12月のLove song

作:英未


※李帆しゃんのHP「Little Magic」クリスマス企画(2002年)参加作品を、タイトル変更及び加筆修正しました。

※変更したタイトル「凍える夜にはそっと名前を呼んで……」から、「12月のLove song」にタイトルを戻しました。(2004.12.12)

〜*〜*〜*〜*〜*〜

 「12月のLove song」(by Gackt)をイメージして書きました。




 クリスマスがせまったある日、三太から電話が入った。

「彷徨〜、今日の夕方、イルミネーション見学ツアーやろうぜ?」

「なんだよ、それ」

「ほら、クリスマスが近いから、あちこちでチカチカ光ってるじゃん! 皆で見に行こうよ〜」

「なんでわざわざ見に行かなきゃならないんだよ?」

「いいじゃん、クリスマス気分を味わおうって企画なんだからさ」

「……うちは寺だぞ?」

「だってさ〜、彷徨、光月さんが転校してから、さびしそうな表情(かお)してるじゃん」

「え…?」

「光月さんが平尾町に来てから、彷徨、ずいぶん楽しそうに笑うようになったのにさ」

「…………」

「光月さんてさ、明るいしやさしいし、一緒にいると、なんかあたたかくって、元気を分けてもらってる感じがするもんな〜」

「……なんで三太が未夢のこと……」

「だからさっ、彷徨を励まそうと企画したんだっ! 参加者は天地さんに小西さん。光ヶ丘と花小町さんは、悪いけど誘ってないんだ。なんだか大変なことになりそうだからさ…」

「……おい、三太?」

「だから来てくれよ! じゃ、5時にOMACHIデパート前でなっ。あ、遅くても7時には解散する予定だから(ガチャッ)」

 あわただしく電話を切られ、彷徨は深いため息をついた。

(人の話、全然聞いてないな…)



〜*〜*〜*〜*〜*〜



 冬の5時は、うっすらと暗くなり始める頃で、街のイルミネーションがだんだん映えてくる。そんな中を、カップルや家族連れが楽しそうに行き交っている。彷徨はOMACHIデパートの前に来ると、キョロキョロと辺りを見回した。視界の中に、派手に手を振る三太が見えた。

「悪い、遅れたか?」

「平気だよ。天地さんも今来たとこだし。それに、小西さんは俺が頼んだ用事でちょっと遅れるんだ」

「黒須くんの頼み事って、時々すごいよね〜」

 含み笑いをして、ななみが意味ありげに言う。

「三太が頼み事? 小西に?」

「綾も私も頑張ったよ〜。西遠寺くんにほめてほしいくらい」

「……オレに?」

 彷徨には、なんのことだかさっぱり分からない。

「ちょっとね、彷徨にプレゼントを用意したんだ。これがまたすごいんだぜっ!」

「……『豆腐人間名曲集』とか?」

 ぷーっ とななみが吹き出す。

「西遠寺くん、いいカンしてるねーって言いたいとこだけど、ハズレ! あ、そうそう、綾から伝言があったんだ。『早く私を見つけてね』だって」

「……なに、それ」

 ニヤニヤと、三太とななみが笑う。

「なに企んでるんだ?」

「「えー? 企んでなんかいないよー!」」

 ねぇ!と三太とななみが目を合わせる。

(むちゃくちゃ企んでるじゃん・・・)

 彷徨のためとか言いながら、実は別の理由で自分は呼ばれたのかもと、彷徨は深いため息をついた。



〜*〜*〜*〜*〜*〜



「あ、ほら、西遠寺くん! ため息なんかついてる場合じゃないよ〜」

 ななみが通りのむこうを指差す。そこでは、綾が手旗信号らしき動きで何かを伝えようとしていた。

「え〜、なになに、じゅ・ん・び・お・っ・け・い ……黒須くん、準備OKだって」

(なんであんな動きで分かるんだ?)

 彷徨がつっこもうとしたその時、三太が右手を勢いよく振り上げて、通りのむこうまで通る声で叫んだ。

「よっしゃー!」

「なっ、なんだよ?」

 びっくりする彷徨に、ななみが通りのむこうを見るように促す。

「ほら、西遠寺くん、目を凝らしてとくとご覧あれ〜!」

(え……?)



 綾の隣で、こっちに手を振る人がいる。



「まさか……」



 驚く彷徨を見て、三太とななみはニヤニヤ笑っている。

 そうこうしているうちに、綾たちが通りを渡ってきた。段々近づいてくるその人に、彷徨は信じられないといった目を向けていた。



「彷徨!」



 手を振って、その人が彷徨の名前を呼ぶ。



「……未夢?」



 思わず、彷徨は一歩踏み出した。その時、綾が高らかに叫んだ。

「西遠寺くーん! 受け取って〜〜〜」

 とん、と背中を押され、それが合図だったかのように、未夢が駆け出す。

「彷徨っ」

 もう少しというところで、未夢の体がぐらりとよろめいた。

「きゃっ」

「未夢っ!」

 とっさに彷徨は未夢の体を抱きとめる。思わず、彷徨の口から深い安堵のため息がもれた。

「ナイスキャッチ! 彷徨っ!!」

 三太の声援(?)に苦笑いしながら、彷徨は未夢の存在を確かめるように抱きしめた。そして、また深くため息をつくと、いたずらっぽく未夢に話しかける。

「未夢、あいかわらずそそっかしいな」

「なっ、なによっ! 久しぶりに会ったのに、最初の台詞がそれ?」

 くっくと彷徨は笑いを押し殺した。
 未夢の顔を見なくても、どんな表情をしているのか、彷徨には手に取るように分かる。

「そんなところも相変わらずだよな」

 思わず未夢の顔がほころぶ。
 全然変わらない彷徨の言い草に、未夢はうれしさを隠せなかった。


「彷徨、彷徨……」


 未夢がぎゅっと彷徨に抱きついた。
 何度も何度も名前を呼んで、これが夢ではないことを確かめる。

 名前を呼ばれるたびに、未夢を抱く彷徨の腕に力がこもる。
 名前を呼ばれるたびに、彷徨は、心の中にあたたかさが広がっていくのを感じていた。

「未夢にオレの名前を呼んでもらうのも、久しぶりだな……」

「私も、彷徨に名前を呼んでもらうの、久しぶり……」

 安心しきった表情で、未夢が答える。



 夕闇に染まった世界の中で、お互いのぬくもりが、夢でないことを確信させる。



 まるで時間が止まったかのように、二人はそのまま動かなかった。





〜*〜*〜*〜*〜*〜





 コホン と咳払いが聞こえ、はっと、二人は聞こえた方を振り返った。

「感動の再会の途中で悪いんだけどさ」

 三太が言いにくそうに切り出す。

「場所、変えようぜ?」

「そうそう、ここじゃ目立って仕方ないし……」

 ななみが、やれやれというように言う。

「二人とも、周りが全然見えてないみたいだし……」

 綾も、熱心にメモを取りながら言う。

「この人ごみの中で、西遠寺くんは未夢を離そうともしないし……」

「未夢ちゃんも西遠寺くんにしがみついたままだし……」

「彷徨、見てるこっちが恥ずかしいよ……」

 三太たちの言葉に、彷徨と未夢は我に返った。見れば、行き交う人たちが皆、自分たちを見ている。

「え……?」

「う、うそ……」

 二人の反応に、三太たちは額に手を当てた。



「ダメだ、こりゃ……」



〜*〜*〜*〜*〜*〜



「それにしても、久しぶりだねー、未夢!」

「未夢ちゃん、元気にしてた?」

 近くの公園に場所を移して、女の子同士、話に花が咲く。
 そんな様子を見ながら、彷徨は三太の気遣いに感謝していた。

「ありがとな、三太。」

「少しは元気が出たか?」

「ああ、もうこれ以上ないくらい。…って、未夢の前じゃ絶対言えないけどな」

「そっか、企画したかいがあったよ〜」

 ヘラヘラと三太が踊り出す。
 そんな三太が目に留まったのか、ななみが大声で笑いだした。

「黒須くん、なに、その踊り!」

「はーい黒須くん、そのままそのまま! すぐメモ取るからねっ」

「もう、三太くんも、ななみちゃんも、綾ちゃんも、相変わらずだね〜」

 楽しそうに未夢が笑う。
 つられて彷徨も笑った。



「西遠寺くーん、未夢って相変わらずかわいいよねー!」

 と、ななみがぎゅっと未夢を抱きしめる。

「西遠寺くーん、未夢ちゃんってホントかわいいよね〜」

 と、今度は綾がぎゅっと未夢を抱きしめる。

「あ、いいないいな、次俺ね!」

「なんでおまえが未夢に抱きつくんだよっ!」

「おっ! さすが人前で堂々とラブシーンをやってのけた人! 言うことが違うね〜」

 ここぞとばかりに三太が彷徨をからかうと、綾もななみも三太の援護に入る。

「ほらほら、未夢、ちゃんと西遠寺くんの隣にいないとダメだよ〜」

「未夢ちゃんに会えて、西遠寺くん、とってもご機嫌なんだから」

「私たちに感謝したくなったでしょ〜? 西遠寺くん??」

「まさか、あんなに堂々とラブシーンやってくれるとは思わなかったから、メモの取りがいがあったわ〜」

「俺、彷徨ってああいうこと苦手なんだと思ってたけどさ」

「相手が未夢だと自然にできるんだねぇ」

「今度の主人公は、西遠寺くんがモデルで決まりよねっ」

 盛り上がる三人に、彷徨と未夢は赤くなる一方だった。


(た、確かに感謝はしてるけど……)

(みんなには本当に感謝してるけど……)

((この企画って、自分たちが楽しむつもりだったのかも……)))


 でも、みんなの気持ちがうれしい。

 彷徨の様子を気遣ってくれた三太。
 未夢の様子を気遣ってくれた綾とななみ。

 離れてしまった二人が自然に会えるようにと、いろいろ骨を折ってくれた。



((ありがとう))





〜*〜*〜*〜*〜*〜





「そろそろ時間だし、この辺でお開きにしようぜ?」

 時計を見ながら、三太が皆をうながした。

「光月さん、荷物は駅?」

「うん、ロッカーに入れて来た」

「じゃ、彷徨、駅に寄ってから帰るように!」

 ビシッと三太が親指を突き立てる。

「未夢、荷物って……」

 まさかというように、彷徨が問いかける。

「西遠寺くん、わざわざ未夢を呼んどいて、このまま帰らせるわけないでしょ!」

「そうそう、未夢ちゃんは、今日は西遠寺にお・と・ま・り!」

 本当に? と見つめる彷徨にむかって、未夢はゆっくりうなずいた。

「明日は日曜日だし、泊まってきていいってママたちが…」

「よかったな、彷徨」

「未夢もよかったね」

「私たちは、明日未夢ちゃんとゆっくり話をするとして…」

「今日のところは、彷徨が光月さんを独り占めっ!」

「お、おい…三太……」

「邪魔者はこれにて退場〜!」

「おやすみ〜!」

「西遠寺くん、未夢ちゃんをよろしく〜!」

「ちょっと、綾ちゃん! ななみちゃん!」

「おい、三太ってば!」


 とまどう二人を見て見ぬ振りをして、三人はあざやかに去って行った。

「ちぇ〜、俺だけじゃん、光月さんに抱きついてないのって…」

 という三太の台詞を残して……


(だから、なんで三太が未夢に抱きつくんだよ……)





「行っちゃったね…」

「あいつら、人の話を全然聞いてないよな…」

「相変わらずだね〜」

 くすくすと笑う未夢を見て、彷徨の心は、更にあたたかくなっていた。

「じゃ、帰るか」

「うん、西遠寺にね」

 にっこりうなずくと、未夢はふいに彷徨の腕をつかんだ。

「未夢?」

「ほら、雪……」

 見上げた空から雪が舞い降りてくる。

「三太くんたちからのプレゼントかな……?」

 あははっと彷徨が笑い出す。

「三太って、名前の通り、サンタクロースかもなっ!」

「きっとそうだよ。私たち限定の、ね?」



 だんだん二人の距離が近くなる。



「未夢……」

 彷徨が、未夢の耳元で、そっと何かをささやいた。
 目をみはる未夢を見て、彷徨はもう一度その言葉をささやく。
 花が開くように、未夢が笑う。
 そんな未夢を見て、ますます彷徨の表情がやさしくなる。

 そして、二人は寄り添って歩き出した。
 互いの名前を呼ぶ白い息が、二人を取り囲むようにして消えていく。

 

 舞い降りる雪が、聖夜の星のように、二人の周りできらめいていた……






 
 一年前から、私は豆腐人間に注目していたのか……(^^ゞ あなどれん(笑)

 そう、一年前、Gacktさんのこの曲を聴きながら書いたんですよね。普段は自分の小説を読み返すなんて、こっぱずかしくてできないんですけどね(^^; でも一年前だしな〜とチェック入れてみたら、冷汗ものでした(T-T)
 とりあえず簡単に手直ししてみましたが、いかがなものでしょう。お楽しみいただければ幸いです。

 ちなみに今年は小林桂さんのクリスマスソングを聴こうと思いつつ、なぜかガンダムSEEDコンプリートベストを聴きまくっています(^^ゞ でも、そろそろガンダムWの「Endless Waltz」を見ないとねぇ。買ってから半年は軽く経っている(ぉぃ) さらに、しーばしゃんの影響か、ガンダムWはひそかにマイブーム(笑) だんだん、壊れてきていますね、私(T-T)




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