シンデレラをとどめておく方法

作:英未


作品の整理をしていたら見つけました。公開していなかったんだね。
でも、読み返すのも恥ずかしいので公開せずにそっとしておこうかと思いましたが…

全然「だぁ!」の小説を書いていないし、思い切って公開しようと。

そしてきっと後悔するのね(^^;


目の前にいるオレのシンデレラは、明日の夕方には姿を消してしまう。
絵本の中のシンデレラは、夜中の12時がタイムリミットで、12時の鐘が鳴り終わるまでに姿を消してしまった。
それに比べれば、このシンデレラはのん気なもんだけど、姿を消すことに変わりはない。

―――夜も更けて、刻一刻と12時に近づいていく。

「それでね、彷徨、・・・」

シンデレラは楽しげに近況報告をしてくれる。
受話器越しじゃない未夢の声。
しぐさも表情も、なんら変わりはないように見えるけど、どこか変わったようにも思う。
時々、何気ないしぐさや表情に、ドキッとさせられることがあるのも、そのせいか?

「・・・彷徨、彷徨?」
「え?」
「どうしたの? ぼーっとして。あ、そうか、こんな時間なんだ。ごめんね、疲れたでしょ? もうやすもうか?」

・・・もうやすむって? 冗談じゃない。
12時の鐘が鳴りもしないうちに消えるシンデレラなんて、聞いたことがないぞ!

*****

「いや、眠たいわけじゃなくてさ・・・」
そう言いかけて、言葉に詰まった。
(未夢に見とれてただけ・・・って、言えるかそんなこと///)
照れくさくて視線をはずしてしまったけど、そんなことには鈍そうなシンデレラはおかまいなしだ。
とまどったような視線をぶつけてくる。
「無理して聞いてくれてるんじゃないの?」
心配そうに覗き込む未夢を目の当たりにしたら、さすがのオレも落ち着かない。

・・・どう伝えようか、どう言えば伝わるだろうか、
未夢に会うたびに悩んで、伝えられないまま未夢は消えてしまって、
オレはずっとシンデレラをとどめておく方法を探している。
現在(いま)、オレのそばに未夢がいるということが、どんなに幸せなことかを伝えたら、
消えないでいてくれるだろうか?

「彷徨? ねえ、彷徨?」

だけど、この鈍いシンデレラにちゃんと伝わる言葉を考えるのは、至難の業かもしれない。
たとえ伝わっても、子供のオレたちには成すすべもないってこともよく分かっているけど・・・。

「・・・バ〜カ、なんでもないって。おまえの考えすぎ。」
「ホントに〜? な〜んか遠い目をしてたよ〜。」
さっきまでの心配そうにしてた表情はどこへやら・・・。
こいつ、本当に表情がころころ変わるよな。
「さすがの彷徨さんにも、悩み事があるのかな〜?」
・・・めずらしく強気だ、こいつ。
「だから、なんでもないって。」
「うそ。人の話聞いてなかったくせに。
久しぶりに会って、嬉しくて、私喋ってばかりいたけど、彷徨はずっとうわの空だったじゃない!
 私、いつも彷徨に助けてもらってるから、彷徨がつらいときは、私だって力になりたいのに・・・。」
そう言われても、今のオレにはどうすることもできないことだから・・・。
「本当に、なんでもないって。」
「・・・そうやって、いつも本当の気持ち、隠しちゃうんだね。」
「しつこいな。本当になんでもないって言ってるだろ?」

・・・分かってる。
未夢は本当に心配してくれているだけだって分かってる。
でも、言い返されるたびにオレの力の無さを責められているようで、苛立ってくる自分が情けなかった。

「・・・でも、彷徨」
「しつこい女は嫌われるぞ。」
もう何も聞きたくなくて、未夢の言葉をさえぎった。
「・・・そんな言い方、しなくてもいいじゃないっ!」
それでも食い下がってくる未夢に、オレは苛立ちをおさえることが出来なかった。
「へ〜え、なぐさめてくれるんだ? もしかして、未夢、オレのこと好き? だからやさしくなぐさめようってわけ?」

―――未夢にこんな表情が出来たのかってくらい、硬い表情だった。
最低だよな、オレ。こんな言い方しなくたって・・・

「彷徨は・・・」
さすがに、未夢の反応は、いつもと違う・・・。
オレは多分未夢をにらむように見ていたんだろうけど、内心は絶望感でいっぱいだった。
きっと、シンデレラは姿を消してしまうだろう。しかも永久に・・・。

「彷徨は・・・」
オレは覚悟を決められずにいた。
それでも最後の審判は下される・・・。
「言いたいことがあっても、すぐごまかしちゃうんだね・・・。」
未夢の哀しげな表情に、オレは息を呑んだ。
「私、彷徨のことはちゃんと分かるんだから。」
だんだん、未夢の声が震えてくる。
「本当は、あんなふうに、言いたかったわけじゃないんでしょ?分かってるから、私、言ってくれるのを、ちゃんと・・・」
瞬間、思わず未夢を抱き寄せた。

*****

『――― 待ってたのに』

最後まで聞かなくても、未夢の言いたいことが痛いほど分かった。
シンデレラは、自分がとどまれる方法を知っている。
知っているから、オレが気づくのを待っている。
そして、オレも、本当はシンデレラをとどめておく方法に気づいてた。
何を言えばいいかも分かっていた。
言えなかったのは、まだ子供のオレたちにそんな力がないということが、分かりすぎるくらい分かっているから。
今はまだ、シンデレラをとどめておくことはできないけど、いつか・・・

「大丈夫。分かってる。」
「・・・未夢?」
「彷徨が何か言いたそうにしてること、分かってる。でも、それを言うには時間が要るってことも分かってる。」

・・・前言撤回、このシンデレラはなかなか鋭いかもしれない。

「でもねー、あの言い方はずるいんだから!
 あんなひどい言い方でも彷徨に言われたら、嫌いになりかけてても、やっぱり『好き』って言っちゃうじゃない!」

ぷぅと頬をふくらませる未夢がかわいい。
そんな表情をされると、余計に未夢の口から「好き」って言葉を聞きたくなる。
今度はイジワルじゃなく・・・。

「なあ、未夢、オレのこと『好き』?」

未夢の目を覗き込むと、真っ赤になってオレを軽くにらむ。
「もうっ、ズルイって言ってるのにっ!」
あ、ダメだ、自然とにやけてくるのが自分でも分かる。
感謝してる、未夢。
今なら素直になれるから、もう少し、甘えてもいいか?
「返事、まだ聞いてない。」
未夢は恥ずかしそうにうつむいている。
「・・・好き・・・だよ/////」
消え入りそうな声で答える未夢が、愛しくてたまらない。
「・・・オレも好きだよ、シンデレラ。」
未夢の眼が、何かを問うように向けられた。
そして、時計の方を見やると、にっこり笑ってこう言った。

「12時を過ぎても魔法が解けないシンデレラ?」

―――嬉しかった。
同じことを感じているようで、本当に嬉しかった。
考え込む必要はないのかもしれない。
素直に言えば、未夢にはちゃんと伝わるのかもしれない。
シンデレラを永遠にそばにとどめておく方法。
今はまだ無理だけど、いつか、きっと・・・。

「・・・いつか、ちゃんと聞かせてね?」

返事をする代わりに、笑って未夢を抱きしめた。
これは今精一杯のシンデレラをとどめておく方法・・・。
これが現在(いま)のオレに出来る、唯一の方法だから。







何故、女の子の気持ちではなく男の子の気持ちを書いてしまうのか…(笑)。
いくつかのイメージをつなげると、こんなストーリーが出来たのでした。
未夢は天然ですけどね、いざって時はしっかりしていると思うわけですよ。
一方彷徨は自律した子ですけど、母の目から見るとその辺が脆いところでして、
未夢という精神安定剤が必要かなという気がする。
彷徨どんなに未夢を必要としているかを感じていただけると幸いです。



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