前夜

作:ちょび




わたし、このままでいいの?

ほかにもやることがあるんじゃないのかな?

彼のことが好きなのには、間違いないはずなのに、この胸のつかえは何なんだろう・ ・ ・ ・ 。






ここは、西遠寺の敷地内にある、未夢の家。

明日、未夢は恋人の西遠寺彷徨と結婚する。

「はあ・ ・ ・ ・ ・。」

未夢は、朝から、いや、一週間前から悩んでいた。

それというのも、親友・ななみのこの言葉だった。


『しっかし、未夢も、よくこんなに早く、結婚する気になったよねえ。
あたしだったら、大学を卒業してすぐ、 ・ ・ ・ ・ ・ なんてやだね。
結婚する前に、もっと、色々やりたいもん。』


(あれからなんだよねえ・ ・ ・ 。結婚するのが憂鬱になってきちゃったのって。どうしよう・ ・ ・ ・。)


「未ー夢ー、いるー?」

そこへ、未夢が悩むきっかけを与えた、張本人のななみが、もう一人の親友・綾をともなって、やってきた。

「今日は、めずらしくこっちにいるんだねえ。西遠寺くんは?」

「ああ、彷徨なら ・ ・ ・ ・ 。」


それは、今日の朝に遡る ・ ・ ・ ・ 。


「未夢、彷徨くんから電話よー。」

「はーい、なに、彷徨。」

『悪い、今日のデートは中止にしてくれ。さっき、部長から急に出勤するようにいわれたんだ。 
俺が進めているプロジェクトで、何か不備があったらしくてさ、取引先の責任者が俺じゃないと、交渉に応じないって言うんだ。だから、悪い!』

「そんな、相談したいことがあるのに・ ・ ・ ・!」

『仕方がないだろ?仕事なんだから。
相談事だったら、明日からいくらでも聞いてやるから!』

「もう、いいわよ!彷徨のばか!鈍感!」

そして、電話を切った未夢はまだ、怒っているのであった・ ・ ・ ・。



「まあまあ、しょうがないじゃない。
で、何を悩んでるのかな?明日から西遠寺になる、光月未夢ちゃんは。」

「な、ななみちゃんたら、 ・  ・ ・ ・ ・ 。」

真っ赤になって、ぶんぶん手を振り回して、近くにあった花瓶を落としてしまう。

「きゃあ!」

「未夢!大丈夫?」

慌てている未夢を座らせて、ななみと綾が花瓶の破片や花を片づけた。




「で、どうしたの?変だよ、未夢。」

「なんでも言ってよ。相談にのるよ。」

「うん、あのね・ ・ ・ 。」

未夢は、少しずつ、話し始めた。

ななみが先週言ったことによって、自分の中に、結婚への不安が芽生えていることを。
朝の、彷徨との会話によって、それがさらに大きくなったことを。


「そう、ごめんね。あたしがあんなことを言ったからだね。でも、そんな深い意味はなかったんだよ?」

「うん、多分、前からそんな気持ちがあって、それがはっきりとした形になっただけだと思うんだ・ ・ ・ ・ ・ ・。」

少しして、黙っていた綾が口を開いた。

「ねえ、それじゃ、未夢ちゃんは西遠寺くんが他の人に盗られちゃっても、いいの?
そうね、たとえば、クリスちゃんとかに・ ・ ・。」

花小町クリスティーヌ。
未夢のもう一人の親友で、彷徨にずっと恋心を抱いていた。
彼女の、彷徨への情熱には、びっくりさせられるものも多かった。



「未夢、もう俺のことが嫌になったんだろ?」

「未夢ちゃん、安心してくださいな。
彷徨くんは、わたくしが幸せにいたしますわ。」

そして、二人の目と目が合う。
やがて、顔と顔がだんだんと近づいて ・ ・ ・。



「ちょっと、未夢?あ〜あ、完全にいっちゃってるよ、この子。」


「そんなの、イヤ〜〜!!!!」


ぱっこ〜〜ん!!!

ななみが未夢の頭をなぐった。

「イッタ〜〜ィ。あれ?あたしどうしてたの?」

「未夢ちゃんたら、いっちゃってたんだよ。クリスちゃんみたいに。
たぶん、西遠寺くんが、未夢ちゃんに別れを告げて、クリスちゃんと結ばれちゃったことを想像してたんじゃない?
そして、最後は二人がキスしようとしてた ・ ・ ・。違う?」

(あいかわらず、鋭すぎるよ。綾ちゃん・ ・ ・ ・。)


「でも、わかった。今のわたしが一番やりたいこと。
それは、彷徨と一緒にいることなんだよね。
ありがと〜〜、ななみちゃん、綾ちゃん。おかげで、吹っ切れたよ。」


二人は、ほっとしたように、微笑んだ。

「よかった、もう大丈夫だね?じゃ、あたしたち、そろそろ帰るよ。」

「明日は、世界一幸せな顔を見せてね。次の舞台のネタにするから!」

未夢は、二人を見送った後、西遠寺の、彷徨の母、瞳の墓に来ていた。


「そうなんですよね、なんで悩んでいたんだろ。
彷徨が好きで、一緒にいたかったから結婚するのに・ ・ ・ ・ ・ 。」

「おい、未夢。」

急いで階段を登ってきたらしく、汗だくになっている彷徨が後ろに立っていた。

「どうしたの?彷徨。」

「どうしたも、こうしたも・ ・ ・ ・。おまえの様子が朝、おかしかったからな。急いで仕事を片付けてきたんだよ。
で、どうした?なんか悩み事か?」

未夢はゆっくりと、彷徨に近づき、ぎゅっと抱きついた。

「/////お、おい、未夢 ・ ・ ・。」

「わたしね、不安だったの。このまま結婚しちゃっていいのかなっって・ ・ ・。」

その言葉を聞いた彷徨が、勘違いしてきつく未夢を抱きしめる。

「 ・ ・ ・ ・ まさか、他に好きなやつができたのか?
許さないぞ、そんなこと。
おまえは、俺だけのものなんだからな。たとえ、イヤだって言ったって、離してなんかやらないぞ。」


(そのときには、無理やりにでも、おまえを閉じ込めて ・ ・ ・ ・。)



彷徨がそんな危ないことを考えているとは露知らず、未夢は本当に言いたかったことを告げる。

「ちょ、痛いよ。あのね、あらためてわかったの。
彷徨とずっと一緒にいたいって。だから、浮気なんて、許さないよ?」

(なんだ、そうか。よかった〜〜、俺の勘違いで。
そうじゃなかったら、未夢にひどいことをするとこだったよ。)


「あたりまえ!俺が結婚したい女は、
世界中で、おまえだけなんだからな?」

いつものように、にやりと笑って、二人は口づけをかわした。


明日は、結婚式。二人が永遠の愛を誓う日。
西遠寺に家族が増える日。



おわり


ちょびです。

えへへ、また書いちゃいました〜〜。

春香さん、よろしくおねがいしま〜〜す。

ちょっと、ブルーな未夢ちゃんを書いてみました。

リーマン彷徨、ちょっとしか出なかったけど、OKでしょうか?

できれば、UPしていただけると、うれしいです。


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