作:山稜
「しかたないでしょ」
いつもそんなふうに、言われてた。
仕事だから、大切な仕事だから…。
そう、いつも、いつも。
「あなたのママはきのう、宇宙飛行士に選ばれちゃったんだからっっ」
え…?
あたしのママは、そんなひとじゃ…。
あぁ、またこの夢なの…。
ヘンな夢なのよね、妙にリアルで…。
こんな話、演るんだったっけ。
お仕事なんて、わすれたいのに。
でも…あたしも、ひとりぼっち。
ずっと、ずっと…。
「マンマっ」
赤ちゃん…。
だっこしてほしいのね。
パパもいて、あったかい家庭…。
この夢のコみたいに、あったかい家族なんて、ない…。
あまえてくれる小さなコも、見まもってくれるひとも、いない…。
遊園地で交わした言葉が、頭をよぎる。
≪パパ…行っちゃ、やだよ…≫
≪ママと話し合って決めたんだよ…ごめんな…≫
それきりパパとは、会ってない。
誰も、あたしの笑顔しか、知らない…。
笑顔しか、見せちゃいけない―…。
あたしはこんなに、かなしいのに―
「おれたち…たよりないけど、協力できることがあったらなんでもするぜ?」
…ホント?
ホントに?
…だめよ、このひとはこの夢のコの友だちなんだから…。
あたしの友だちじゃ、ない…。
あたしにはホントに友だちって言える人なんて、いない…。
≪お高くとまっちゃって、さ≫
そんな風に、思われてたなんて。
…笑顔の男のコが、手をさしのべてる。
わかってる。
これは夢。
わかってるけど…。
できることなら、助けて…あたしを…。
目覚ましの音が、けたたましい。
チェックアウトの時刻は、もうすぐだった。
ちょっとあわてて、起き上がって。
カーテンをあけた。
真っ青にすんだ空を見て、ため息が出た。
きょうは…どこ、行こう…。