離れていても

作:ちょび




もしかしたら、わたしの選んだ道は、間違っているのかもしれな

い。でも、これは わたし自身が決めたこと。

たとえ、誰に何と言われようとも、後悔なんかしない。




都内、某ホテルの最上階。

「 ・ ・ ・ 大丈夫か、レン。」

「ええ、平気よ。 
・ ・ まさか、あの女が、あれほど強くなってるとは思わなくて、油断したわ。
でも、次は あんな簡単にやられたりしない。」

けがをした腕を手当てしながら、レンはふと、外を眺めた。

「 ・ ・ もうすぐ、沙希が、姉さんが還ってくることができるんですもの。
これくらいのけがで、うだうだ言ってられないわ。」

「 ・ ・ ・ そうだな。俺たちはそのために、今まで力を尽くしてきたんだものな。」

その言葉を聞いた男が、ほんの一瞬、
ふわっと優しい笑顔を浮かべた。





一方、ここ、西遠寺では ・ ・ ・ ・ 。



「 ・ ・ うらみの門? ・ ・ ・ 親父から聞いたことがあるな。
確か、事故や誰かに殺されたりした死者は、『うらみの門』というところにたどり着く。
そこには、門番がいて、死者に三つの選択をせまる。

死を受け入れ、天国へ行き、再生の準備をするか。
現世の人間を、一人呪い殺して、地獄に堕ちるか。
もしくは、霊となって、現世に留まるか。 

 ・ ・ ・ でも、俺はそんなのは、ただのお話だと思っていたけれど、 ・ ・ ・ ・ それが本当のことだというんだな?」


隼人は、彷徨の言葉に頷き、さらに続けた。


「そう。そして、 ・ ・ ここからが、あんたたちが本当に知りたいことだと思うが、ここにいる未夢は、数ヶ月前まで、あんたの奥さんだった人だ。
さっきの二人に殺されて、その後うらみの門の番人になった。」

「 ・ ・ じゃあ、本当に未夢なんだな。
会いたかった ・ ・ !未夢 ・ ・ ・ ・ ・ !!」


言い終わらないうちに、彷徨は、未夢の体を強く抱きしめる。
そして、愛しそうに、未夢の頬に頬擦りした。


「暖かい ・ ・ 。最期に触れたおまえは、冷たくて。
俺、おまえに聞きたいことがあったんだ。
 ・ ・ ・ ・ 俺が、携帯の電源を切っていたせいで、おまえが危ない目にあっていたことがわからなくて、その結果、おまえは死んでしまった  ・ ・ ・  ・ ・ ・ ・ 。
 ・ ・ ・ ・ 俺を、恨んでいるか?」

未夢は、彷徨の言葉に、首を振った。

「そんなわけ、ないじゃない。
 ・ ・ 確かに、彷徨に助けを求めはしたけれど、そのことで彷徨を恨んだりなんかしない。
二回目に電話をしたのはね、あなたがそんなふうに、自分を責めるんじゃないかと思って、最期の思いを伝えたつもりだったんだけど。
 ・ ・ ・ ごめんね、結局、彷徨を苦しめてしまっただけだったね ・ ・ ・ 。」

未夢の瞳から、涙が幾筋も流れ落ちる。

彷徨は、そんな未夢の涙を唇でぬぐった。




「それで、話しを元に戻していいかな ?
さっき、未夢の剣に残っていた、あのレンという女の血液から、記憶を読み取って わかったんだが・ ・ ・ 。
レンには、沙希という姉がいたらしい。そして、その夫が、一緒にいた男・ ・ ・ 。
名前は、本条雄一、32歳。Sコーポレーションの社長。
5年前、沙希が原因不明の病で意識不明になり、彼女を助けるために、魔術の手を染めたらしい。」




もし、俺も同じ立場なら、同じことをしていたかもしれない ・ ・ ・ ・ ・ 。

それで、未夢が生き返るというのならば ・ ・ 。




「とにかく、一刻も早く、あいつらをなんとかしなくちゃね。
これ以上、犠牲者を出すことだけは ・ ・ ・ あっっ! ・ ・ ・  ・ 隼人 、気づいた?」

「ああ ・ ・ ・ ・ ・ 。」

二人は、ほんの数時間前に、自分たちの前に影となって現れ、助言を与えてくれた蘭香の命までも、彼らの手のよって、奪われたことがわかった。



それは、突然の出来事だった。

「たいへんです!お逃げください、蘭香さま!」

そこは、青華教の本部。そこで、蘭香は幽体離脱を行い、未夢たちの元へ行ったのだった。

用意周到な蘭香ではあったが、体に戻るとき、ほんの一瞬だけ隙ができた。
そして、その一瞬、蘭香の結界が弱まったときを狙われ、命を落としたのだ。

本条が、蘭香の弟子たちを倒し、レンが蘭香の心臓を奪う。

絶妙のコンビネーションで、悠々と、目的を果たした。



「 ・ ・ 未夢はここにいろ。俺は、沙希さんに会ってくる。」



「そんな!危険よ!わたしも一緒に ・ ・ ・ !!」

しかし、隼人は首を横に振って答えた。


「だめだ。 ・ ・ そうしたら、誰が未宇ちゃんを守るんだ?
 ・ ・ 本条を止められるのは、おそらく沙希さんだけだ。
だから、おまえはここで待っててくれ。
今日は、もう遅いし、明日にでも会いに行ってくる。」


仕方なく、未夢はそのことを了承した。

だが、後日、そのことを後悔することになるとは、このときは誰も予想すらしていなかった。









都内、Mビルの最上階。



そこに、彼女は眠っていた。まるで、王子の訪れを待つ、眠り姫のように・ ・ ・ ・ ・ 。



隼人は、彼女が入っているカプセルの中に、そっと手を触れた。



『 ・ ・ 君が、沙希さんだね?』
『 ・ ・ ・ あなたは?』

『俺は、隼人。実は、君のご主人が、大変なことになっているんだ。落ち着いて、聞いてくれ ・ ・ 。』







沙希は、冷静に、隼人の言うことを聞き入れた。







『 ・ ・ ・ そう、あの人がそんなことを ・ ・ 。
ここにいれば、いつかあの人やレンに会えると思っていたんだけれど、わかったわ。
わたし、逝くべきところにいくわね。
あの人に、伝えて?わたしは、 ・ ・ ・ ・ ・ ・ だって ・ ・ ・ 。』

『ああ、わかった ・ ・ 。』



沙希は、かつての未夢のように、やわらかな笑顔を浮かべて、遠いところへと旅立っていった ・ ・ ・ ・ 。







「 ・ ・よくも、姉さんを ・ ・ ・ 。」







気がつくと、隼人の後ろにレンが凍りつくよう眼差しで立っていた。


ヤバイ ・ ・ ・ 。今すぐ、こいつを殺らなければ、でも、でも ・ ・ ・ ・ ・ ・ 。



レンの剣が、隼人の胸を貫く。



「 ・ ・ ・ !!!! ・ ・ ・ おまえ、やっぱりかつて門番をしていた、『ラン』だな?
どうして、仲間ともいえる彼女たちを ・ ・ ・ ・ ・ ・ 。」




「わたしは、今のわたしが大切なものをえらんだだけよ ・ ・ ・ 。
誰にも、文句なんか言わせない ・ ・ ・ ・ 。」




続く



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