作:山稜
あらためて読むと「はずかし〜!」のひとことに尽きますね(^^;
そのうちちゃんと読めるものに書きかえる気ではいますが、とりあえず辛抱してお読みください…
「行っちゃったね―…」
「ああ…」
星空を見上げて、未夢と彷徨は言葉を交わした。
その一言だけで、何もかも伝わる気がする。
よく考えてみれば、1年も経っていないのだ。
両親の渡米、頼る身内の無い未夢が、母の亡くなった親友の嫁ぎ先にやってきてから。
そして、その親友の息子とのギクシャクを、やってきた宇宙人の赤ちゃんに救われてから―。
なのに、もう何年も一緒だったような気がする。
いくつもの季節を、一緒に過ごした気がする。
いや、本当に過ごしたのかもしれない。
時空のひずみとか、ルゥの超能力とか―過去の時代に行ったこともあるし、時空のはざまに閉じ込められそうになったこともある。絵本の中に入ったこともあるくらいだから、ひょっとすると本当に同じ年を何回も過ごしたのかもしれない。
でも、それならそれでいい。
最初は戸惑いもあったけど、4人で過ごした日々は、本当に淋しくなかった。
本当の家族のように、暖かかった。
―4人だったから?
だれでもよかった?
そうじゃないことは、よくわかっていた。
ルゥだったから、ワンニャーだったから、
そして何より、…彷徨だったから。
わかってくれた。
わたしはずっと、彷徨ってわからなくって、いつからか、わかりたくて、わかりたくて、しかたがなくなった。
でもそれ以上に、彷徨はわたしをわかってくれて…
わかりたくねーよ、って顔をしながら、わかってくれて。
一言だけで、何もかも伝わる気がする。
もう、こんなにも、わかりあえる…
「おいおい、いつまでも見上げてたって、ルゥ君とワンニャーは帰ってこないぜ」
三太に声をかけられて、未夢はふと我に帰った。
三太くんって、趣味のことになるとちょっと扱いにくくなるけど、いつもは飄々としてて、こんな時には真っ先に力を貸してくれる、気持ちのいい人だよね…
あまり人付き合いの良くない彷徨が、幼い頃からいつも一緒に遊んでいる理由が、未夢にはわかるような気がした。
「そうだよ〜、みゆみゆ」
言うが早いか、望が薔薇を片手に未夢のすぐ隣にやってきた。
光ヶ丘くんって、いろいろと問題もあるけど、ある意味で場の雰囲気を和やかにしてくれるよね。器用なように見えて、実はそれがまじめに受け取られてなくて、結局不器用なんだ。そういう意味じゃ、彷徨と似てるのかもしれない…彷徨なんてぶっきらぼうだけど、なんだかんだ言って学校じゃいつも一緒にワイワイやってるし、結構気が合ってるんじゃないのかな?
そんなふうに未夢が考えているのには関係なく、
「夜風は美しい肌の大敵さ…君の美しさが、少しでも損なわれたら、宇宙的な損失じゃないか」
言葉とともに、未夢の手を取ろうと手を伸ばす。
しかし、その試みは成功しなかった。
その手を弾く者がいたからだ。
「なにをするんだい〜、西遠寺君」
望は自分の手をはたいた張本人に向き直った。彷徨は顔をあさっての方向に向けて、知らん顔をしている。
「せっかく僕がみゆみゆのことを気遣って…」望の目はふと彷徨の手に行った。
望の目には意外なものが入った。はたいた手と反対の右手は、未夢の手をつかんでいるではないか。
「…ふぅん、西遠寺君もここって時にはしっかりしてるじゃないか」冷やかすような口ぶりの後、望は付け加えた。「さすがは僕のライバルだねっ」
当の本人達は、ひととおり言われてからあることに気がついた。
慌てて手を離した。
が、すでに遅かった。
自分達の言行に注意しておかなければならない人物は、すでに目の色が変わってしまっていたのだ。
「…西遠寺君と未夢ちゃんが手をつないでる…私達が見ていない間に…手を取り合ってる…
…ルゥ君、帰っちゃうね、淋しくなるね…
…ばかだなぁ未夢、おれがいるだろ…
…そうね、これからはふたりっきりだもんね、彷徨…
…そうだよ未夢、これからはずうっと二人きりでいよう…
そしてそのままふたりは結婚して、ルゥくんのようなかわいらしい赤ちゃんが―
っなんて…いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜※&£¢&♀∞∴¥$◇○☆!!!!!」
「クっ、クリスちゃん!」
未夢はできるだけはやく言葉を見つけてクリスを止めようとする。
「そっ、そんなことないって!絶対ないって!」
しかし効き目はない。西遠寺の境内からは、まさに一本の木が引き抜かれようとしていた。
「だっだっだっだから、そう、何だったら、もう遅いし、今夜みんな泊ま…」
そこまで言ったとき、さえぎる声がした。
「クリスおねえたん、ももか、もう…かえる」
あどけない幼児の、聞いたことも無いような哀愁に満ちた声は、クリスの暴走した思考回路をリセットするのには十分すぎた。
「あ…あぁ、そうでしたわね…」
生まれて初めて大好きになった男の子。
その子が、遠い宇宙の彼方へ帰っていった。
同じ星の上ならまだ会えるかもしれない。でも、もう…
3歳の幼児が抱えるのには充分すぎる悲しみ。
それを誰もがわかっていた。
誰もが、その思いに目を伏せた。
クリスは思い切った。
「ももかちゃん、送っていきますわ」
クリスの言葉には、従姉妹だからという責任感よりは、恋する女の子の気遣いがこもっているのが、未夢にはわかった。
クリスちゃんって、やっぱりやさしいよね…普通に考えたら、ももかちゃんのことなら、お兄さんの栗太くんに迎えに来てもらったって別に構わないのに、そばにいてあげたいんだね…。
彷徨のことになると見境がつかなくなるけど、それ以外はすっごくいい子だよぉ…変にお嬢様ぶった嫌なところも無いし、お料理だって上手だし、第一きれいな顔立ちだし…。
彷徨ももったいないことするよねぇ…なんて、わたしが言うことじゃないか、あはは。
そんなことを未夢が考えていると、望の声がした。
「あ、僕もお供しよう。こんなに美しい女の子たちだけでは、この夜更けには危険すぎるからね」
間髪入れずに三太が返す。
「ばか言ってんじゃねーよ、一番危なそうなのはお前だろ」
居合わせた全員に笑みが戻る。
ももかを抱きかかえながら望が反論をしているが、三太はそれを肩先の三輪車ではね返していた。
ひとり気をはく望におかまいなく、三太は彷徨と未夢に向かった。
「じゃぁ、また明日学校で」
それを合図に、4人は西遠寺の石段を降り始めた。
「うわっ、明日学校だった…疲れた顔をして女の子達に会うわけにはいかないよ…なんとか休みにならないかなぁ」
「お前がバラで学校埋め尽くしたら、休みになるかもな」
「そんなもったいない…美しい薔薇は、美しい女性にのみ与えられるものだよ。さぁ、花小町さん」
「まぁっ、…でも西遠寺くんの目の前で」
「もう彷徨の見えるところじゃないし、いいじゃんもらっとけば?」…
わいわい言いながら帰っていくのを耳にしながら、未夢は思った。
みんながいてくれなかったら、どうなっていたんだろ。
みんながいてくれてよかった、本当に…
みんなと友達になれてよかった…。