作:英未
ふぁ…とあくびをして、リョーマは起き上がった。
そろそろ試合時間だろう。
そういえば、次の対戦相手はどこだっけ? ま、どこだっていいけどね。
「ん?」
いつの間にかポンタが置いてある。自分が買ったものではない……はず。
よく見ると、なにやらメモも置いてある。
『全国行きおめでとう。準決勝がんばって』
「……誰?」
名前が書いてないから分からない。
が、
(竜崎?)
なんとなく、そんな気がした。
竜崎桜乃。
同じ青学の一年生。
初めて会ったとき、道を訊いたら逆方向を教えられた。しかしそれは彼女の勘違いで、悪気があったわけではないようだが。でも、そのせいで試合には遅刻。当然失格。その後のことも、彼女のドジっぷりを認識するには充分だった。
そんな彼女が中学に入学してからテニスを始めたらしく、南次郎の代わりに教える羽目になったこともある。なんでまたテニスを…と思わないでもない。なんというか、彼女の場合、テニスのセンスがどうのと言うより、ハッキリ言って運動音痴。でも、やる気があるのは認める。そういうのは嫌いじゃない。
軽くため息をついて、リョーマは口を開いた。
「まだまだだね」
名前も書かずに差し入れとは、相変わらずドジな奴。
とはいえ、本当に彼女からの差し入れなのかどうかは分からないが……多分そうだろう。あの時と同じ感じがするから。
『あのね、さっき聞いたの。試合だって。私… 応援してるから』
仮入部の自分がランキング戦に参加できると決まったとき、桜乃がこう言った。
心からそう言ってくれたのだと分かったから、なんだかくすぐったかったし、少し心が温かくなった。そして、それは今も同じ……
「じゃあ、そろそろ行こうかな」
関東大会準決勝。全国まで負ける気はない。いや、全国でも負けないけどね。
ポンタを飲んで、充電完了。
差し入れのお礼は、試合に勝つことでいいよね?
にやっと笑って、リョーマは歩き出した。
その先には、まだ見ぬ世界のような、青い空が広がっていた。
【あとがき】
書いている途中で別の話に変わっていたこの話。何故なんでしょう。気付いたら、手塚VS跡部戦をノベライズしていましたよ、私は…(汗) あわてて修正かけましたが、結局消化不良な話になってしまいました。とほほ。「まだまだだね」ってにやりと笑う生意気なルーキーの顔が浮かんできますよ(ーー;)
ついでに言うと、リョーマ、六角戦には出ておりません。ダブルス2試合とシングルス3で決勝進出が決まったからね。なのに、必死でリョーマの対戦相手を思い出そうとしていた私って、やっぱり天然なんだろうか……
「テニスの王子様」#tp-s003西遠寺英未(2005.6.13)