天使が微笑んだ朝

作:英未



 人差し指を口に当て、未夢はそっとルゥに目配せした。

「マンマ?」

 大きな声を出してはいけないと悟ったのか、ルゥは小さな声で未夢を呼んだ。

「静かにね、ルゥくん」

 そう言って、未夢は彷徨に視線を移す。
 当の彷徨は「“あんたが主役!”黒須三太プロデュース・聖夜のハチャメチャ☆クリスマスパーティー・西遠寺編」でどっと疲れが出たのか、こたつで爆睡してしまっている。
 そんな彷徨を見ながら、未夢はくすっと笑った。

「この調子なら、ちょっとやそっとじゃ起きないかも」

「パ〜ンパ?」

 ちょん、とルゥが彷徨の頬をつついたが、彷徨は全く気付いていない。

「きゃ〜い」

 今度はむにゅっと彷徨の頬をつねったので、未夢があわててルゥを止めにかかる。

「ストップ、ルゥくん。彷徨が起きちゃうよ〜〜〜」

「パンパ?」

 そっと、ルゥは呼びかけながら彷徨の顔をのぞき込んでいたが、反応がないことを確かめると、未夢ににっこり向き直った。

「ルゥくん、パパは疲れてるから、ゆっくり寝かせてあげようね」

「あい」

 にっこり笑いあう二人に、背後からそ〜〜〜っと声がかかった。

「あの〜〜〜、未夢さん?」

「きゃっ、び、びっくりした。あ、起こしちゃった? ワンニャー」

「すみません。いつの間にか寝てしまっていて……」

 そう言いながら、ワンニャーは辺りを見回した。

「お部屋の片付け、明日でもよろしいでしょうか」

「そ、そうだよね。これを片付けるとなると……」

 未夢もつられて辺りを見回しながら、肩をすくめた。

 なぎ倒されたクリスマスツリー、転がっているジュースのペットボトル、あちこちに散らばった紙テープ、更には片手を挙げて喝采を浴びたポーズのまま眠る王子様姿の望、いやですわ〜〜〜のポーズで眠る聖母姿のクリス、びしっと人差し指をつき立てたまま眠るお姫様姿のももかちゃん、メモをしっかと握りしめ苦悶の表情で眠るトレーズ閣下姿の綾、グラス片手に派手な突っ込みポーズで眠るトナカイ姿のななみ、そして、突っ込まれた手の当たり所が悪かったのか、そのまま気を失って爆睡モードに入ったサンタ姿の三太……も、所狭しと転がっている。

「こうして見ると、仮装パーティーって、スゴイよね……」

 そういう未夢も、真っ白なワンピース姿に、ルゥとおそろいの天使の羽を背中につけている。そして、彷徨は、白いワイシャツに黒のタイ、黒のベストとスラックス。もちろん背中には悪魔の羽。全員それぞれの好みか、もしくは綾の独断で決められた仮装ではあったが、そんな未夢と彷徨を見た三太は開口一番、

「それって、何も知らない純真なお嬢様天使を誘惑しているホストっぽい悪魔ってかんじだよな?」



 パーティー序盤から血の雨が降ったのだった。



 それにしても……
「みんな、風邪ひかないかなぁ」

 未夢の困り顔を受け、ワンニャーがのほ〜んと立ち上がった。

「さすがの皆さんも、このままじゃ風邪を召されますでしょうし、毛布でもかけておきましょうか」
「そうだね。でも、人数分あったかなぁ」
「男性・女性でかたまってもらって、ありったけの毛布とお布団で対応!いかがです?未夢さん」

 きらーんとどこぞのヒーローのようにポーズを決めて、ワンニャーが言う。

「かたまってもらうって言っても、起こすわけには…」
「ですよね…」

 そんな二人の視線が、ルゥに向く。

「きゃーい!」

 ぶーんと、勢いよくみなの体が持ち上がり、心なしか「どさっ」と音がして、望・三太組、クリス・ももか・綾・ななみ組に分けられた。…が、微妙に、ななみの突っ込みチョップが三太のおでこに入っている気がしないでもない。

「う〜ん、ま、いっか♪ ルゥくん、ご苦労様♪」

 西遠寺の女主人がそういうなら良かろうと、ワンニャーも突っ込むのをやめたのだった。




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「さてと」

 未夢がルゥを抱き上げた。

「ルゥくんはもうおねむの時間だねぇ」
「や!」
「…ルゥちゃま、即答ですなぁ」
「ん〜、じゃ、本でも読んであげる」
「きゃーい!」

 ルゥはうれしそうに両手を挙げると、いそいそと絵本を取りに行った。






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