作:英未
青天を見上げて揺らぐ秋桜 宇宙の夢を未だ見果てぬ
秋晴れの空を見上げるように、西遠寺の庭先にコスモスの花が咲き乱れている。
さやさやと通り過ぎる風が心地よい。
「きれいな花ですね〜。何ていう花なんですか?」
縁側でみたらし団子をほおばりながら、ワンニャーがたずねた。
「『コスモス』っていうのよ、ワンニャー」
「コスモスですか」
「『宇宙』っていう意味だよな」
いつしか並んで縁側に腰掛けていた未夢と彷徨が応じる。
「宇宙・・・ですか」
「うちゅ?」
ワンニャーを真似てルゥが話しに入ってくる。
「もしかして、流れ星の正体はコスモスだったりしてー!」
宇宙の欠片(かけら)なんだよねっ!と未夢とルゥが顔を見合わせて笑う。
「バ〜カ。なんで流れ星の正体がコスモスなんだよ?」
「もうっ、彷徨って夢がないんだからっ。ねぇ、ルゥくん」
「きゃい!」
再び未夢とルゥが顔を見合わせて笑う。
「悪かったな、夢がなくて。でもすさまじい夢を見てるよりマシだと思うけど?」
そんなやりとりをコスモスが楽しげに見ているようだと、ワンニャーは思った。
「きっと、やさしい花なんですね」
『宇宙』という意味をもつ花。
同じように宇宙から来たのかもしれないというところが、自分たちに似ている。
コスモスを見ていると、なんとなく親しみと安堵感を覚えた。
「やさしい花なんだよ」
未夢がそっと答えた。
「きっとね、コスモスってメッセンジャーなのよ」
(何をまたイキナリ・・・)というように、彷徨は未夢を見た。
ワンニャーとルゥも、意味がわからず首をかしげて未夢を見る。
「もしかすると、彷徨のお母さんにお願いされたのかも・・・」
未夢が空を見上げた。つられて、皆、空を見上げた。
「うちのママが言ってたの。彷徨のお母さんは、ママより先に宙(そら)のかなたへ行ってしまったって・・・。でもね、彷徨のお母さんは、『地球のことは私にまかせて』って、うちのママをはげましてくれたっていうから、きっと彷徨のお母さんの想いがコスモスになって、宇宙から地球に来たのよ」
うまく言えないけど、とにっこり微笑んだ未夢は、皆の目にやさしいコスモスの花そのものに見えた。
「ロマンティックでしょ?」
「未夢さん、わたくし感動いたしました〜」
そうでしょ?と笑い合う未夢たちを見ながら、彷徨は母の言葉を繰り返していた。
『地球のことは私にまかせて』
(あり得ない・・・)
未夢が言うような事は、現実にはあり得ない。
けれど、母の想いは今も生きている。
未夢の中で、未夢の母の中で、そして自分の中でも・・・。
この地上に咲く宇宙の欠片(かけら)たちは、自分の母だけでなく、宙(そら)のかなたへと旅立って行った人たちの、やさしい想いを伝えに来たのかもしれない。
(・・・と思えてくるところが未夢に影響されてるかも)
まいったね、というように舌を出したところを、目ざとく未夢に見つけられてしまった。
「ちょっと! 彷徨、バカにしてるでしょ!」
「してない、してない。めずらしくしてないぞ〜」
「めずらしくって、どういう意味よ!」
「言葉のとーり☆」
「やっぱりバカにしてるっ!」
未夢の抗議を背中に受けながら、彷徨は笑って淡いピンクのコスモスを摘み取った。
「ちょっと! 彷徨ってば!」
追いかけてきた未夢に、摘んだコスモスを差し出す。
「やるよ」
「え? ///// 」
「バカにしてないしょーこ☆」
背中越しにペロッと舌を出して、彷徨は縁側に戻って行く。
「未夢、早く来ないと、みたらしだんご、ワンニャーが全部食っちまうぞ」
「え? ま、待ってよ///// 」
コスモスのように頬をピンクに染めながら、未夢が追いかける。
さやさやと、コスモスが微笑むように揺れた。
ちなみに、その頃のワンニャーは・・・。
「は〜、ルゥちゃま、わたくし幸せです〜〜〜〜〜
老舗和菓子みたらし堂の高級すぺしゃる団子・1日限定50本のうち、10本も食べてしまったんですから〜〜〜〜〜」
「うそっ! 全部食べられてる!?」
「1人3本は確実だったのに」
「わんにゃ、めっ!」
「はっ、はあぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜、
ワタクシとしたことがぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜、
有能なシッターペットなのにぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
イメージまるつぶれです〜〜〜!と嘆くワンニャーに、二人はため息をついた。
「・・・やっぱり『花より団子』ですか」×2
「あい!」
そんな様子を、コスモスがやさしく見つめていた。
庭先で瞳(まなこ)を揺らす秋桜 やさしい想いを宇宙(そら)より伝えん
イメージ:「星空につつまれて」・「やさしい気持ち」by東儀秀樹
昨年の10月に書いたストーリーですね。
コスモスは好きな花のひとつです(^^) 東儀秀樹さんの曲を聴きながら、彷徨のお母さんの「つつみこむようなやさしさ」を書いてみたいと思いました。皆様に、そんな気持ちを感じていただけたら嬉しく思います。