作:山稜
消えた命は、戻りはしない。
壊れたガラスが二度と元に戻ることのないように ・ ・ ・ 。
でも、だからこそ、今度はおまえを守る。
あのとき、おまえを守れず、どんなに後悔したことか。
もう、あんな想いはしたくない。
だから、まっててくれ、今すぐおまえの所に行くから ・ ・ ・ ・ 。
「さあ、消えるがいい。今度は、魂ごと ・ ・ ・ 。」
本条の剣を必死に押し戻そうとしていた未夢の力が抜けていく ・ ・ ・ 。
『未夢さん、彷徨さん、10年後、 きっとこのタイム・カプセル開けましょうね。』
『そうね、ワンニャー。』
『オット星は遠いけど、いつかまたきっと会えるよな。』
『だぁ!』
(そして、別れた後、彷徨と結婚したわたしたちの所にルゥくんたちは戻ってきて、一緒にタイム・カプセルを開けた ・ ・ ・ 。
そして、さらに10年経った後、ルゥくんはももかちゃんをつれて、オット星に帰っていった。)
『それじゃあ、パパ、ママ。ももとオット星に帰るね。』
『ああ、ワルワル団の、時空のひずみコントロール装置が完成してよかったよな。おかげで、いつでもこっちにこられるようになったんだろ?』
『うん!それじゃあ、また。仕事が休みになったら来るからね!』
(ルゥくんたちのためにも、負けるわけにいかないのに ・ ・ ・ ・。)
「霊縛!」
「うっっ!!」
青白く光る数珠のようなものが、本条の体にまとわりつき、その動きを押さえ込む。
声のしたほうを振り向くと、そこには彷徨と未宇が立っていた。
「ど ・ ・ ・う ・ ・ して ・ ・ ・ ・ ?」
『いいから、早く本条を倒せ!今は、なんとか押さえ込めているが、長くはもたないぞ!』
ふらりと立ち上がり、本条の胸を貫いた。
それと共に、彼の体を覆っていたどす黒いオーラが消えていく。
「くそっっ、だが、まだあきらめない。最後の力で、おまえを ・ ・ ・ ・ 。」
「聞いて。これは沙希さんから預かった指輪よ。これには、彼女の最期の想いが込められているわ。」
そういうと、指輪を本条に渡した。
指輪から、沙希の想いが彼に伝わっていく。
『 ・ ・ ・ そう、あの人がそんなことを ・ ・ ・ 。 ここにいれば、いつかあの人やレンに会えると思っていたんだけれど、わかったわ。 わたし、逝くべきところにいくわね。
あの人に、伝えて?
わたしは、たとえ、肉体が消え、魂がどれだけ離れていても、あなたを愛している。
わたしの、本条沙希の愛する人は、貴方だけだって・ ・ ・ ・ 。』
「さ ・ ・ ・ ・ き ・ ・ ・。」
沙希の想いを受けて、彼の中に残って いた邪悪な力が完全に抜けて、普通の人間に戻った。
「あなたの魂は浄化された。これで、 三つの選択のうち、どれかを選ぶことができる。
死を受け入れて、天国にいって再生の ための準備をする?
それとも、現世の人間を一人、呪い殺す?
それとも、霊となって現世に留まる?」
「俺は、自分自身を呪う。そして、地獄へいく。
今更、天国になんて行く気にはなれない。
レンだけを地獄においておくのはかわいそうだしな。」
「いいの?それで。」
「ああ、地獄で、沙希の幸せを祈るよ。」
未夢が、うらみの門の扉を開く。
「さあ、おゆきなさい。」
本条は、燃え盛る炎の道を渡って、地獄へと消えていった。
「隼人ね?彷徨の中にいるんでしょう?」
『ああ、おまえが危ないのがわかったけど、俺だけの力ではここに戻れなかったから、未宇ちゃんたちの力を借りた。』
隼人の魂のこもったブレスレットをはずし、未夢に渡す。
すると、彷徨の体から、隼人の気配が消えた。
「だめよ、まだこんなところに来ては ・ ・ ・ ・ ・」
「俺は、今度こそおまえを守りたかった。それに、もう一度会いたかったんだ。」
そう言うと、彷徨は未夢の体を強く抱きしめた。
(こんなに温かいのに、もういない。 この手を離してしまえば、もう・ ・ ・ ・!)
「彷徨、これを見て。」
「これは・ ・ ・ 。」
未夢の手には、かつて彷徨から贈られた指輪が握られていた。
未夢の死後、消えてしまい、ずっと見つからなかったものだった。
「いつまでも、彷徨の奥さんでいたくて、持ってきちゃったみたい。
わたしのことは忘れてなんて言ったのにね。
・ ・ ・ ・ わたしも、気持ちは本条の奥さんと一緒よ。
携帯電話の留守電にも残したように、 たとえ、触れ合うことができなくても、魂がどこにあろうとも、あなたを愛してる。
だから、どんなにつらくても、生きていって。」
「未夢 ・ ・ ・ ・ !!」
「ママ ・ ・ ・ ・ !!」
「ごめんね、未宇。ずっと一緒にいてあげられなくって。でも、ずっと、あなたの幸せを祈っているわ。」
周りの風景がぼやけて、彷徨たちは現世にと戻っていく。
「彷徨、今度ルゥくんたちがきたら謝っておいて?ルゥくんたちの赤ちゃんをみてあげられなくて、ごめんなさいって。」
「ああ、わかったよ。必ず、伝える。」
「 ・ ・じ、西遠寺!しっかりしろ !」
「こばやし ・ ・ ・。」
彷徨が目を開けると、そこには小林が立っていた。
「よかった、心配したぞ。それじゃ、俺は警察に行くよ。 人を殺したのは、事実だからな。」
「ああ、元気でな。」
複雑な顔をして、小林は西遠寺の階段を下りていった。
「さて、疲れたな。お茶にしようか、 未宇。」
「うん!」
「西遠寺部長、常務がお呼びです。」
「ああ、わかったよ。」
あれから、10年の年月が流れ、未宇も来年には結婚が決まっていたが、彷徨は今でも 独り身でいた。
「失礼します、お呼びでしょうか?」
「また、見合いを断ったそうだな。
奥さんが亡くなって、もう10年だろう ?再婚してもいいんじゃないかね?」
「わたしが、妻にするのは、未来永劫、死んだ家内だけです。
こればかりは、たとえ常務のおっしゃることでも従えません。」
「そうか、仕方ない。仕事に戻りたまえ、西遠寺君。」
彷徨は、失礼のなきように、応接室を後にした。
未夢、聞こえているか? 俺は絶対に再婚なんかしない。
俺が心から愛せる女は、おまえだけだから。
オヤジのように、お前だけを愛して生きていく。 だから、もう忘れろなんて言わないでくれよ?未夢。
「も、もう、彷徨ったら・ ・ ・ /////。」
『どうした?顔が赤いぞ?』
「うるさ〜〜い!ほら、次の死者が来たわよ!」
ありがとう、彷徨。 わたしも、ずっと愛してる。
わたしが『未夢』である限り、もしかしたら生まれ変わっても変わらないかもね。
ねえ?彷徨。そしたら、またあなたと 出会ったら、恋をするのかしらね。
そのとき、あなたはまたわたしを選んでくれるのかしら。
それとも、ほかの可愛い子を選ぶのかしらね。
ねえ、彷徨。
終わり
ちょびです。
いやあ、なんかすごく長かったです。話にすると、6話だけなんですけどね。
なんか、やっと終わった〜〜! !って気分です。
書いてる途中、何度も、『未夢を生き返らせたい!!』と思っちゃいました。
自分でこういう設定にしたのにねえ。
未夢が死ぬ話を書きたいと思ったのは、映画を見たせいもあったんですけど、おーりさんのところで、『貴方の思い出を大切に』という話を読んだからなんですよ。 そっちは、プロポーズする直前に、彷徨が死んでしまうんですが、読むたびに、泣けて泣けて、号泣しながら読みました。
ところが、そのうちに、死んだのが、未夢だったらどうかな? なんて思って、この作品を書くことになったんです。
それでは、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
また、新しいお話を投稿したときは、どうぞよろしくお願いします。
ちょびより