作:ちょび
俺の名は、小林上総。
某企業、営業一課の平社員。
最近、同僚の西遠寺のやつの様子が、おかしいような気がする。
「おい、西遠寺。」
「なんだ?小林。」
「お前、変わったよな。」
「そうか?」
「ああ、表情がなくなったっていうか、最近のお前を見てると、できのいい人形と一緒にいるような感じがするぜ。
・ ・ ・ ・奥さんが死んだせいか?」
「 ・ ・ ・ そうかもしれないな。」
そう、もともと俺はこういうやつだった。
でも、そんな俺の前に ルゥやワンニャー、そして未夢が現れて、段々と変わっていったんだ。
ルゥたちがいなくなって寂しかったけれども、それでもそのときは未夢がそばにいた。
未夢さえいれば、どんなことでも乗り越えられた。
でも、あいつはもういない。
たとえ、あいつの面影を残した未宇がいてくれても、どうしようもなく湧き上がってくるこの寂しさを埋めることはできない。
「 ・ ・でもまあ、仕事はちゃんとやってるしな。
そんなに気にすることでもないか。 ・ ・まあ、がんばれよ。」
「ああ ・ ・ ・ 。」
未夢、未夢 会いたい。
すごく お前に会いたいんだ。
夢でもいい、現れてくれ ・ ・ ・ !
「 ・ ・ここが、西遠寺か? 未夢。」
「ええ、そうよ。でも、どうしよう ・ ・。いくらなんでも、私がここにいたら、おばけだと思われるだろうし ・ ・ ・。」
その日、未夢と隼人は 現世に舞い降りた。
次の犠牲者となるかもしれない未宇を守り、敵の正体を知るために ・ ・ ・ ・ 。
しかし、問題があった。
この、西遠寺では、未夢は顔を知られすぎている。
いくら門番でも、変身するような特殊能力は備えていない。
けれども、別行動をして 反対に敵に倒されるようなことはあってはならない。
「 ・ ・ 仕方ない。他人の空似だとごまかすしかないかぁ。」
「 ・ ・ そうだな。」
ハァ ・ ・ ・、と二人してため息をついた。
すると、思い出したように 未夢が話し始めた。
「ねえ。どうして、未宇が次の犠牲者になるってわかったの?」
隼人は無言のまま、地図をだして、話し始めた。
「 ・ ・ これを見てくれ。
これは、犠牲者が殺された場所に印をつけたものだが、何か気づかないか?」
「 ・ ・ 何かの魔方陣みたいに見えるわね ・ ・。
ハッ、まさか ・ ・ ・ !」
「 ・ ・そう、おそらくその魔方陣に沿って、殺す場所を決めているんだろう。
そして、殺されたものたちの 共通点は ・ ・。」
『全員、前世でうらみの門の門番をしていた ・ ・。』
そのとき、二人の前に、若い女が現れた。
しかし、その姿は幻のように 透き透っていた。
『 ・ ・私は、青華院 蘭香。青華教の教祖をしている者です。
・ ・ 私は、あなたがたが何者か、すべて知ってます。
なぜなら、私も かつて門番をしていて、その頃の記憶を持ったまま、生まれてきたから ・ ・ ・。』
「 ・ ・ なぜ、私たちがここにくると?」
『それは、私の予知能力の」せいです。
何が起こって 誰が死ぬのかも 全て知っていました。
・ ・ ・あなたを守ろうとしなかった私が憎いですか?』
すると、哀しげに未夢は微笑んで答えた。
「 ・ ・いいえ。でも、未宇を守るのに協力してくださる?」
蘭香は少し考えて。
『 ・ ・ 私がそこに行くことはできませんが、これを。』
見ると、蘭香の手に 小さな水晶玉が現れた。
『それを持っていれば、護符代わりにはなると思います。
とりあえず、それを彼女に与えておいてください。』
そんな二人を見て、呆れたように隼人がつぶやいた。
「 ・ ・まったく、あいかわらずだな。門番だった頃からそうだったもんな。」
ちょうど、そのときだった。
「きゃあああ ・ ・ ・!」
「 ・ ・ !未宇の声!」
二人は急いで、声のしたほうに向かった。
そこは、本堂の前。
若い男女に未宇が襲われていた。
未夢たちは、見つめあってうなずくと、呪文を唱えた。
「我は、うらみの門番、未夢。冥府の、ハデスの名において、未夢が命ずる。出でよ!神剣 朱雀。」
「我は門番の守護者として、永劫の時を生きる者。冥府の神、ハデスの名において、隼人が命ずる。出でよ!光陽剣。」
その時、二人の手が輝き、未夢の手には、赤く輝く剣が、隼人の手には、青白く輝く剣が、現れた。
「「待ちなさい!」」
今まさに、未宇の体を貫こうとしていた女の手が止まり、一緒に いた男も、未夢たちの方お振り向いた。
「お前は ・ ・。そうか、お前が新しい門番か。」
「 ・ ・ ・ ・なぜ、そのことを知っているのかわからないけれど、やっぱり、あなたが私を殺したのね ・ ・ ・ ・?」
すると、男はおかしそうに笑った。
「ハハハ ・ ・ ・ ・。なんだ、覚えてないのか。
お前を殺したのは、ここにいるレンだ。
俺は、心臓を取り出しただけでな。
儀式を行う者は、殺人をするわけにはいかないんでな。」
「 ・ ・儀式って、やはり、悪魔を解放させる気なのね?
そんなことをすれば、この世は地獄と化してしまうのに ・ ・ ・。」
二人の会話を聞いていた未宇は、もうパニックだった。
何なの、この人たち ・ ・ ・。それに、どうしてママがここに?こわい ・ ・ ・ ・!
そうだ、パパに ・ ・ ・。
未宇はカバンから携帯を取り出すと、父・彷徨に電話した。
『はい、西遠寺ですが。』
「パパ?助けて!わたし、殺される ・ ・ ・!」
『 ・ ・わかった!今すぐ行く!西遠寺にいるのか!?』
「うん。」
すぐに行くという言葉を残して、彷徨は電話を切った。
「どうした?西遠寺。」
「悪い。俺、早退する。未宇が大変なんだ!」
彷徨の顔を見て、何かを察したらしく、
「わかった。俺から部長に言っておくから、お前はすぐに行け!」
「ああ、ありがとう。小林。」
そう言うと、彷徨は急いで西遠寺に向かった。
一方、西遠寺では、戦いが始まっていた。
「 ・ ・それで、あくまでも邪魔をすると言うんだな?」
「あたりまえよ!あんなモノ、解放させられて、たまるもんですか!」
そのとき、剣を持った女 ・ ・ ・ レンが、未夢に切りかかってきた。
「 くっ!」
しかし、間一髪で未夢がそれを受け止めた。
「ヘェ ・ ・。前と全然違うわね。
門番になって、少しは強くなったのかしら ・ ・ ・?はあっ!」
再び、未夢を切ろうと、レンの剣が襲ってくるが、未夢はレンの腕を切りつけ、剣を遠くに蹴り飛ばした。
「くっ!」
「レン!」
すると、男の周辺を異様な空気が覆い、二人の姿が幻のように消え去った。
『今は、退こう。だが、必ずイケニエはいただく。
俺は、俺自身の愛のために戦っている。
それを邪魔するというのならば、次は ・ ・ ・ 殺す!」
そして、二人の姿が完全に消えたときに、一人の男がそこに立っていたことに気づいた。
「未宇!無事か!今の、消えたやつらは、一体 ・ ・ ・ ?」
その声に、未夢は内心 ヤバイと思った。
( うそ、彷徨!?どうしよー!! )
未夢が頭を抱えていると、彷徨が近づいてきた。
「娘を助けてくださって、ありが ・ ・ ・!?
み ・ ・ゆ ・ ・?」
彷徨を見た瞬間、未夢の思考が止まった。
身動きできない ・ ・ ・。
どうしよう、ごまかさなきゃいけないのに、言葉がでない。
そんな未夢に、蘭香が話しかける。
『本当のことを、話したらどうです ・ ・ ・ ?』
「え?でも ・ ・ ・。」
とまどう未夢に、隼人も蘭香と同じことを言った。
「 ・ ・仕方がない。俺たちの務めを果たすためにも、二人に 真実を話そう。
お前には、つらいことかもしれないがな ・ ・ ・ 未夢。」
「隼人 ・ ・ ・。」
続く