離れていても

作:ちょび




もしも、神様が本当にいるのなら、 たったひとつだけお願いがあ ります。

もう、ママをわたしたちから奪わないで。

それが叶うのなら、大好きなお菓子も きれいなお洋服も何もいらないから、だから・ ・ ・ ・




遠くを見ている瞳。 まるで、何かを決心しているかのような ・ ・ ・ 。


「わたし、いくわね。」

未夢は、哀しそうに未宇と彷徨を見つめて、そして何かを振り切るかのように動き始める。

「行くって・ ・ ・ どこに?」
「言ったでしょう?わたしはうらみの 門の門番だと。 おそらく、本条はわざと殺されて、門に向かったのよ。
悪魔を解放し、自分の奥さんを蘇らせるために。」



頭がガンガンする。

何を言ってるの? ママ。
ずっと、ここに、わたしたちの傍にいてよ。
もう、どこにも行かないで ・ ・  ・ ・ !



「いや、いかないで!」
「 ・ ・ ・ 行くな。俺を独りに しないで ・ ・ ・ !」



二人の必死の叫びも、未夢を止めることはできない。
なぜなら、彼女は、自分の務めが何かを十分に分かっているから。
自分がここにいても、もう、二人を幸せにするどころか、かえって 不幸にしてしまうから。



「還るわね、うらみの門へ。
ごめんなさい、彷徨、未宇。なまじ、わたしが戻ってきてしまったために、またつらい思いをさせてしまう。
だから、本当はあなたたちに会うつも りはなかったのよ?
でも、未宇が狙われていると知って、 いてもたってみいられなかったの。」



スゥッと、未夢の姿は消える。



二人は思い知った。
もう、未夢は向こうの世界にいってしまったんだと。
そして、もう二度と戻ってくることはないということを。


「あのバカっっ!!あっさりいきやがって!別れの言葉もいわせてくれずに ・ ・ ・ ・ 。
戻ってこい!俺は、おまえに言いたいことが、まだ山ほどあるんだぞっっ!!」

遥か上空を見上げて、思いつくかぎりの文句を言う彷徨。
未宇は、そんな彷徨を見つめて、ただ 一言だけを口にした。


「ママの、バカ ・ ・ ・ ・  。」




+++


ここは、空よりも遥かに遠く。
未夢が門番を務めている、うらみの門のある世界。


そこに、黒い着物を身に着けた未夢が立っていた。

「 ・ ・ ・ 怒っているんだろうな。彷徨、未宇。
でも、二人に何か言われる前に、戻ってきたかったんだもの。
とても、笑ってさようならは言えそうになかったしね。」



そして、門の前に一人の男が現れる。



「ようこそ、うらみの門へ。 ・ ・  ・ 本条雄一さん。」

そう、そこに現れたのは、先ほど死んだ本条だった。

未夢の予想通り、ここに来るために、わざと彷徨たちにあんなことを言って、自分を殺すよう仕向けたのだ。
今や、イケニエを捧げたことにより、本条は人ならぬ力を身につけていた。


「そこをどけ。 ・ ・ ・ といっても無駄だろうな。」
「ええ、わたしは門番。ここを守るのがわたしの務め。それを放棄することはできないわ。」


本条の手には、レンが持っていた剣。
未夢の手には朱雀剣。



(おねがい、隼人 ・ ・ ・ 力を 貸して。)



本条の体から、邪悪なオーラが噴出し、未夢の動きを封じる。


未夢は本条を睨み付け、必死に応戦しようと構える。
にやり、と皮肉げな笑みを浮かべて、 本条が姿を消す。


「どこ?どこにいっっ ・ ・ ・! !」
「ここだ。」


気がつくと、未夢の後ろに立ち、剣を振り下ろそうとしていた。


あわてて、未夢はそれを受け止めるが、本条の力はレンとは比べ物にならないくらい強かった。
じょじょに、押し戻される。



(もう、だめなの?こいつには勝てないの?わたしは、なんのために、彷徨たちを悲しませてまでここに戻ってきたのよ。 助けて、隼人 ・ ・ ・ !)













『未宇ちゃん ・ ・ ・ 。』




「え?」


ここは、現世の西遠寺。
未夢が向こうに戻った後、未宇たちは まだ空を見上げていた。


「どうした?未宇。」
「パパ、これ ・ ・ ・ 。」


そこにあったのは、隼人が遺したブレスレット。
そのブレスレットから、消えた隼人の声が聞こえてきた。


『未夢が、危ない。このままでは、あいつに魂ごと消滅されてしまう。
頼む、俺を未夢のところに連れて行ってくれ。』

「わたし、行く!止めないで、パパ。」

未宇の肩に手をまわし、静かに答えた。

「俺も、いくよ。そして、今度こそあいつを守る。頼む、おれも連れて行ってくれ ・ ・ !!!」




少しの沈黙の後、隼人が答えた。
『わかった、いこう。そして、未夢を助けるんだ。』



続く


ちょびです。
次回で終わります。
思いおこせば、11月に見た映画がきっかけで、この話を書いて いたわけですが、あきっぽいわたしにしては、ようここまで書いたなって、感じです。
がんばって、最後まで書き上げようと思っています。 どうか、最後までお付き合いくださいね。
ちょびより


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