エピソード

作:時間





あっと言う間にこの季節。


卒業の季節は早いものだね、と。






「未夢。何してんだ?」
「ん?卒業の色紙。先生にあげようってななみちゃんたちと計画したの」



二つ折の色紙の用紙に、カラーマジック。
机の上に散乱していた。
部屋全体の電気はつけずに、真上の電球だけが光を放っていた。



「部屋の電気つけろよ。目悪くするぞ」


彷徨のささやかな優しさ。
それが、未夢には嬉しかった。


「ううん。大丈夫!ほら、ルゥ君とワンニャー寝ちゃったし、起こしちゃ悪いし」


今は夜10時ごろ。
ワンニャーは普通起きているが、ルゥにつられ寝てしまったとか。


「でも、こんな夜中まで。…手伝おうか?」


未夢は目を見開いた。
彷徨がこんなことを言うとは思わなかったからだ。


「彷徨がこんなこと言うなんてめずらしいね。ありがとう。色塗りだけだから、ちょっと手伝ってくれるだけでいいよ」

「あぁ」


向き合い座る。
未夢は、色紙を彷徨の方に置いた。


「いいよ。未夢、届かないだろ?」
「あ…、うん」


彷徨が未夢の方に寄せた。




一つの灯りの下、2人はカラーマジックを握っている。



「彷徨がこんなに優しいなんて、めずらしいね」
未夢が口を開いた。


「まぁ、彷徨は元から優しいんだけどね。なかなか日常には出さないから…」
「そうか…?」


だんだんと色が付いてきた。
絵が動き出しそうになる。


「出来た!!さっすが、彷徨!!丁寧に塗れてる!!!」
「未夢も、いつもよりは塗れてるんじゃないか?」
「それは嫌味ですか?彷徨さん」


彷徨が椅子をたった。
「彷徨!?」
「なんか飲み物入れるよ」
「…。あり…がと…」



いつもとちょっと違う彷徨。
優しくてやさしくて優しくて。



「ありがとうな。未夢」



「え?」




カップにお湯を入れながら、彷徨は言う。



「俺、ちゃんと笑える」
「彷徨…?」





「離れても…ちゃんと笑える…」





彷徨の手が止まる。
未夢の心臓の鼓動が早くなる。





「卒業したら、お前、いなくなるから。でも、大丈夫だって、お前に力をもらえた」




未夢は呼吸が止まりそうだった。


さんざん足手まといで、迷惑ばかりかけてた。

そんな自分が彼の支えになっていた。




「お前に会えて、よかった。感謝してる」


「…。私だって…。彷徨から元気もらってたよ」



うつむいていた彷徨が未夢を見る。


「そばにいるだけで暖かくて、本当の家族みたいで。私にとって彷徨はトクベツだもん」




未夢の眼からは涙がおちていた。
すごく嬉しそうな顔をしながら。



「彷徨…。いつまでも笑ってて…」

「あぁ」

「無理しないでね」

「あぁ」

「何かあったら…連絡いれてね」

「お前もな」





そんな2人を見ていたのは
  空に浮かぶ月だけ


人に感謝するって
  幸せな事だって







エガオハ,シアワセノアカシ アイジョウノアカシ エイエンノチカラ




ちょっと設定がちがいますね。

季節的にあわしてみました。
ちょっと不要なエピソードもありますけど、許してください。

ご愛読いただきありがとうございます。


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