。



 車のドアが、ばたんと閉まる。
 姿が出るのを目にするだけで、空気の密度が上がる気がする。
 …はやいハナシが、ヘンに「濃い」んだよな、コイツ…。

「彷徨くん」

 ヤツは三太をちらっと見ると、小声でそおっと尋ねてきた。

「客人は、女性かい?」
「…いきなり、それか?」
「…何がいーたいんだい」
「べつに」

 けげんそうな顔。
 同じ顔で、返す。

「…おれがおまえだったら、花小町がこわいだろうと思ってな」
「こわい?」

 望は目をいっぱいにあけた。

「きみは未夢っちがこわいのかい?」
「んなわけねーだろっ」
「おんなじことさ、ぼくはクリスはこわくない」

 すこしずつ、足を運んだ。

「ただ…彼女に、よけいなことを考えさせたくないだけさ」

 そばまで行くと、のぞきこむ。
「だから…協力するけど、」
 さぁ、と助手席を、さししめす。
「髪の毛1本、のこさないでくれよ…このクルマ、気に入ってるんだからね」
「ん?」
「買いかえたくない、ってことさ」

 なんと言っていいやら。
 わらおうにも、クチもと、引きつる。

 三太が顔を上げた。
「あぁ…望ぅ」
「くわしーこと、ぜんぜんきーてないんだけど…このコが?」
「あぁ…」
「ふーん…」

 目をさましそうに、ない。
 というよりは、おちついてる。
 安心しきって…。

「とにかく、まずのせてやれよ」
「あ…あぁ、そーだなぁ…」
「それもそーだねぇ、そーしよう」

 抱きかかえて、三太が立つ。
 手伝おうか、の代わりの手。
 目もとでわらって、返されて。
 そうだろうなと、うなずいて。

 助手席に、ちょこんとおさまる。
 「超アイドル」と言われるコ。
 子どもみたいな、寝顔をしてる。

 ふ、と、息がもれた。
 …未夢、みたいだな。
 こうしてみると、フツーの娘だ。

 運転席が、まだ空いてる。
 望がどうぞと、手をのばす。
「きみが運転したほうが、いいんじゃないのかい?」
 三太がいいやと、手をよこにふる。
「そうしたいトコなんだけどさぁ…」

 ミョーな沈黙。
 その先を、ちゃんと言えって。

 顔がそう言ってたのか、三太は苦笑いをした。

「おれ、クルマの免許、もってねーんだ」

 は?

「おまっ…大型二輪までもってて、なんでそんなとこだけっ!」
「だってよぉっ、大型とったらカネなくなっちまったんだよぉっ!」

 こいつらしいといえば、こいつらしいのだけれども…。
 頭を抱えざるをえず。

「…とにかく、送っていこう」
「どこまで行けばいいんだい?」

 さっさと望は、運転席で。
 要領がいいのか、単に深くなやんでないのか。
 こいつがそーなら、わり切るべきか。

「自宅につれてく、って、ももかちゃんからマネージャーさんに伝えてもらってる」
「場所は?」
「カーナビ、入れるかぁ?」
 三太がケータイの画像を見せる。
「このあたりなら、入れるまでもないね」

 望がわらってみせた。
 三太が親指をたてた。

「一応、バイクで先導するからなっ」

 かぶりかけのメット、おとしかけ。
「って運転すんの、おれじゃん…」


半年…以上ですか(汗)
いや〜、書き味わすれてますね〜(^^;
あんまり久しぶりに書くんで、どんな話の流れか最初から読み直しました(笑)

ようやく望登場。今回はわりとマジメな彼です。あんまりハジけてないので、書いててちとおもしろみに欠けますな(^^;しかたないとはいえ、オトコノコしか出てこないし…書きにくい書きにくい(汗)
はやくキョウコを動かしたいし、未夢もクリスも書いてやりたいんですが…もうちょっと、先か?(A^^;

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