作:ちょび
「おい、西遠 ・ ・ ・ 寺?営業にいくぞ ・ ・ ・ ?」
その日、俺、水戸龍之介の後輩の、西遠寺彷徨は機嫌が悪かった。
「なんですか、先輩。声がうわずってますよ。」
「い、いや ・ ・ ・俺の気のせいかもしれないが、なんか、機嫌悪くないか?」
「そんなこと、ありませんよ。さ、行きますよ!」
思いっきり、不機嫌のオーラを振りまきながら、ふたりはとある病院に向かった。
「さて、こちらの新薬なんですが、使っていただけませんか?」
「う〜ん、そうだねえ。とりあえず、そちらの研究資料を見せてもらえるかな。
おや?貴方 ・ ・ ・ 西遠寺さんとおっしゃいましたよね?もしかして・ ・ ・ 未宇ちゃんのお父さん?」
「はい、そうですが?」
「いや〜、わたしの息子も、桃の木幼稚園に通っているんですが、毎日未宇ちゃんの話ばかり聞かされてましてねえ。
この間も ・ ・ ・ 。」
彷徨は、その話を、どこか遠い目をして聞いていた。
それは、昨日の夜のこと。
「ぱぱ。あのねえ、みう、らいくんにらぶれたーもらっちゃったの。
大きくなったら、けっこんしたいなあ。」
おもわず、飲んでいたお茶を噴きだした。
未夢と宝生は、そんな未宇をほほえましくみている。
「だ、だめだ!そんな、結婚なんて、まだ早い!」
大人の女性になった未宇の隣に見知らぬ男。
未宇は、頬を赤らめて、男を見つめて ・ ・ ・ 。
男の口から、もっとも聞きたくない言葉が ・ ・ ・ 。
『お父さん、娘さんを僕にください。きっと、幸せにします。』
う〜ん、と頭を抱えて真剣に悩む彷徨に、彷徨の言葉に涙ぐむ未宇。
『わ〜ん、ぱぱがおこったあ〜〜。』
おろおろする彷徨に、未夢が助け舟を出した。
「違うわよ。パパはね、未宇がお嫁さんになっちゃたら、さみしいなって、すねてるだけなの。」
「なっ!」
「そうなの?ぱぱ。」
「そうよね?パパ。」
にっこりと、笑ってはいるものの、目だけは笑っていなかった。
そして、その目は『娘を泣かせたくないなら、黙ってなさい!』というものだった。
「あ、ああ、そうだよ。」
「ねえ、ままは、ようちえんですきなこいた?」
「ええ、いたわよ?ママもねえ、未宇くらいのとき、初めてバレンタインのチョコあげたっけ。」
「へ〜、そうなんだあ。」
「はははっ!それで、機嫌が悪かったのか。
で、どっちに怒ってるんだ?未宇ちゃんのボーイフレンドにか?それとも、未夢ちゃんの昔の彼氏にか ?」
「 ・ ・ ・ ・ 両方。」
むすっとして答える彷徨に、苦笑いする龍之介。
「まあ、今日はちょうどバレンタインでもあることだし、帰ったら、聞いてみたらどうだ?
未宇ちゃんだって、今日になったらそんなこと、忘れてるんじゃないか?」
「そうしますよ ・ ・ ・ 。」
そして、その日の夜。
「ぱ〜ぱ。はい、ちょこれーと。」
「え?パパにくれるのか?その・ ・ ・ 雷くんにあげるんじゃ?」
「いいの!だって、らいくんもすきだけど、ぱぱのほうがだ〜〜いすきだもん!」
「だってよ、パ・パ。よかったねえ〜〜。」
「 ・ ・ ・ なんか、あんまり驚いてないみたいだけど?こうなることわかってたのか?」
「わかってたっていうより、わたしの経験かな?だって、わたしが初めてチョコあげたのって、わたしのパパだもん。
そしたらね、すごく喜んで、『みゆぅ〜〜(^^)ぱぱうれしいよお〜〜』てね。」
「な、なるほど ・ ・ 。」
その日、俺の機嫌は急上昇。
次の日、水戸先輩に一日中からかわれることになるが、それでも、気にならないくらい幸せだった。
いつか、本当に未宇を連れて行く奴が現れるだろうけど。
今は、この幸せをかみしめていたい。
おわり
ちょびです。
もし、未宇に彼氏ができたら彷徨パパはどんな反応するのかな?ということで、書いてみました。
また、バレンタイン小説になってしまいましたが ・ ・ ・ 。
みなさんは、どんなバレンタインを過ごされました。
わたしは、今年はあげる相手がいなくて寂しい ・ ・ ・ 。
それでは、また。